閑話 7~お化け屋敷(7)ヴェリノ・ジョナス~
「おわぁぁぁぁあっ!?」
振りかざされた刃。
情けないことに、怖くて身体が動かないぞ……。
ぎゅっと目をつぶるしかない、俺である。
――― もう本当に何なの、このお化け屋敷!?
怖いシチュエーションが殺される時だけって、悪趣味すぎない!?
(人体模型のマナブくんも怖かったけど)
ここで斬られてバッドエンド迎えたら、運営に絶対、文句言ってやる……!
が。
その瞬間は、いつまで待っても来なかった。
「…………?」
おそるおそる、目を開けた俺が見たのは……
ジョナスの、後ろ姿。
魔王でも、シーンによっては、めちゃくちゃ頼りになるように見える…… って、初めて知ったぜ。
「あれは、真剣白刃取り……!?」
なんとジョナスは、武士の刀を、両手で挟んで受け止めていた。
まさか目の前でこんな技が見られるとは……!
「ジョナス、すごいな!」
「当然の嗜みです」
「なワケないじゃん!」
「それより、内ポケット探って悪霊退散の札を出してもらえませんか?」
どこまで準備いいんだ、とツッコミ入れれば、きっと 『王子のため』 と言われるんだろうな (確信)。
というか、武士の悪霊より、氷の魔王の懐探る方がもうちょい怖い件!
「早くしてください」
でも、もし探らなくても、その 『めちゃくちゃイライラしてます』 と言いたげな眼光で即、石化されそうだ。
「…… じゃ、失礼します…… 」
悪霊とジョナスの間に入り、内ポケットをゴソゴソする。
まず手に当たったのは、ハンカチ、爪切り、小さい缶…… 裁縫セットだな。そして小型のハサミ。
よくこれだけ入ってて、上着がボコっとしないな?
「そこじゃなくて、札はその上です」
「先に言ってくれよ!」
「すみません。あなたが察しが悪いのを失念しておりました」
もう1つ、上についているポケットを探ると、確かに何か紙切れが手に当たる……
「これか!?」
引き抜いた札には 『交通安全』 と書いてあった。
「これか!?」
次のは、『良縁祈願』 だった。
「これかっ……!?」
今度こそ、と見れば、その札に並んでいたのは 『火災除守護』 ……
「早くしてください!」
「あんたが色々入れすぎだからだろうがっ」
えええい、もうこうなったら!
ずらっ、と札を引き抜く。
なんか、アニメの 『妖怪バスター』 みたいなのになった気分だな!
臨兵闘者、皆陣烈在前っ……! なんてねっ
「早く……」 「わかってるって!」
後は、札を順に繰り、 『悪霊退散』 を探すのみ……!
「あったっ…… これだ!」
「貼りなさい!」
「よっしゃぁぁぁ! 任せろ! くらえ! 九字護法!」
札についていた両面テープの台紙を急いではがし、武士のおでこにペッタンする。
と。
ゾロッと、武士の姿が崩れた。
それと同時に……。
ざわり。
人魂たちがどよめき、一斉に俺たちに襲いかかってくる……!
…… ジャマ ヲ スルナ ……
…… ジャマ、 ヲ スルナ ……
…… ジャマ …… ヲ …… スルナぁぁぁっ ……っ!
「うっわぁぁぁぁ!」
「失礼します」
逃げようとしたところで、ジョナスがいきなり横抱きにしてきた。
「いや俺ひとりで逃げられるから!」
「万一のことがあっては王子に申し訳ないですから」
「言うと思ったー!」
ジョナスに抱えられて人魂たちから逃げ惑っているうちに、周囲が暗くなり、そして、次第に明るくなって……
辺りを見回すと、そこは、白いツルツルの壁と床。
お化け屋敷 『恐怖のタイムスリップ』 の、エントランスだ。
「ふぅー やっと、戻ってこれたな!」
「うわぁぁぁぁん!」
ほっと息を吐く俺に、ミシェルが泣きながら抱きついてきた。
「お姉ちゃぁぁぁん!」
「おお、どうした、ミシェル。怖かったのか?」
「ひっ…… ひっ…… ぐすっ…… エエエエえーん……」
背中をトントンしてやるが、ミシェルは、なかなか、落ち着かない。
代わってイヅナが、説明してくれる。
「エリザが、はぐれたんだよ」
「え……?」
「私もさっき、聞いたばかりなんだが……」
エルリック王子が、眉を曇らせた。
「エリザは、江戸時代を模した世界から抜ける時、トワイライトゾーンに落ち込んだらしい」
「トワイライトゾーン?」
「アトラクションとして用意されたものとは別に発生する、発生条件不明の、何が起こるか分からない世界です」
ジョナスの説明によると、トワイライトゾーンとはつまり 『不可思議領域』 。そして、それ以上のことはNPCですら知らないという。
「今や電脳内にしか存在できなくなった、本物の怪異のたまり場、という説もあります。真偽の程は定かではありませんが」
「うまく抜け出られるといいんだが……」
俺はごくり、と唾を飲んだ。
コンピューターの中にいる本物のお化けだなんて…… 今までで一番怖いじゃねえか!
「もし、抜け出られなかったら……?」
「…………。」
エルリック王子は珍しく、眉間に渓谷を作って首を横に振った。
チロルが、をんをんっ、と鳴きながら駆け寄ってくる。
【ゲームオーバーですよ】
「危なさがビンビン、伝わってくるぜ……!」
なにしろチロルが、出会った時以降で初めて、草生やしていない!
お化け屋敷にそんな設定まで作ってる運営には、山ほど文句言ってやりたいが、今はそれどころじゃないよな。
「手分けして探そう。別々にトラックに轢かれるのが、効率的だ。
エルミアさんさんは、留守番頼むよ。サクラさんとハロルドが戻ったら、説明してやってほしい」
エルリック王子がキビキビと指図を出す。
「よし! そうだ、チロルもいいかな?」
メインはアトラクションじゃなく、人探しだからな。
【はいw 非常事態なので大丈夫ですwww】
俺の目の前に、小さな青い龍がパタパタと飛んできた。
「カホール モ イク …… !」
「じゃ、ミシェルと一緒に、頼む!」
「カホール ゴシュジンサマ ガ イイヨ」
「いや、ミシェルを守ってやってくれよ! な?」
「ぼっ、ボクはいいっ……」
ミシェルは、まだしゃくりあげている。よっぽど怖かったんだなー、かわいそうに。
「ボクっ、より…… イヅナと一緒に……っ」
「おい、余計なこと」
「ふーん?」
イヅナが慌てているが、まさかイヅナみたいな立派な爽やかスポーツ男子がお化け怖いとか……
あるはずないよな!
「ま、なんでもいいや。じゃあカホール、イヅナを頼む!」
「エエッ…… ゴシュジンサマ ガ イイ……! 」
「後で、いっぱい抱っこしてやるから」
「…… シブシブ…… ナットク…… 」
くぅー、カホールのやつ、かわいいぃぃぃ……!
でも、今はエリザの安全確保が最優先だ。
「それじゃ、いこう」
皆で扉の前に立つ。
「行ってらっしゃーい! みんな、絶対に無事だよー! 帰ってくるの、待ってるからねー!」
エルミアさんがいっぱい、手を振って見送ってくれる。
「よっしゃ、一発で轢かれるぞ!」
俺たちは覚悟を決めて、次々と、扉の中に足を踏み入れた。
お読みくださり、ありがとうございます!
11/6 誤字訂正しました。報告下さった方、誠に感謝です!m(_ _)m
朝晩寒いです。お風邪などにお気をつけてー!