11-1. 七夕・夏祭り(1)
ちょっとお久しぶりです!&予定より少し遅れましてすみません。
そして読んでくださり、ありがとうございますー! (感想・ブクマ・応援☆いつも感謝しております!)
さて、今回から夏祭り~♪ の前に…… ジョナスのお手紙 (前章) がどういうことだったのかが入ります。
安定の残念ぶりですが(笑)よろしくお願いします。10回分ほど、毎日更新予定です。
ざぁぁぁぁ…… と音を立てて、広いガラス窓の外を流れ落ちる滝。
滝の下の池では、澄みきった水がきれいに光を反射してる。その向こうは、手入れの行き届いた芝生と、モミの木立。
――― こんな造りだと、家に湿気がたまらないか? (6月半ばからは梅雨で、地下の世界もジメジメしがちだ)
そもそも、なぜ街中にこんなに広いお屋敷が突如現れるんだ? (というか、外から見た限りではここまで広くなかった)
という疑問は、一切取り払わなければならない。
なぜなら、ここはVRゲーム 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 における、侯爵家の邸宅だからだ!
「夏祭り?」
深紅のふかふかカーペットが敷かれ、熱くない暖炉が燃えていて、『シンプルだけど金かかっています』 風な、ウッドのドッシリしたテーブルセットの上には、ピカピカに磨かれた銀のアフタヌーンティーセット。
サックリふんわりした焼きたてのスコーンにクリームとジャムをたっぷり載せたのをほおばって、俺は首をかしげた。
肩には青い手のり竜のカホールが、俺と一緒に首をかしげてくれている。
そして足元には、3匹のもふもふガイド犬たち…… シェルティのチロル、トイプードルのりゅうのすけ、パピヨン犬のアルフレッド。
仲良く尻尾を振りながら、カゴシマ産クロゲワギューの高級骨付きジャーキーに食いついてるのが可愛いし、お菓子は美味しいしで、めちゃくちゃ和むなぁ……!
――― 5月に皆で行ったピクニックの後、ジョナスからたまに、こうしたお茶のお誘いがくるようになったのだが……
エリザが 「予想以上にお堅いわね」 と評した通り、毎回、好意値上位クラスとは思えない生真面目ぶりが発揮されていた。
つまりは毎回もらう手紙には 『○○について話し合いたいので、皆さんと一緒にどうぞ』 とあるだけで、好きだのなんだのという何かとは無縁なのである。
サクラによると 「好意値がよほど高くならない限り、王子への遠慮を突き破れないんでしょうね。さすがにもう、自覚はしているでしょうけど」 ということらしいんだが。
「恒例、7月7日に七夕の儀を兼ねて夏祭りが行われていまして」
眼鏡の細い縁をクイッと中指で押さえて冷静な口調で説明する、そのどこにも、カケラも 『自覚』 なんか感じられない…… ま、俺にとっては有難いことだけどな!
――― 誰も見ていない時を見計らって、廊下で壁ドン (先々週) やら顎クイ (先週) からの 『目を閉じてくれないかい? (苦笑)』 (昨日) やらを本能のままにかまそうとするエルリック王子とは比べ物にならないほどだ、うん。
――― ちなみに、これはエルリック王子のせいというよりは、称号 『ミス学園祭』 の 『恋愛イベント発生率+30%』効果のせいのようだ。
それに加え、王子は学園祭でサクラにフラれ、エリザに婚約破棄を言い渡し、晴れてフリーになった身。
『私たちの間に障害はない』 とか言い切ってグイグイくる。俺のお友達宣言は忘れられてる。確実に。
今のところは、有難いことに、その都度どこからかジョナスやミシェルが現れて未遂だが……。
「夏祭りは街でもしているんですが、王宮の方でもプライベートな集まりをしておりまして。
今年は皆さんをそれに招待しようと王子がおっしゃっていますが、皆様ご都合のほどは」
「サクラの誕生日パーティーなのよ」
エリザが、ツーン、と早速NGサインを出しかけた…… が、あれ?
「エリザ、『そんなの、あたくしの知ったことではないわ!』 とか、言ってなかった?」
「えっ…… ええ、もちろんよ! あたくしの知ったことでは、なくってよ!」
「ですよね」
サクラがティーカップを置いて、クスクス笑った。
――― 恐るべきことに、エリザはたぶん、前にサクラにドレスをプレゼントしたことを忘れているのだ!
そして 『知ったことじゃない』 と言いつつ、実は密かにプレゼント用意しそうな…… それが、エリザという子であるっ!
そういう事態を阻止すべく、俺たちは、前もってある計画を立てていた。
「7月7日はサクラのお祝いも兼ねて街に出よう、ってことになっていたんだけどな?」
そこで、サクラに何か奢ってあげることになっているんだ。
しかし、珍しくジョナスは熱心だった…… きっと王子の差し金だな。
「ですから、サクラさんのバースデーパーティーも、王室の方で用意させていただきます」
「そっか…… 俺は、街のお祭りも気になるんだけど」
「街のお祭りのメインは七夕飾りですから、馬車から見物できるでしょう」
「なるほど……」
断る理由はないし、王宮ってところにも行ってはみたい。
けど、2周目プレイヤーのサクラやエリザは、もう王宮は訪問済みなはずだしなぁ……
「サクラ、エリザ、どうする?」
「私はどちらでもいいですけど…… せっかくのお誘いですから、お断りするのも」
「そうね」
サクラの遠慮がちな意見に、エリザも珍しくすんなりと、うなずく。
「ジョナスがこんなに熱心に誘ってくださるんですものね?」
「私が、ではなく、王子が、です」
「ふっ…… ま、そういうことにしておいて、差し上げるわ?」
扇子で口元を覆い高笑いするエリザにチラリと冷徹な眼差しを送り、ジョナスは 「では。後程、王家から正式に招待状が届きますので」 と軽く頭を下げ、部屋を出ていった。
「あとは皆サマごゆっくり、ということデス」
若干カクカクした物言いで、プレイヤーとの差別化を図っているらしいメイドタイプのNPCが、紅茶のお代わりを注いでくれる。
…… 慎ましい黒い詰襟と長いスカートのメイド服ながら、ムチムチな中身を想像できるタイトめな衣装が、俺としては開発さんを褒め称えたい件。
「ジョナスさんったら、ストイックですね…… 好意値がこれから先、上がるのか心配になってきました」
サクラが、ふぅ、とタメイキをついた。
「まー何とかなるだろ、心配しなくても! それにたぶん、そこそこ上がってるだろうから、いいじゃん」
実は、ここのところ、俺たちはステータスをチェックしていない。
最近は特にイベントもなくて授業ばかりだったのと、エリザやサクラと普通に喋ってたら時間ギリギリになっちゃうのとで、『チェックはまた今度!』 が続いてるんだよな…… この1ヶ月半くらい。
俺としては、授業行って、みんなと仲良くランチして喋って、たまにちょっと遊んで…… という毎日にけっこう満足していて、もはや好意値どうでも良くなってきてしまってるところだ。
しかしサクラとエリザは、その実まだ諦めていなかったらしい。真剣な顔で、首を横に振った。
「そうはいきませんよ」
「ジョナスは基本、王子第一だものね」
腕組みをするエリザ。
「これは最近の噂で本当かは分からないけれど……
王子とジョナスを同時に育てて、ジョナスから王子への熱い忠誠心を聞かされるイベントが発生すると、もうそれ以上ジョナスの好意値は上がらなくなっちゃうらしいのよね」
「恐らく発生条件は、王子とジョナスの好意値が共に高く、なおかつ王子の方がジョナスよりも高い時…… でしょうね」
「ここまできて、それはないわよね」
サクラとエリザが、冷徹なゲーマーの眼差しになっている……!
「「ちょっと、ステータス」」
お見せ、見せてください、と口々に言われて、俺は縮まりながらステータス画面を開いた。
画面①②をササッと飛ばし、③を表示する。
――― チラリと見えた所持金額にエリザが 「相変わらず金欠ね」 とコメントしたのだが、それはまた、別の話だ。
さて、気になる好意値は、といえば……。