閑話 7~お化け屋敷(9)ヴェリノ・チロル~
昭和っぽい世界からの、タイムスリップ時。
周囲を取り巻く暗闇に向かって、駆け出した俺とチロルではあったが……
「ああーっ、失敗したっ!」
「くぅーん……」
残念ながらトワイライトゾーンに落ちることなく、普通に江戸っぽい世界に、到着してしまった。
そして今、俺の目の前では、牡丹の絵灯籠を持った和装の女の人ふたりが、物凄い恨みがましい顔で、とある屋敷の周りをグルグル回っている (今で3周目くらいだ) のだが。
悪いけど、そんなことに1ミリも興味出ない! 正直なところ、エリザの方が心配過ぎるんだよなー!
このマラソン、早くふたりとも、疲れきって終わってくれないかな? たぶん、それを見守ったら、またタイムスリップできると思うんだけど……。
「もし、そこなお方」
「ぉわっ……!」
気づけば、いつの間にか、和装2人連れのちょっとオバチャンな方が、至近距離からこっちの顔を覗き込んでる。
「めちゃくちゃ、びっくりした……!」
「それは失礼をばいたしました」
丁寧にお辞儀してくれる、オバチャンな方。
屋敷マラソンの時の顔は怖かったけど、こうして見ると、意外といい人なのかもしれないな。
「少ぉし、お願いがありまして……」
「悪い! 俺、今、急いでるんだ!」
をん、とチロルが吠えた。
【お願い聞いてあげた方が、早くタイムスリップできるはずですよww】
「確かに……!」
くすり、とオバチャンな方が笑う。
「なぁに、お手間は取らせませぬ。この屋敷の扉に貼ってあるお札を、ほんの1枚、剥がすだけ……」
「それって、危ないやつなんじゃ!?」
「お嬢様のおため、ひいては新三郎様のおためでございますれば…… 切にお願い申し上げまする……」
好いた相手と添い遂げること以上に、この世に幸せなことがありましょうか…… などと主張されては、断りづらい。
けれども、なんだか、ダメな感じが凄いするなー!?
「なに、タダとは言いませぬ。お礼ならば、お望みのまま……」
「ほんと!?」
「えぇえ、本当ですとも」
「じゃあ、トワイライトゾーンに送って貰えたりもできる?」
「ほほほほ。お安いご用でございます」
「よっしゃあ! 絶対に約束だぞ!」
だったら、断る理由はないな!
べりっ。
俺は戸口に貼ってあったお札を、勢いよく剥がした。
その瞬間。
「やれ嬉しや、新三郎さまぁぁぁ……新三郎さまぁぁ!」
それまで一言も発しなかったお嬢様が、やたらと新三郎を連呼しつつ屋敷の中へと駆け込んでいき、やがて。
新三郎さんとお嬢様はしっかりと抱き合ったまま、天に昇っていったのだった……。
「って、どうしよう俺! もしかして、新三郎さん幽霊化に加担しちゃったんじゃ!?」
【wwww 心配ありませんwwww どっちみち、VRですからw】
「それ、慰めになってねぇぇぇ!」
VRは分かってるんだ!
だけどなー!
この罪悪感、どうしてくれようっ!?
【wwww 後で運営にご意見でもされたらどうでしょうwwww】
「あー、そうだな……」
チロルなら、そう言ってくれると思ったよ…… うん。
「ほほほほほ」
その場にまだ残っていた、オバチャンな方が、 「助かりましたぞえ」 と、両手を俺に向かってかざした。
「約束通り、望みの地へ、そなたを送ってあげましょう……」
途端に、周囲の景色がぐにゃぐにゃと歪んだ。
「オェぇぇぇ……! 気持ち悪い……っ!」
「ほほほほ…… 強く、想い人を念じるのですよ……」
オバチャンな方の声に従い、俺は強く、念じてみる。
――― エリザに、会いたい!
いつの間にか、ぐにゃぐにゃは治まっていて、その代わり俺は、 『いかにも電脳空間』 ってイメージの、数式やら、よくわからない文字列やらが縦横ナナメにズラズラと送られてくる空間の中にいた。
そして。
「えいっ、もぅっ、鬱陶しいわね! …… ふんっ! このあたくしに、勝てるとお思い!?」
どこからか、聞き慣れた、高飛車な声が響いてくる。
――― 一体、どこからだろうなー?
キョロキョロと辺りを見回す間にも、何やら戦っているらしい声が聞こえてきて、焦ってしまう。
「えええい! 烈・光・殲・滅・斬……っ!」
――― エリザ。なんなんだ、その技は。
か っ こ い い じ ゃ ね え か っ !
前半のネタは牡丹灯籠です。
…… 剥がしちまったけど…… いや、作者的にはあれハッピーエンドだと思ってるんで…… (爆&言い訳!)
というわけで、長いですが今週いっぱいくらいは、まだ閑話お化け屋敷編です。
宜しくお願いしますー!m(_ _)m
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