↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/59

5 「コンビニの悪魔」

「あだだだだだだだだだだ!!!!」


 コンビニからでたら、椛が痛みに悲鳴を上げていた。


「おぉ戻ったか2人とも」


「お帰り。高希、レベッカ」


 見回りをしていたクレアは戻ってきていたらしく、大友さんと一緒に俺とレベッカを出迎えてくれた。


「なんで椛はクレアに腕ひしぎ十字固めを仕掛けられているんだ?」


 だが今はその出迎えよりもクレアが椛に寝た状態で『腕ひしぎ十字固め』をきめているのかが気になる。


 ……あっ。説明しよう!


『腕ひしぎ十字固め』とは、相手の上腕部を自分の両脚で挟んで固定すると同時に相手手首を掴み、自身の体に密着させる。そして骨盤あたりを支点にし相手の腕を反らせ肘関節を痛みが生じるほどに伸ばす関節技の一種だ!!


 柔道や合気道でも使われるポピュラーな技だ!


 因みに別名は『腕十字固め』・『十文字固腕挫』だ!!


 勿論これらはテストに出ないから忘れてしまってくれ!!


「椛が勝手に私の荷物をあさっていたからな。乙女の荷物をあさる不埒な奴には罰を与えねばならないだろ?」


「とれる! 右腕が根元からとれる!!」


 どうやら椛はまたいらんことをしたらしい。

 おおかたクレアの荷物にまだ弁当が残っていないかあさっていたのだろう。

 こうなることがわからないほどにお腹が減っていたのならばそういえばよかっただろうに。


「……高希。レベッカとコンビニで何をしていたの?」


 椛に呆れていると、大友さんが近くに寄ってきて何故か俺を非難するような目で見てきた。


 なんでちょっと不機嫌なんだ大友さんは?


 ……まぁ俺が考えても女心なんてわかるはずもないか。

 それより、質問に答えねばな。


 といっても、割といろいろあったため説明するのが面倒くさい。


 ちなみにあのサイコパス女は俺達と一緒にコンビニから出てきていない。


 どうやら準備があるらしく、先に行っていてほしいとのことだった。

 一応拠点としていた場所だ。旅立つのに準備がかかるのだろう。


「後で話すよ」


 中で何があったのかはあのサイコパス女が出てきてからのほうが説明がしやすいだろう。

 そう思い言ったのだが、大友さんが険しい顔つきで俺の手を握ってきた。


「なんで後で? 今話してよ。なんでレベッカは涙目で、服装が少し乱れてるの?」


「え? は? レベッカ?」


 いきなり手を握られ少し混乱しながらも、そういわれてレベッカを見てみる。

 すると確かに大友さんの言う通りの状態だった。


「何回か外からコンビニの中をのぞいたんだけど、2人とも外からは見えない場所に行ってたよね? ねえ2人で何をしていたのか教えて。早く」


 俺はレベッカの涙目の理由も、服装がコンビニに入る前より少し乱れている理由も知っているから何とも思わなかったが、何も知らない大友さんから見たら班の仲間が涙目なのは確かに気になるだろうな。


 なるほど。大友さんは仲間思いで心配性なんだな。


「レベッカの服装が乱れているのは」


 レベッカがなんでこんな状態になっているかを説明しようとしたところ、後ろから服を引っ張られた。


「なんだよレベッカ?」


 振り向くとレベッカが俺の服をもじもじしながらつまんでおり、顔を赤くさせそっぽを向いていた。


 兎耳も心なしか垂れている気がする。


「あ、あの……。恥ずかしいから言わないで……」


「いや確かに恥ずかしいのはわかるが、え、なんか熱くない?」


 そんなレベッカの蚊が鳴くような声がしたやいなや、大友さんに握られた部分が急に熱せられ始めた。


「ねぇなんなの?どういうことなの?高希はレベッカにどんな恥ずかしいことをしたの?」


 大友さんが怒りをあらわにして睨んでくる。

 握られた部分はさらに熱を生産しているようだ。


 そこまで考えて俺は大友さんの副作用を思い出した。


 確か大友さんの副作用≪生産≫は掌に100℃くらいの熱を作れるはずだ。


 熱いにも関わらず鳥肌が立った。


「ちょ、大友さん誤解だ! 誤解だから副作用で俺の腕を焼かないで!」


 どうやら仲間思いの大友さんはレベッカを涙目にした犯人を俺だと誤解して、制裁を加えようとしているようだ!!


「やっぱり私もコンビニに入ればよかったんだわ。高希から目を離すべきじゃなかった。椛なんかと外で悠長に待っているんじゃなくしっかりと高希を見ているべきだった。2人してこんな短い時間で仲良くなって、デレデレして、秘密の共有ってやつ?」


「あぁ大友さんがブツブツなんか言ってる!? これは話を聞いてくれてはいないぞ! おいレベッカもなにか言ってくれ! というか助けてくれ!!」


「罰を、罰を受けるがいい……」


「てめぇレベッカこの野郎!!」


「罰。そうよこれは罰よ。別に私がむかつくからとかじゃなく私がまじめにコンビニ周辺の警戒をしてる中で高希がコンビニでイチャイチャした罰よ」


 大友さんが何故かヒートアップしたようで、熱がさらに生産され始めた。


「熱い熱い熱い熱い!! 焼ける! 俺の腕ステーキになっちゃう!!」


「あー。確かにステーキもいいですね」


 椛の痛みによる悲鳴と俺の熱さによる悲鳴が共鳴しているさなか、場違いな声が聞こえてきた。


「誰!?」


 急に聞こえた声に対して大友さんは俺から手を放し警戒をあらわにする。


「ただし、人間のどの部位が1番ステーキに適しているのでしょうか? 牛だとサーロインや肩ロースという部位が美味しいとされていますが……」


 しかしその声の主、大きなリュックを背負い両手にはあの俺が渡した弁当箱を大事に抱えコンビニから出てきたサイコパス女は相変わらず人間をどう料理するかで頭がいっぱいのようだ。


「生存者がいたのか。だからコンビニから出てくるのが遅かったのだな」


 サイコパス女の登場によりクレアも椛に『腕ひしぎ十字固め』をきめるのをやめ立ち上がる。


 痛みから解放された椛は転げまわりながらも腕の無事を確認していた。

 そういう俺も先ほどまで大友さんにつかまれていた腕をぐるぐると回しながら無事を確認しているのだが……。


「そいつはゾンビに嚙まれてはいないだろうな?」


 ひとしきり転げまわって満足したのか、椛は立ち上がりサイコパス女に胡乱な目を向ける。


「大丈夫。レベッカが検査してくれたからな」


 サイコパス女が俺たちについてくると言い出した後、レベッカは嫌々ながらもちゃんとゾンビにかまれていないかと軽い身体検査をした。

 因みにレベッカがそんなに嫌なら俺が調べるぞと言ったら休憩室から追い出された。何なら最上級変態と言われ蹴りだされた。

 なんだよ最上級変態って。もしかして中級とかもあるのかよ。


「それならいい。名前はなんていうんだ?」


 俺とレベッカは椛の何気ない質問に固まる。


 そういえば名前を聞いてなかった。


「私の名前は『青菜 久美』といいます」


 何と答えようか思案しているとサイコパス女が自分から名乗ってくれた。

 この人ちゃんとコミュニケーションがとれたんだ。

 てっきり人間は全員ジャガイモとかキャベツとかの食材にしか見えてないのかと思ってたわ。


「そうか。それでは青菜さん。本当はすぐにでもあなたを安全な場所まで案内をしたいのだが、私たちは用事があり行かねばならないところがある。道中はできるだけあなたの安全を守るよう努力するが、その代わり私たちの言うことには従ってもらう」


 クレアがサイコパス女、青菜の前に立ち班のリーダーらしく振舞う。

 そういえば俺たちはいまこもりの家に向かっているんだったな。危うく忘れるところだった。


「わかりました。よろしくお願いいたします」


「勿論ゾンビが沢山いる場所から早く安全な場所に行きたいという青菜さんの気持ちもわかるが……えっ、わかった?」


「はい。事情があるのならそちらを優先してもらって構いません」


「……聞き分けが良すぎないか?」


「なんでこの人はこんなに落ち着いているの? ゾンビに襲われて1人でコンビニに隠れていたにしては冷静すぎないかしら?」


 おっと。

 どうやら青菜の異常性に早くも気づき始めてきたぞ。


「なぁ、両手で大事に抱えてるそれは何だ?」


 椛は青菜が大事に抱える弁当箱を指さしながら問いかける。

 嫌な予感を感じているのかこころなしか椛の顔は引きつっている。


「これは私の人生を導く羅針盤のようなもの、いうなれば希望そのものです」


「俺様から見たらその希望はただの弁当箱に見えるのだが?」


「凡人から見ればそうでしょう。しかしこのお弁当箱こそが鍵、そしてあなたたちは私を『師匠』のもとへと導いてくださる案内人。たとえるならばアリスを不思議の国へ導いた兎といったところでしょうか。ねぇ、レベッカさん?」


「ヒィッ!」


 急に青菜から笑顔と話を向けられレベッカは小さく悲鳴を漏らした。


 レベッカはお前に苦手意識とトラウマを持ってるんだからそんなことしてやるなよ……。


「『師匠』って誰ですか?」


「このお弁当を作成した食堂のおばちゃんという、言わば『食堂の神』ですね」


「なんだその神。おい高希、こいつまともなのか狂ってるのかどっちなんだ?」


「まともに狂ってるよ」


「るほど理解した。つまり紗希と同類ってことだな」


 さすが椛。

 だてに俺と同じように紗希と親友をやっていないな。こんな短いやり取りで青菜の本質が紗希と同じサイコパスだと断定しやがった。


「えーと、レベッカがなぜこんなにおびえているのかはわからないが、素直についてきてくれるのならそれでいい」


 クレアも何か腑に落ちないといった様子ではあるが、無理やり納得をしたようだ。


「はい! よろしくお願いいたします!!」


 こうして新しく仲間になったサイコパス女、青菜は輝くような笑顔で食堂のおばちゃんの弁当箱を持って元気よく返事をしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。