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4 「コンビニ」

 謎の骨の山を見てから数時間後。


「なぁ。少し休まないか? 丁度あそこにコンビニもあるしよ。」


 ゾンビを倒したり倒さなかったりしながら目標であるこもりの家を目指していると、椛が疲れを全身から放ちながら言った。


 普段なら友人の家に向かうだけでなんでそんなに疲れてるんだよと言うところだが、今回は仕方がないなと思う。


 こもりの家は平和なころなら別に学校から遠くもなく近くもない微妙な距離だったが、今こうしてゾンビがはびこるようになってしまってからはとても遠くにあるように感じてしまう。

 ゾンビの大群が道をふさいでいたり、事故か何かで何台もの車が道をふさいでいたりと遠回りをさせられているのも体力を削る要因だ。


 実際に俺もゾンビがいつ現れるのかと周囲を警戒しながら長いこと歩いているので少し休憩がほしい。


 俺はこの班のリーダーであるクレアを見る。


 休憩をしたいのは事実だが、自宅に引きこもっているであろうこもりの救出も大切だ。

 もしリーダーであるクレアがこもりの救出を最優先させるのならば俺もそれに従おう。


「……そうだな。椛の言うとおりコンビニで少し休憩をしようか」


「よっしゃ!」


 クレアの言葉に椛が喜びの声をあげ拳を掲げた。


「相当休憩したかったんだな」


「そらあったりまえよ。これ以上歩いていたら倒れるってレベルだぜ。我ながらよく歩いたもんだ」


「確かに結構歩いたとは思うが、倒れるレベルまで疲れたか?」


「高希の体力と俺様の体力を一緒にするなよな」


 椛は休憩がよほどうれしいのか、先程の疲れましたオーラがなくなっている。

 ……もしかしてこいつ、休憩したいがために疲れた振りをしてたんじゃないのか?


 休憩を受け入れたクレアも無言で椛を見つめている。


「ごめんなクレア。椛のわがままでコンビニに行くことになって」


 嬉しそうにコンビニへと足を向ける椛を見つめるクレアの様子にいたたまれなくなり、椛の保護者になった気分でクレアに謝る。


「え? あぁ。別にいいぞ謝らなくて」


 クレアは謝る俺を一瞬だけ驚いたように見る。


「私も少しあのコンビニが気になっていた所でな。と言うのも、ここまで探索班の連中は来てないようだから、あぁいう施設はできるだけ見ておきたかったんだ。それに、疲れているのは何も椛だけじゃないさ」


 そう言ってクレアは視線だけ後ろに送る。


 そこには大友さんとレベッカがいるのだが、見てみると2人共なにかを言うわけではないが表情がどこか安堵している。


 どうやら疲れてはいたがそれを言いだせなかったらしい。

 そう思うと、椛の自分への素直さも少しは見習うべきかもしれないな。


 そうして俺ら5人はコンビニの前まで来た。


 コンビニは電気が消えていたが、正面の壁がガラス張りなので外から中が多少見える。


 24時間毎日コンビニには電気がついている印象が強いので、店内が暗いコンビニに俺は少しだけ不気味さを感じてしまう。


「さて、では30分だけ休憩をするか」


 クレアが持っている鞄をドスンと地面に置きながらそう言う。

 ……凄い音なったな。


「その鞄って音からしてすげー重いんだな。荷物を持ってるのがクレアだけだし、俺も持つか?」


「ハハッ。高希の申し出はありがたいが断っておくよ。この中身には大事なものが入っているんだ。例えばこの弁当のようにな」


 クレアはそう言って笑いながら鞄から4つの弁当箱を取り出した。


「「「「えっ、お弁当!?」」」」


 大事なものと言われ皆が鞄を注目した瞬間に弁当が取り出されたことにより、クレア以外の全員が驚く。


「あぁ。食堂のおばちゃんが少ない食料を工面して用意してくれたんだ。感謝しなさいね」


 クレアがとてつもなく優しい眼顔で俺らに弁当を渡してくる。

 なにこの人、本当に俺のクラスメイト惨殺した人なの?


「あれ、クレアの分は?」


「私は食堂で済ませて来たからね。……さて、私は休憩するにあたり周辺の安全の確認・生存者の有無を調べるため少し離れるが、コンビニの中を調べるのはレベッカと他1名に頼むことにしよう。」


「かしこまりました」


「残った2人はゾンビが近くに来ないように外で待機。……まぁ見張るだけだからご飯を食べながらでも大丈夫だろ?」


「オッケー。クレアも気をつけてな」


「あぁ。と言っても30分だけだからそんなに遠くまではいかないから安心してくれ」


 そういってクレアは一人で歩き出した。


「……さて、では誰が私と一緒にコンビニの中に入る?」


 クレアを見送ると、すぐにレベッカが口を開いた。


「俺様はパス。ゆっくり弁当食いながらゾンビ来ないか見張っとくぜ」


 椛は地面に座り、弁当のふたを開けながら言う。

 こいつ見張る気もないだろ。


 それに俺もコンビニの調査をするよりも早く弁当が食べたいのだが、ここで俺も弁当食べたいなんて言うと残った大友さんが必然的にレベッカと一緒にコンビニの中に行くことになる。


 女2人が働いてる中で男が悠々自適にご飯食ってるのはどうよ?


 仕方ない。ここは俺が行くか……。


「じゃぁじゃんけんをしましょう」


 俺が行くと言葉にするよりも早く、大友さんがそう提案してきた。


「え、いいよ俺が行くぞ大友さん」


「それだと私と椛が一緒にご飯食べることになって気まずいじゃない。それに当たり前のように休もうとしている椛に腹が立つし」


 大友さんはそう言って早くも弁当を食べようとして居た椛を睨む。


「おい。誰でもいいから早くしてくれないか? お前らが思うよりも30分と言うのは短いのだぞ?」


 レベッカが腕を組みながら催促してくる。


「仕方ねぇなぁ。じゃ、さっさとやるか」


 椛は立ち上がりじゃんけんの構えを取り、大友さんもそれに倣う。


 ……別にコンビニを少し調査するくらいなら俺が行ってもいいんだが、言いだせる流れじゃないよなこれ。


「ほら行くぞ。最初はグー。じゃんけん!」


 椛が音頭をとる。


 さて、ここで俺がするべきは大友さんに勝たないで椛に負けないことだ。


 普通なら運が絡むので割と難しい条件なのだが、ふとここで俺に天啓が走る。


 俺には『役立たずな才能』という人類進化薬を投与された時に発現した副作用がある。


 この『役立たずな才能』とは、名前の通り使い勝手の悪い能力だ。


 聞けば≪身体強化≫レベル6という、その≪身体強化≫の方向性の頂点に君臨する副作用だというが、実際のところその急激な力の上昇に身体がついて行けず振りまわされるだけの能力だ。


 例とするならばダッシュしたら目的地を通り越し、何かにぶつかるまで止まれない脚力。

 殴り続けると拳が砕ける腕力。

 体力の消耗が激しく数分で動けなくなる燃費の悪さ。


 我ながら数少ない名前のつけられた副作用である≪ネームド≫持ちなのにこれは酷い……。


 だが、これを『眼』に使えないだろうか?

 そう、身体強化というのだから眼に使用できても何ら不思議はないのでは?


 思いついたら即行動。


 俺は自分の中にある力をくみ上げるように、そしてその力を目に流すように意識する。


 ……俺の予想はてきめんだった。


「ポンっ!」


 大友さんの掛け声とともにだされようとする手の形が『パー』になるように変形して行くのが分かる。


 あとは椛が『グー』を出せば……!!


 俺は椛の手を見る。


 ………………………………………………………………。


 ………………………………………………………………。


 ………………………………………………………………。


 いくら待っても椛の手が動かない。


「殺してやろうか?」


「やってみてくださいよ?」


 こいつ人が人生で一番真剣にじゃんけんしてんのに後だししようとしやがってぶっ殺してやる!!


「何をしてるんだダブルバカが」


 椛と俺がガンつけあっていると、レベッカがとうとう焦れたのかこちらに歩いて来た。


 そして俺の腕を掴む。


「うぇ?」


「誰でもいいと言っているだろう。高希。お前が来い」


 そう言いながらレベッカは俺を引きずって行く。


「高希と一緒にお弁当を食べる計画が……」


「カカカッ! 運がなかったな高希。お前の分まで休んでやるからな!!」


 何処か残念そうな大友さんと満面の笑みの椛に見送られる。



 まるで市場に連れて行かれる牛のような気分だった。


 

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