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閑話 7~お化け屋敷(14)エリザ・ヴェリノ・チロル~

 上司が奥さんに毒を盛ったことを自白したせいで、激怒(マジギレ) & 狂暴化(バーサク)状態の伊右衛門さん。


 目を血走らせ、凄まじい速さで上司を斬ろうとした……。


 だが、その寸前で。


「ですから、お止めくださいませ、伊右衛門様」


 和服の袖をガッチリとホールドし、刀を止めたのは、奥さんの岩、その人…… 実はなかなかデキるみたいだな。



「そなたを、殺そうとしたのだぞ! この男は!」


「かような者を斬って、伊右衛門様が牢に入れられてしまう方が、わたくしは(つろ)うございます」


「………… わかった」


 刀をしまう伊右衛門。

 ――― よく見れば、上司の方は腰抜かしたままお漏らししちゃってるではないか…… 本当、情けないぜ。

 いや、まぁ、相当怖かったとは思うけどな!


「つくづくクズね」


 どうやらエリザも、ヤツには滅殺飛天烈風炎蹴撃をかます気すら、起こらなくなってしまったらしい。


 拾った小石を、無言のまま、ぽん、と白髪の混じった頭に向かって投げている。


【お漏らしのニオイは、都合上、カットしていますwww】


 チロルがしっぽをユサユサ振りつつ、をんっ、と鳴いたのをきっかけに、伊右衛門が岩に向かって、ガバリと土下座した。



「すまなかった……! (それがし)が上司に忖度して、煮えきらぬ返事をしておったばかりに……!」


「伊右衛門様……! わたくしこそ、一瞬でも伊右衛門様を疑ってしまうなんて……っ!」



 岩もまた伊右衛門に向かって土下座。


 ――― 「「そこは 『立ってください』 じゃないの?」」 


 図らずも被った、俺とエリザの呟きを他所(よそ)に、繰り広げられる、ふたりの土下座ワールド。



「…… (それがし)は本当にダメな男だ…… 上役の肚の内も知らず、薬という言葉を素直に信じ…… 仕官したいなどと望みを抱くから、こんなことに……」


「ようやっと、お気づきになられましたね。あなたさまには、世渡りを上手くなさる才など、ございません」


 あれ。岩さん、頭下げつつ割かしスッパリと酷いこと言ってるぞ?


「伊右衛門様。あなたさまに似合うのは刀よりも、剪定バサミ……」


「なんと!?」


「役人なぞ、辞めてしまいましょう。幸いにも、遠い親戚が、茶畑の世話をするための人手を、探しているのですよ」


「茶、か……」


「お茶のお好きな伊右衛門様にピッタリでしょう?」


 微笑む岩を、伊右衛門がハッとしたように見た。


「…… そうだな。何もこの狭い町で仕官にこだわらずとも、生きていく道はあるな……」


「さようでございますとも」


 うなずきあう岩と伊右衛門。

 きっと、これからはお茶一筋に生きていくことになるんだろう。



「これにて一件落着、ってやつだな!」


「あの上司、結局あのまま、のうのうと役人続けるのかしら」


 周囲が暗くなる中、エリザと言い合っていると、チロルが、をんっ、と吠えた。


【後に彼は、ギックリ腰が持病になり、賄賂を受け取っていた罪で切腹を命じられたそうですww】


「ふっ…… やはりね。ざまを見なさい!」


【ちなみに当時は賄賂は、社会的慣習として容認される傾向がありましたが、彼の更に上役が権力争いしたために、敵方勢力によって犯罪性を強調され…… まぁ、とんだとばっちりですねw 悪役令嬢的なwwww】


「失礼ね。悪役令嬢は、堂々と悪を貫くのよ! 毒を盛る、コソコソ賄賂を受け取る、など小者のすることよっ」


【wwwwwwww】



 場面が変わり、ついたのは人魂飛び交う夜道…… どうやら、室町時代っぽい世界みたいだな。


 琵琶の音も聞こえてこない…… 良かった。あの武士の悪霊に殺されかけたのは、まじに怖かったからなー!



「そうだ、ジョナスが真剣白刃取りしたんだぜ!」


「開発、きっとジョナスで遊んでるのね」


「いや、あれはカッコ良かったぞ。俺もこう、お札をバシッと悪霊の額に貼って除霊を……」


「ふんっ。良かったこと」


 あれ? なんか不機嫌だな、エリザ…… もしかして、エリザも妖怪退治したかった、とか?


「大丈夫だ、エリザ! まだきっと、チャンスはあるぞ」


 何しろ普通に人魂が飛び交う世界だからな! 妖怪くらい、その辺に……


「もうし、そこの、娘さん方……」


「ほうら、出た! ……って、なんだ、お婆さんか。どうした?」


 どこから現れたか、上品で優しそうなお婆さんが、ニコニコと声を掛けてきた。


「夜ももう遅いのに、娘さん方だけで歩くのは危のうございますよ。どうでしょう、我が家にお泊まりになっては?」


「え、お泊まりって、あの 『お泊まり』 か!?」


 そ、それはすごい!


 アニメでは 『修学旅行』 とかに行くと発生するミッションだよな。

『枕投げ』 をしたり 『コイバナ』 をしたり…… 兄ちゃんが観てた、子どもが見ちゃいけないヤツだと、子どもがしちゃいけないコトまでしてたぜ!


 ワクワクするぅ……!


「うんっ、行く行く行く!」


「ちょっと、勝手に決めないでよね」


「どーせ、これもアトラクションの一部だって! 断るよりも、乗った方が早く出られるんだぜ!」


【その通りですwww】


 エリザは不愉快そうだが、チロルは尻尾をわさわさ振って大賛成っぽい。


「お婆ちゃん! お家って、どこ?」


「ほほほほ。すぐ、そこですよ」



 お婆ちゃんについて行ってみれば、藁葺きの一軒家が現れた。

 あれだ、【100年前の貴重映像:合掌造り集落の旅】 で見たやつ!


 すごいなー。こんな所にお泊まりか!


「ふふふふ…… 粗末な所ですが、野宿よりはましでしょう?」


「いや、全然! 風情があるしキレイだよ! ていうか、オール木材とか超豪華!」


 こんなの、リアルでは絶対にお目にかかれないぞ。


 てろりと光る木の床。

 早速、ゴロリと寝転がってみる。


 真ん中には、四角い…… えーと、確か 『イロリ』 って言ったか。

 魚を焼いたり鍋を吊り下げて温めたりする場所だよな、うん。


「落ち着くなぁ……」


「日本の伝統家屋という感じね…… 現れるとしたら、幽霊かしら」


「さぁ? 刀持ったヤツ以外がいいな」


 刀はもう、お腹いっぱいだぜ。


 お婆ちゃんが、 「ほほ……」 と上品に笑った。


「隣の部屋に、お布団を敷きましたよ」


「やった! ありがとなー、お婆ちゃん!」


「ほほ…… 大したことではありませんよ。よくお休みなさい」


「うん、おやすみー!」 「おやすみなさい」 「をんをんをんっ♪」



 口々に挨拶して、布団の敷いてある部屋に入る…… ここからが、お泊まり本番だ。


「エリザ! 枕投げしようぜ、枕投げ! それからコイバナ!」


「…… あなた、コイバナの意味、知ってる?」


「知ってるぞー! 俺はな、みんな好きだ! ハロルド以外。エリザはー?」


「あたくしはっ、べ別にっ、好きな人なんて!」


「そうかなー? サクラとも仲良いし、なんだかんだ言ってミシェルとも楽しそうだよな?」


「…… そんなことより! 枕投げでしょ!」


 ぶん、と枕が飛んできて、顔に当たる。


 …… こっ、これは……!

 適度な衝撃が、癖になるなぁ……!


「やったな!」


 俺も、枕をエリザに向かって思い切り、投げる…… エリザ、胸の前でキャッチ!


「おお! すごいぞ」


「ふんっ…… くらいなさい!」


「およっ……」


「をんをんっ♪」


 避けたところに、今度はチロルが威勢よく跳びつき…… 


 ぱぁん! と枕が弾けた。


「えっ…… うそ」


「強度低すぎでしょ」


 ひたすらビックリする、俺たちであるが。


「とりあえず、謝るか」 ってことになって、隣の部屋に行く…… あれ、いないな?


「何かしてるのか……」


「しっ……」


 不意に、エリザが俺を止めた。



 ざーり…… ざーり……



 キッチンとして使ってるらしい 『ドマ』 の方から、不思議な音がする。



 そっと覗いてみた俺たちは、思わず、息を呑んだ。


読んでいただき、ありがとうございます。


中盤、伊右衛門さんの顛末については、サントリーのお茶ブランドとは一切関係ありませんので、宜しくご了承お願いしますm(_ _)m

ちなみに、上司のその後は創作です。原話では、上司はお岩さんの幽霊出現で錯乱した伊右衛門さんに切り殺されています…… 

が、ほのぼの日常ゲームなので、プレイヤーの目の前での流血沙汰には制限がかかり、直前でステージ転移するように設定されております。

……今回はたまたま、流血沙汰が起こらず最後まで行った場合、ってことですね。

(開発が冗談半分に用意したストーリーです)


では、お風邪などお気をつけてー!

感想・ブクマ・応援☆ いつも大変に感謝感激しております!!

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

バナー制作:秋の桜子さま
― 新着の感想 ―
[一言] お茶をこうもってきましたか。 さすが砂礫様。 これはモッくんもビックリ。
[良い点] なんと、某お茶とは関係がないとな……!? んじゃ、某黄色いサル的ロックバンドにでもなるのですかしら。(なぜ淑女調) ヴェリノがあんまり「刀」「刀」と言うもんだから、これが来ると思ってまし…
[一言] 枕投げ楽しいですよね (*´▽`*) チロルも楽しそうww こ……これは、チロルが刺身にされるのですかね? (;'∀')ww
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