10-7. ピクニックに行こう(7)~お弁当を食べよう③~
かぱっと弁当の蓋をあけると、そこには……
ハート形に並べた卵焼き!
お花型のウィンナー!
舞い踊るタコさんウィンナー!
普通のミートボール!
いろいろおにぎり!
彩りを添えるブロッコリーとミニトマト!
そして、真ん中に、俺の力作!
キャラおにぎりーーー!
「美味しそうだね」 と、エルリック王子が微笑み。
「おおっ、かわいいじゃねーか!」 「わぁ! ボクのために、こんなに……! ありがとうございます!」 と、イヅナとミシェルが喜んでくれて。
「きゃー! あたしのオニギリも作ってくれてたんだー! ありがとね、ヴぇっち!」
「すごい……! かわいいです」
「ふっ、ふんっっ! あたくしの顔はこんなに丸くなくってよ! …… でも美味しそうだから食べてあげるわ!」
エルミアさん、サクラ、エリザにも好評で。
「あまりの華やかさに幼児向けかと思いましたよ」
なんと、ジョナスまでが誉めてくれてるー!?
天気はいいし、シロツメクサのじゅうたんみたいな草原は気持ちいいし、その上で駆け回ってるガイド犬たちは可愛いし、カホールの青い鱗は太陽でキラキラ輝いててめちゃくちゃキレイだし、弁当は大成功っぽいし……
皆で頑張った甲斐があったなぁ、としみじみと喜びを噛み締める、俺である。
一方、皆が輪になって座るシートの隣の木陰では。
「お坊っちゃま、食前酒はいかがなさいましょう」
「シャンパンを頼む。…… ああそうだ、そこの皆さんにも振る舞って差し上げて。袖振り合うも多生の縁、というしね?」
「かしこまりました」
なんてやりとりを執事 (?) と交わしながら、優雅に椅子に腰かけるハッチ…… 容姿端麗・眉目秀麗・外面菩薩内面如夜叉な、エルミアさんのグループのNPCだ。
――― ピクニックに来てるのに、テーブルと椅子を持ち出して、コース料理って…… 反則だろっ!?
そもそもが、どうして、まだいるんだよコイツ。
最初はいい人かと思ってたけど、裏事情を聞いた今じゃあ…… 全っ然、仲良くなれる気がしないぜ!
「どうぞ」
「ありがとう、だが…… お気持ちだけでけっこう。私たちのことは、かまわないでいてくれたまえ」
ハッチの執事 (?) が差し出したシャンパングラスを、エルリック王子がサラリと断る。
「それにコース料理より、エルミアさんの作ったお弁当を食べるべきじゃないかな」
さすが王子!
いいこと言うな!
「しかし、あちらは落ちてしまいましたので…… それを食べろとおっしゃるのは、いかに王子といえども、あまりに無体な」
「えー! でも、わざと落としたんだよな!?」
執事 (?) の 『パワハラですよそれ』 とでも言いたげな口調に、俺はついにガマンできなくなった。
「食べ物を粗末にしちゃ、いけないだろ!? それとも、キャラだから許されるの? それおかしくない?」
「…… ごめん」
「そもそもだな、あんた、いくらエルミアさんが許してくれるからって…… え?」
言ってる途中で、ふと、気づく。
――― あれ? 今、謝られたよな?
当然、何か反撃されるものと思ってたんだけど……?
見れば、ハッチはうつむき加減に肩を落とし、銀色の長い睫毛を震わせている。
「ごめんね。君にはそう見えたんだね…… 本当に、ついうっかり手が滑ってしまっただけなんだけど…… 不快な思いをさせて、ごめん。
せっかく作ってくれたエルミアさんにも、申し訳なかったね……」
「じゃあ、食えよ……!」
「そうだね…… そうすべきだよね。エルミアさんさん、どう思う?」
「あっ、ずるい……!」
コイツめ、やっぱり性格悪いぜ!
『本人たちが良ければいいじゃない』 って議論に持ち込んで、俺を黙らせようって作戦だな!
実際、エルミアさんは 「ううん、何も落ちちゃったものを食べることないよー!」 とか答えちゃってるではないか。
「ヴぇっちもありがとー! 気持ちは、すっごい嬉しいー!」
「…… ふざけるな」
「えー? ふざけてなんか」
「ふざけてる! なんか知らんが、そう思う!」
ついにプチっとキレてしまった、俺。
楽しい弁当タイムに未練はあるが。
人生には時に、それよりも大切なことがあるのだっ……!
「だったら……」
弁当の蓋を閉めて大事にバッグに入れ (後で食べよう) 、『シート押さえ用重し』 的に置かれていた、朱塗りのお重を取り上げる。
「コイツは、俺が食ってやるよっ」
「わうっわうっ、わうっ!」
追いかけていた蝶々を放棄して全速力で戻ってきたチロルが、俺の膝に前肢を乗せた。
【ソレ食べると50%の確率でお腹を壊しますww 】
…… 壊すんだ、腹。
だが、しかし!
ホコリまみれがなんだ。
本人たちの都合がなんだ。
確率がなんだ!
俺は、やっちゃいけないことは、やっぱり、やっちゃいけないと思う……!
「我が信念に殉ずるならば、それもまた本望!」
何かのアニメで聞いたセリフを朗々と詠えば、気分は 『闇の総司令』 だぜ! こわいものなんか、ないっ!
「キサマと共に、荒れ狂う波の底に沈んでやるわぁぁぁっ!」
最後のシャウト。
そして。
「お姉ちゃん、カッコいいですっ!」
「おおっ、頑張れヴェリノ! お前の骨は拾ってやるぜ!」
「 バ カ ね 」
「楽しそうだから、いいんじゃないですか」
「うぁーん! ヴぇっちー! あたしのためにー! ごめんなさいー! もう惚れるー!」
数々の声援やら何やらを一身に浴びつつ、俺は勢いよく、お重の中身をかっこんだ。
…… 幸いなことに、ホコリや砂のジャリジャリ感は再現されてない!
そして、普通にウマイ!
お惣菜といえど、厳選したものなんだろうなぁ……
「 どーだ! 完・食! 」
空になったお重を皆に示して胸を張った、その時。
ズン、と胃に、軽い衝撃があった。
「おおおお? 力が、抜ける……っ!?」
【あーwwww 信念が確率に負けちゃいましたねwwww】
――― ゲーム的に言うならば、どうやら、アイテム 『土埃まみれのお重』 の付与効果が発動してしまったらしい。
【いったん、強制ログアウトですwwww】
ガイド犬の言葉を最後に、俺の視界は真っ暗になった。
…… ていうか、チロル。お前は、こんな時でも草を生やすのか……っ