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2 「囚われ」

「ふぁぁぁ何事っ!?」


 まさか何気なく入ろうとした部屋の中でレベッカが椅子に座らされた状態で縛られているとは思わず情けない声が出てしまう。


 レベッカのいつも持っている槍は無造作に床に置かれており、着ている服はあちこちがはだけている。

 口はガムテープのようなものでふさがれレベッカは強気な目に涙をためながらも頑張って身をよじっているが、縄は想像以上にきつく縛られているようでびくともしないようだ。


 というか無理やり身体をよじっているせいではだけた服がさらにはだけて……


「ンー!! ンー!!」


 冷静に状況を分析しようとしている俺にレベッカが声をあげる。

 口がふさがれているせいで何を言っているのかは全くわからないが、何故だか非難されているような気がするのは気のせいだろうか?


 というかこの部屋なんか臭くない?


 下のコンビニの匂いと同レベルかそれ以上だぞ?


「なぁレベッカお前、少し見ないうちになんでそんなマニアックな状況になってるんだよ? 目のやりどころに困るんだけど。それよりすごい恰好ですね写真撮っていいですか?」


 しまった心の声が少し漏れた。


 レベッカの灰色の髪の中から生えているウサミミがピーンッと直立する。

 顔を赤くしていることからどうやら自分の今の恰好に気付いたようだ。

 それにしてもあのウサミミ便利だな。あれを見てればレベッカの心情がよくわかる。


「あの……。レベッカさんのお知り合いの方ですか……?」


 とりあえず口のガムテープだけでもはがしてあげようかと近付いた時に女性の声がした。


 声のした方に視線を向けると、そこには何故かピンク色のエプロンを着て頭に食堂のおばちゃんがするような白い三角布をした気弱そうな女性が立っている。


「誰ですかあんた?」


「少し聞きたいのですが、レベッカさんって人間ですか?」


「ン!?」


 この人すごいな。本人がいる目の前で割と失礼なこと聞いてきたぞ。

 レベッカもまさか自分が人間なのか疑問を持たれるとは思っていなかったらしく女性を二度見していた。


「そりゃ……人間なんじゃないか? 頭があって二足歩行で歩くし」


 とりあえずこのピンクエプロンの女性が誰か気にはなるが、質問をされたならば答えねばなるまい。


 それに多分だが質問に答えないと話が前に進まないような気がする。


 この、人の質問に全く答えず自分の知りたいことだけを追求するような姿勢といい、気弱ながらも何を考えているかわからない表情といい、この人からは何処かで知っている雰囲気を感じる……。


「頭があって2足歩行だとダチョウも人間という括りになりますよね? 質問を変えましょう。この灰色のウサミミはなんですが、確認したのですがこれはつけ耳ではなくて頭から直接生えた本物の耳ですよね?」


「そうだな。時々ピクピクと動いてるし」


「普通の人間は頭から兎の耳をはやしてはいません。この事からレベッカさんは普通の人間ではないと思うのですが、それ以外は調べたところ普通の女性である私と殆ど変らないのですよね。あなたは何故レベッカさんが頭からウサミミをはやしているのかご存知ですか?」


「あー。話すと長くなるんだが……」


「出来れば2行でお願いできませんか?」


「変な薬を飲まされたら頭からウサミミが生えた」


「1行ですむじゃないですか」


 俺もそれにはびっくりだ。

 まさかこんなに簡単に説明ができるなんて、もしや俺は天才なんじゃなかろうか。


「でも変な薬を入れられているのですか……。やはりあまり適さないですね」


 残念だ。と言うように女性は視線を地面に向けうなだれる。


「ガッカリしているところ悪いんだが、レベッカをこんなマニアックな状態にしたのはお前なのか?」


 そういえばあやうくスルーしそうになっていたが、さっきこの女性は『調べたところ普通の女性である』って言っていた。

 つまり、この女性こそがレベッカをこんなふうにした犯人なのではないだろうか?


 もしそうだとするならばこの人は、ウサミミをつけた同性を無理やり椅子に縛り付けたあと服を脱がせ身体を調べるという中々見ない性癖を持つ危険人物なのではないだろうか?


「……ん? あぁレベッカさんの事ですか? もうレベッカさんはいいので持ち帰って頂いてかまいませんよ」


 と思ったのだが、どうやら女性はレベッカに興味が無いようで部屋の奥にあるロッカーの裏にそそくさと行ってしまう。


「いや持ち帰ってって、話しを聞けよおい」


 ……返事が無い。


 どうやら俺の声はあの女性には届かなかったようだ。

 おっかしいなぁここからロッカーまではそんなに距離は離れていないんだけどなぁ。


「ったくなんなんだよもう。レベッカ、ああいう変な奴には近寄るんじゃねぇよ。何されるかわかったもんじゃないんだから」


「ンー!」


「元気のいい返事だな」


 今度こそレベッカの拘束を解いてやろうと近寄り、腰をかがめ持っていた弁当を置く。


「ンー!! ンンンンンン!!」


 口についてるガムテープを取ってやろうとするがレベッカは顔をこっちに向けてくれない。それどころか足をばたつかせ暴れ出した。


「ちょ、動くな動くな! お前は今きわどい恰好してるんだぞ!? あぁ何がとは言わないが見える見える!!」


 暴れたことにより元からきわどくはだけていた服がさらに乱れ、下にある肌や下着が見えてしまう。

 女の肌にそれほど耐性の無い俺は間近でそれを直視できるはずもなく視線をレベッカから外し後ろを振り向いた。


 そしたら音もなくさっきの女性が真後ろに立っていて、頭上に掲げた大きなフライパンを俺めがけて振り下ろすところだった。


「ギャー!?」


 悲鳴をあげながらも反射的に横に転がり、何のためらいもなく振り下ろされたフライパンを間一髪で避ける。


「むぅ。避けられてしまいましたか」


「なんだお前そのバカでかいフライパンはってうわー!?」


 相変わらず俺の声は聞こえていないらしい。

 女性は間を開けずに横に転がったことにより姿勢を崩している俺めがけてまたフライパンを振り下ろしてきた。

 姿勢を崩しながらもなんとか女性の攻撃を再度かわすが、フライパンは相当な勢いがあったらしく床にぶつかるとけたたましい音を鳴らす。


 俺は必死に距離を取る。

 あのフライパンは相当硬いのかあんな雑に扱ってるのに少ししかへこんでいない。


「避けないでくださいよ」


「いや避けるわ! 当たったら痛いだろ!! 何が目的だコノヤロー!!」


「あなたの身体が目的です」


「身体っ!?」


 女性に身体が目的と言われ若干動揺してしまうが、次に女性がした行動に俺の体温は急激に下がったかのような錯覚を覚えた。


 なんと、包丁を取り出したのだ。


 ゾンビとはまた違った恐怖。


 あまりに身近な凶器がでてきたことに一瞬おののくが、まさかそんな普通の女性が包丁で襲ってくる訳がないだろうと自分に言い聞かせて心を強く保つ。


 すると女性は、包丁を俺に向けるのではなくただ上に掲げただけだった。


 ほら見ろ俺を脅すためにただ包丁を取り出しただけなんだ。


 普通の人間がそんな人を殺すのに躊躇しない訳が……。


 そこまで考えて、ある1人の親友の顔がその女性の顔と重なる。


 その親友は人の質問に全く答えず自分の知りたいことだけを追求する我が道を行く奴で、常に何を考えているかわからない綺麗な笑顔を顔に張り付けている。


 そしてその親友、『紗希』は他人どころか親友や自分自身の命すら奪うことに躊躇が無い……!!


 紗希と同じ雰囲気を漂わせる女性は掲げた包丁を、いや『ふりかぶった』包丁を勢いよく俺に投げてきた!!


 投げられる寸前に紗希の事を思い出した俺は全力で姿勢を低くする!!


 風を切る音が俺の上を通り過ぎ、すぐ後ろの壁から『カッ!!』という小気味の良い音が鳴った。


 し、信じられねぇ……!!


 この女、紗希(サイコパス)と同じだ!!


 俺は慌てて立ちあがり、超危険人物と認定した女性からさらに距離を取ろうとする。


 しかし、身を低くした体勢から元に戻ろうとする俺よりも早く女性は行動を開始していた。


 結論から言えば、俺は先程の大きなフライパンでガードもできずに思いっきり横から殴られた。


「グゥ!!」


 たまらず倒れた俺に女性はまたがり、何度も何度も無表情のままフライパンで俺の顔面を殴ってくる。


「痛っ! 痛っ! こんのっ!!」


 俺はがむしゃらに手を伸ばし、なんとか振り下ろされるフライパンを掴む。


「うぉぉおおおおお!!」


 そして力任せにぶん投げた。


 女性はフライパンから手を離さなかったようで、フライパンごと俺に投げられる。


「キャッ!?」


 存外可愛らしい悲鳴をあげ女性は壁にぶつかった。


 どうやら『役立たずな才能』が少しだけ発動したらしく、簡単に女性を遠くの壁まで投げられたらしい。


「くっ、この!!」


 フライパンで殴られた顔が少し痛いが、文句なんて言っていられる訳もない!


 とにかく早くこいつからレベッカと共に逃げなければ!




「グァァァ……」




 そんな時、俺の耳にあの女性でもレベッカでも、勿論俺でも無い声が聞こえた。


 俺は気が付いたらロッカーの方まで移動していたらしく、さっきまでロッカーの陰に隠れていた場所が見える位置にまで来ていた。


 そしてそのロッカーの陰には、レベッカと同様に椅子に縛られた男性がいた。

 いや、レベッカと同様とは言ったがその男性は縄ではなく鎖で何重にも巻かれている。


 男性が縛られた椅子の足もとには沢山の食材や割れた皿が散乱しており、中には血のようなシミも確認出来た。


 ロッカーの陰は、このこぎれいな部屋とは真逆の地獄のようなありさまを呈していた。


 そして彼自身も、地獄から帰って来たような姿をしていた。


 自身の服を血で汚し、右目があるところはただの空洞になり、腕は両方とも取れかかりただ身体に皮膚だけでぶら下がっているような状態だった。





 俺は、さっきからずっとゾンビと同じ部屋にいたという事実に目がくらみそうになった。



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