4 一方その頃 Bー2
俺様はとりあえず『梨花』という名前の少女の手を引き校内を適当に歩いている。
校内に入る前に何度か白いガスマスクとすれ違ったが、同じ白いガスマスクをしているからか特に止められる事もなく歩けている。
ふむ。思ったよりも便利だなこの格好は。なにか活動する際はこの格好をしたほうが都合がよさそうだ。まぁ俺様が白衣と白いガスマスクを所持してるのが誰かにばれたら色々と面倒なことになるからどこかに隠しておかないとだが……。
それと、学校の中に入ると途端に人とすれ違わなくなったのはどういうことだ?
クラスや特別教室を通りざまに覗くが誰もいない。校内は白いガスマスクたちで溢れてると思ったがこの時間は殆どの奴が外で活動をしているのか?
……ありえるな。確か探索班とか呼ばれる班も夜は危険だから朝早く外に出るとクレアが説明していたしな。
ということは『人類最終永続機関』とかを内部から調べる場合はこの時間がベストだな。
カカカッ。昨日今日で収穫がたんまりじゃねぇか。流石は俺様だぜ。このまま情報を集め俺様に有利な状況を作り上げてやるぜ。
「あの!」
「おぉう!?」
いきなり大きな声をだされ左腕を引っ張られた。
左肩から嫌な音がした。
「おいおい肩外れるかと思ったぞなんなんだコノヤロー。」
俺様は左肩にいきなりダメージを与えてきた女、梨花を睨む。
白いガスマスクしてるから睨んでも意味は無いがな。
「あの、その、私、怪我なんてしてません。」
人が不満を訴えてるのに謝る前に自分のこと話し始めたぞこいつ。
「あぁそんなことか。知ってるよ。」
「私が倒れていたのは……はぇ?」
梨花が怪我していないことなんてことはずっと見てたから知ってんだよこちとら。
「……よし。んじゃもう俺様はやりたいことやったし、お前ももうどこへでも行っていいぞ。」
だが梨花とこうして話して俺様は本来の目的を思い出す。
梨花を校舎裏から連れ出したことにより、あそこにいた他の奴らもそろそろ解散している事だろう。
さっさとあそこに戻って理科準備室に侵入をしないと……ん?
そこまで考えて俺様は梨花がどこにも行こうとせず俺様を見つめている事に気づく。
「なんだ間抜け面さらして? もしかして聞こえなかったのか? 俺様はやりたいこと、つまり目標を達成したからもうお前は必要ない。なのでお前は自由だ。」
もしかしてよく聞こえてなかったのかと考え、梨花にさっき言った事を丁寧にもう一度言ってやる。
今度はちゃんと聞こえたのか、梨花は少し考えるそぶりをみせた。
「まさか私を助けてくれたんですか!?」
そして見当違いなことを言いだした。
「カッ! お前を助けて俺様に何の得があるんだようぬぼれるなよモブ程度が。」
なんでこの俺様が明日には顔も名前も忘れているであろう中学生を助けなきゃならねぇんだ。
俺様はただ理科準備室に入りたかっただけで梨花を助けたのは仕方なくだ。
……だがバカ正直にそう言ったら俺様が理科準備室を目指していた事が梨花に知られてしまう。せっかく昨日危険を冒して『ティア』に接触して得た情報なんだ。できればこのことは誰にも知られたくない。
まぁ、『理科準備室行く為以外の理由』と言えばそうだな……。
「いいか? 俺様はな。そまつな嘘で被害者面をして強い奴らに媚びて自分より立場の弱いものを攻撃して悦に浸ってる奴が嫌いなだけだ。たとえばさっきの女のように足をけがして歩くのも辛いとかほざいたり、殺されかけた私は可哀想でしょって男どもにとりいったりとかな。だから邪魔してやった。それだけだ。」
そう言って俺様はいい加減にと白いガスマスクと白衣を脱ぐ。
いや、白衣は暑いし白いガスマスクは息しづらいんだよ。
こう立ち止まって話していても誰も俺様達がいる廊下を通らないし、もう脱いでいいだろう。
「確かにはたから見たらそうなのでしょうが…。でも、美喜の言い分もわかるんです。私、自分が生き残るために美喜を」
「突き飛ばしたんだろ? 全く。そんな罪悪感を持ってるから付け込まれるんだぞ。こんな世界だ。確かに他人の命も大事だが、人間ってのは『普通』は自分の命が一番に決まってんだろ。一番大事なものを守ろうとして何が悪いんだよ。誰かの命を利用しないと生き残れないんなら、悲しいが利用するのが正解だろうよ。お前は人間として間違った事はなにもしていないさ。そもそも自分の事をしっかり守れない奴が他人を守ることなんて無理なんだしよ。」
人間は自分の命が1番。因みに2番目は自分の地位。3番目は自分のプライドだな。
まぁ俺様の悪友達にはこの法則は通用しないが大体はこんなもんだろ。
悪友と言えば、呼び出しをくらってた高希は今どうなっているのだろうか?
紗希も紗希でめんどくせぇ立ち位置にいるっぽいし…。
「そ……よ……。そ……よ。……は悪……い。…………のよ……。」
俺様が悪友2人の事をかんがえていると、梨花がなにか下を向いて呟いているのに気づく。
「? ぶつぶつ言いだしてどうしたよ。……あぁそうだ。お前次にあいつらに会ったら『保健室には行かなかったよ』って言っとけよ。」
「……なんでですか?」
「なんでって、実際に保健室に行ってないだろ俺様達は。行ってないのに『保健室で何をしたんだ?』とかあいつらに質問攻めされてもお前には上手い嘘がつけるとは思えねぇし……それと、あいつらに恩を売る為でもあるか。『私はあなた達のついた嘘を庇いましたよ』ってな。そうだな、『保健室に連れて行かれそうになったけど、本当に連れていかれたら怪我をしていないのがバレてあなた達に迷惑がかかるかもって思って、無理して逃げて来たの。』みたいな感じでいいか。そういえば今頃バカな嘘をついたことを後悔しているあいつらも安心するし、お前に少なからず感謝するだろうよ。」
「……すごい。」
「ん!?」
今すごいって聞こえたけどもしかして俺様の偉大さが伝わったのか!?
こいつ中々見どころあるな!
そうそう俺様は凄いんだぜ!! 何故か扱いが雑だがこれでも学校1の頭の回転を誇り、いざとなったら頼りになる神のような存在なんだぜ!!
「고ralt야fndusズニノルナi-hei^ik/:age마」
気分が良いところに水を差された。
……そういえば密入国者のケーシィのこと忘れてたな。こいつずっと俺様と梨花の後ついてきていたのか。
というか今『図に乗るな』って言わなかったか?
「そういえば、ケーシィ様の案内はいいのですか?」
「密入国者のケーシィ様の案内だぁ? ……そういやそんな【嘘】ついてたな。」
「……【嘘】?」
「おう。俺様は別にこいつの案内してねぇよ。ただ近くにいたからエサで釣って、適当にその場に立たせてただけだ。だいたいこいつ日本語が通じないし、何言ってるか俺様もわかんねぇから意思疎通なんかできやしねぇ。」
「え!? でも話してましたよね……?」
「話してねぇよ。あれ全部が話してるふり、嘘だ。因みにゾンビウィルスが空気中にどうたらも嘘だし俺様の『渡辺 正仁』って名前も嘘だ。というかあそこでの俺様は全てが嘘だ。全部こうなるように仕組んだんだよ。……ほらケーシィ。お待ちかねの肉まんやるよ。たまにはてめぇも役に立つな。」
俺様は【法螺話】の役に立った報酬として密入国者のケーシィに食堂のおばちゃんが作った肉まんを渡した。
「ニクマァン! kjfsdbujvdsgニクマァン!」
うるせぇ。
密入国者のケーシィは小躍りしながらどこかへと歩いて行った。
「肉まんと叫びながら踊りだすとか気でも狂ってるのかあいつは? ……まぁでも話が通じないのも日本語がしゃべれないってのも今回は役に立ったな。おかげで通訳の振りして簡単に話しの主導権を握れた。やっぱ美人ってのはそれだけで武器になるんだな。カカカッ!! 理不尽不平等不条理ばかりだぜこのクソみてぇな世の中はよ!!」
美人・可愛い・イケメンってだけで人生の難易度が変わるし、さらにそこに才能や産まれた環境までランダムに決められこの世に生まれさせられるんだからるんだからこの世界くそだよな。
はぁほんと、イケメンじゃないし才能もないし産まれた環境はろくでもない俺様にとったらマジで最悪な世界だぜ。
「そうだねぇ。でもそんなクソみてぇな世の中が大好きなんでしょ?」
何処からかそんな言葉が投げかけられた。
分かってるじゃねぇか!
「おぉそうだ! 理不尽不平等不条理なんてもんは、才能も容姿も力も知恵もなにも持っていない俺様が【嘘】だけでこの世界ごと全部ひっくり返してやるよ! そんでゆくゆくは俺様が上でふんぞり返っている強者に一発……。」
…………今の声、どこかで聞いたなぁ。
「……。」
「……。」
振り返ると紗希がいた。
すっごい魅惑的な笑顔を浮かべている。
「……いつから、いた?」
「『私は『渡辺 正仁』っていうのですがね。』」
最初からじゃねぇか。
おかしくね? 俺様ちゃんと周りを見回したりしてたんだぞ?
「……。」
「……。」
「君、僕の呼び出し無視したよね。」
こ、殺される!!
「サラバだ!!」
俺は走り出す!
あいつのあの笑顔はヤバい! 身体の内側から殺される!!
「逃がさないよ!! レベッカ!!」
「悪・即・斬!!」
紗希が叫び、謎の掛け声とともに背中に衝撃が走る。
ボキボキボキッ
「背骨から聞こえてはいけない音がぁぁぁああああ!!!?」
俺様はあまりの痛みに転げまわる。
「よしこのまま2-7に拉致るよ! レベッカさん、そいつの言葉には絶対に耳を貸したら駄目だよ! 最悪の場合魂が汚れる!!」
そして俺様は見たことない鼠色の髪の色をした、何故かウサミミをつけた女に縄で縛られる。
「なんだてめぇいきなり俺様に攻撃とは罰当たりな奴め!」
「罰当たり? お前は神様気取りか?」
背の小さな女はどこからか槍を取り出し俺様に切っ先を向けてくる。
「お前なんだその凶器!?こっちに向けてくるんじゃねぇ怖いわ!!」
「神の名を偽り語るのは悪だと私は知っている。」
「会話をしろやこのチビ女! お前のパンツでマスクでも作ってやろうかあぁん!?」
ブン殴られて口に布を詰められ目隠しをされた。
いくらなんでもやりすぎじゃないですかね!?
「この世界を乱す魔王が!風紀員である私の槍の錆にしてくれる!!」
この女は頭がおかしいのか!?
俺様はなんとか抗議しようともがくが、この女は力が強いうえに容赦がねぇ!?
なんで初対面の男にここまで酷い事が出来るの!?人間性のかけらもねぇな!!
「なんだその程度の力で抵抗のつもりか? 安心しろ。先程は槍の錆にしてやると言ったが大人しくしているならある所に連れて行くだけだ。」
女は俺様に体重をかけながら耳元で囁くように言う。
俺様は眼で『どういうことだ?』と聞く。
それが伝わったのか女は何故か笑顔になった。
「……なんかこの展開で私の立場かっこいいな。じゃなくて、そうだな。大人しくしているならお前を殺さずに『副作用研究部』へ連れて行く。そこでお前は解剖されるのだ。」
絶望の化身かこの女!?
選択肢がどちらも俺様に害をおよぼしてるじゃねぇか!
「さぁ行くぞ。」
そして女は俺様を担ぐ。
え、マジで俺様連れてかれるの?