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3 一方その頃 Bー1

 高希が食堂を出た後も俺様は1人で食堂に残っていた。

 カレー(ライス無し)を食べ終え、俺様『毒島 椛』はそのまま食堂にいすわりながらこれからどう行動するべきか悩んでいる。


 まずこのまま学校で『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)(笑)』という名のテロリスト達と共に行動していいのかだが、そもそも共に行動しないとこうして飯も食えないし夜も安心して眠る事が出来ないので共にいる以外の選択肢がないな。


 だから学校から逃げ出すって案は無しだ。俺様が1人で外に出た所で苦しい未来しか待ってないし。


 そうなると、今度はここで暮らすに当たっての俺様の身の振り方を考えないといけない。


 前提として俺様はゾンビウィルスに一切感染していなかったという貴重な存在であることと、高希の『役立たずな才能』と同じように『副作用』に個別で名前がつけられる『ネームド』であることを頭に入れておこう。


 こうなると『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』も俺様を雑には扱わないはずだ。


 ゾンビウィルスに感染していないって事実はこれから人を集めるうえで重要なカギになるはずだからな。もし感染しない方法が分かればこれから集める人間の中からゾンビが現れる確率は0になるんだ。そりゃ蝶よ花よと丁重に扱われるはずだ。


 つまり『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』に俺様は割と強気に出ても大丈夫だろう。もしなんか言われたら『ここから出て行くぞ』とか言えばいいしな。……監禁とかされない限りは。


 まぁ『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』とのつきあい方はひとまずこんなんでいいか。


 次に考えることは情報収集か。

 調べなきゃいけないことは大まかには『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』・『副作用』・『ゾンビ』・『世界の現状』・『紗希』だな。


 個人的には『紗希』が何故『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』から特別扱いされているかを知りたいが、生きるためにはまず敵である『ゾンビ』とそれに対抗できる俺様達の『副作用』を知る必要がある。


 幸い、『ゾンビ』の情報収集先にはあてがある。

 昨日の夜にもう1人の最高責任者という『ティア』ってやつから理科準備室に資料があるって聞き出せている。

 ……まぁ資料はもう俺様に見られないよう持ち出されているのかもしれないが、何かしらは残ってるだろう。


 俺様としては死体がベースの『ゾンビ』なんだ、そのまま腐敗がすすんで勝手に動けなくなっていくだろうからひとまずそれまで学校に閉じこもってたらいいと思うのだが何故か奴らはそうしない。


 この事実から考えられることは、『学校に閉じこもっている間に人類が死んでいってしまうのがいやだ。』と奴らが思っているからか、最悪なことに『ゾンビは腐敗しない。』という理由が考えられる。


 エンバーミング処理、いわゆる防腐処理や保存処理がされてない死体がいつまでも動くとは考えづらい。

 だが現にゾンビ共は話によると今日で4日間活動をしているらしい。


 死体になんて俺様は全然詳しくはないが、それでも4日の間死体を何もしないで放置すると死体が痛む事くらいはわかる。それなのにゾンビは今日も元気に動いている。


 あくまで推測の域はでないが、『ゾンビは腐敗しない。』というのは当たりだろう。


「……うし!んじゃまぁ行くか!」


 これからどうするか大体決まった俺様は椅子から立ち上がり気合いを入れる。


「おや。似合わない気合いなんか入れてどうしたのさ?」


 そこに食堂のおばちゃんが話しかけて来た。


「あぁ。ちょいと調べなきゃいけねぇ事があるからな。少しは頑張ってやろうかなとよ。」


「また悪だくみかい? 紗希ちゃんといい高希君といい、あんたらはほんとどんな状況になっても変わらないね。」


「カカカッ! あの2人ほどじゃねぇさ。んじゃカレーうまかったぜ。次はライスをつけろよクソババァ。」


「あぁ待ちな椛。これ持っていきな。」


 食堂から出ようとする俺様に食堂のおばちゃんは肉まんを渡してきた。


「あん? これって……。」


「さっき高希くんが頼んだ肉まんだ。忘れないようにっていったのに高希くん結局紗希ちゃんの肉まん忘れて行ったみたいだからね。あんたが変わりに持っていきな。」


「だが俺様は紗希に会いに行く訳じゃねぇぞ?」


「いいから持っていきな。なんかの拍子で会うかもしれないからね。」


 こうして俺は無理やり肉まんを渡されてしまった。

 いやほんとにいらねぇんだが……。


 まぁ小腹がすいた時にでも食うか。

 そう思いながら俺様は今度こそ食堂を後にした。


 そして下駄箱に行き靴を履く。

 バカ正直に校内から理科準備室に向かったら白いガスマスク達に見つかって面倒なことになりそうだから外から窓を開けて侵入する計画だ。


 たしか理科準備室は上の方にある小窓の鍵を俺様が1年生の頃に色々あって壊したので外から開ける事が出来るはずだ。


 そして外でせわしなく活動をしている白いガスマスク達に見つからないよう理科準備室の窓がある校舎の裏に行く。


「お。」


「? lkhs媽”……#%¥讓我ゴミクズsd个$&妈妈?」


 そしてもうすぐ校舎裏というところでこの世の美を集結させた、見るだけで正気が削れそうな美貌をもつ密入国者のケーシィとすれ違った。


 なんか言っているが相変わらず何言ってるかわかんねぇな密入国者のケーシィ。


 ……でも今ゴミクズって言わなかったか?


「もうほんと信じらんない! ずっと友達だと思ってたのにあんなことをするなんて!」


 密入国者のケーシィってやっぱ日本語使えるんじゃねぇかと疑っていると、女の怒声が聞こえてきた。


 俺は本能的に隠れ、声のした方に注意を向ける。


「な、なんで今その話しするのよ!」


 見ると校舎裏には5人の男女がいて、その中の女子2人が言い合っているようだ。


 おぅおぅ! やってるねぇ!!


「悪いが、俺らはもう美喜から聞いたぞ。梨花、お前がゾンビの群れに美喜を突き飛ばしたってな。」


 5人の中で一番背の高い男がポニーテールの女を庇うように言う。


「待って、あれは違うの!」


「なにが違うよ! そのせいで右足がうまく動かなくなったのよ私は! 責任取りなさいよね!」


 ポニーテールの女は庇われながらも大きな声でもう一人の女を責めている。


 いや、右足がうまく動かなくなった奴がそんなしっかり立ってられるもんかよ。絶対【嘘】じゃんそれ。


「そ……、そんなこと言ったって……。」


「俺も美喜の足を見たが酷いもんだったぞ。梨花、お前は自分が助かる為なら友人の命すらどうだっていいんだな。」


「どうだっていいなんてそんなこと……。」


「じゃぁあの時なんで私を突き飛ばしたのよ! 自分が助かるために私を囮にしようとしたんでしょ!」


 はっはーん。なるほどな。


 どうやら話を聞く限り『梨花』ていうツインテールの女が、ゾンビから逃げる時にポニーテールの『美喜』って女を突き飛ばしたらしいな。


 んで状況からしてその美喜が安全なこの学校内に無事保護されて、梨花に突き飛ばされた時の復讐をしてるのか。


 よーやるわなーこんなゾンビ蔓延る世界で。


 ……いや、こんな世界だからか?

 誰かの上に立つことで自分の精神状態を安定させようとでもしてんのか?

 しょーもねーなー。


 まっ、俺様には関係ないしとりあえずあの5人に見つからないように理科準備室に向かうか。


 ……って、あいつらよりにもよって理科準備室前で言い合ってるじゃねぇか。


 邪魔くせぇなぁ。


「だって」


「ほら『だって』って言った! ねぇあんた達も聞いたでしょ!!」


「あ、あぁ。」


 周りの男どもは反応からしてどうやら女2人の共通の知り合いみたいだし、美喜は梨花を分かりやすい敵として仕立て上げ自分は可哀想な被害者だと男どもに認識させてるって感じか。


 さてどうするか。

 とりあえず5人の声が良く聞こえる所に移動でもするか。


 ……あっ。なんか茂みに白いガスマスクと白衣落ちてるじゃねぇか。おいおい誰だよこんな所に捨てたやつ。やっぱ『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』ってどこかずさんだよな。


「『だって』なんて言い訳をする時くらいにしか使わないじゃない! 言っとくけど裏切り者の言い訳なんて聞きたくないわ!」


「だって私もあの時は必死で!」


「自分が死にそうだからって友人を殺そうとしていいの!? 最悪よねあんた!」


「そんなこと言ってないじゃない!」


 お。梨花ってやつがやり返したぞ。

 だがそれは悪手だなぁ。


「ちょっと寄らないでよ!」


 美喜は俺の予想通り男どもの方に隠れた。


「おいやめろよ!」


「カナメ……ありがとう。」


 ほーら、すぐに周りの男が美喜の味方した。


「梨花。美香から話しを聞いた時は信じれなかったが、どうやら本当みたいだな。」


「ちょっと引いたわ。」


「なんで、皆そんなこと言うの……?」


 美喜ってやつのあの強気な態度は言わば挑発なんだ。


 美喜のあの自信満々な態度は事前に男どもには梨花の不都合な事実を話してあるだろう。その不都合な事実をだしにして挑発し梨花自身にこうして目の前でやり返させるのが目的だ。


 梨花がやり返したら状況的にも、流れ的にも男どもはそりゃ美喜の味方になるわな。

 そして、一度でも敵と味方に別れたらもうそれを変えるのは難しい。


 今の梨花の悪手で美喜側に4人の仲間が。梨花はたった1人。

 このあとの展開は美喜が梨花を煮るなり焼くなり好きにする感じか。


「なんで? 今あんたなんでって言ったの!? 私にあんなことして、私の足にこんなケガまでさせてなんでって!! ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」


「あうっ!」


 お! 手を出しよったであの女!


 はたかれた梨花という女は倒れ、唖然としている。

 まさかはたかれるとは思っていなかったようだな。


「なぁ美香も落ち着けよ。な。」


「カナメ……もう私、1人で走る事も出来ないのよ……。これくらいいいじゃない……。」


 そんな唖然とする梨花の前で急にいちゃいちゃしだす美喜と背の高い男。


 あっ。これあれだ。態度からして美喜はあの男に惚れてるのか。


 なるほど。復讐ついでに可哀想な自分を助ける王子様的な立ち位置にあの背の高い男を設定したのか。


 やるなぁ美喜って女。


 ……て、こうして見ていても全然動かねぇなあいつら。

 しょうがねぇなぁ。やりたくはなかったがちょっかいだすかぁ。


 俺様は、何故かここに捨てられていた白いガスマスクを着け白衣にそでを通す。


「おい密入国者のケーシィ!」


 そして俺様はまだ近くにいた密入国者のケーシィに声をかけた。


「?」


 どこかに行こうとしていた密入国者のケーシィはなんだと言う顔で俺様を見る。


 そんな密入国者のケーシィに俺様は食堂のおばちゃんから貰った『肉まん』を見せた。


 密入国者のケーシィは食堂のおばちゃんの作るご飯が大好きで、食堂のおばちゃんの作ったご飯を見ただけで寄ってくるという謎の習性があるのだ。


 きっと密入国者のケーシィは頭が悪いのだろう。


「! ;ggg冀魯gghjkfクレ夫椒q-^\\;;[@;p@pl!!」


 密入国者のケーシィは驚いた顔をして、そして笑顔で案の定俺様に寄って来た。


 グッ!!?


 しまった……。すぐに眼を逸らしたが密入国者のケーシィの笑顔を一瞬だけ直視してしまった事により心臓が痛くなってしまったな。


 学校にいて抵抗がある俺様でもあまりの美しさに心臓が痛くなるんだ、他の奴が密入国者のケーシィの笑顔を見たら死ぬんじゃないのか?


 ……まぁいい。とりあえずこれで役者はそろったな。

 俺様は喉を鳴らして声の調子を整える。態度は……おどけたような感じで行くか。

 そんで名前だが……。……もう呼ばれる事も無くなった名前でも使ってやるか。






 さぁて。【法螺話(ほらばなし)】の始まりだ。






「あれ! こんなとこで何してるんだい君達!」


 俺様は元気よく5人に声をかけた。


「あんたなんすか?」


 一瞬驚いたかのような反応を全員が見せた後、すぐに男の1人が俺様に反応した。


「いや、私は『渡辺 正仁』っていうのですがね。こんな人気(ひとけ)の無い場所に君達がいたから何をしてるのかと思いまして。」


「何よ。あんたには関係ないでしょ。」


 おどけたように現れた俺様に予想どおり美喜が突っかかってくる。

 わかるわかる。これからが復讐のメインだったんだもんな。

 数の暴力で梨花をなぶろうとしてたんだもんな。


 でもそのせいで俺様が理科準備室に入るの遅れるのはいただけないんでね。


「あー、すみません渡辺さん。今ちょっと取り込み中ですのであまり…。」


「えっ、でもそこの女性泣きそうでは?」


 とりあえず一番乗り気でなさそうな長身の男に梨花が泣きそうだぞと言ってみる。


「何? 弱いものイジメでもしてるように見えた? 言っとくけどね! 被害者はこっちよ! 訳も知らないで頭突っ込んでこないでよね!!」


 美喜が俺様に詰め寄ってくる。

 やっべー思ったよりも強気だこいつ怖っ!

 というか右足を怪我してる設定だろお前!?

 そんなすばやく俺様に詰め寄ってきたら他の男にも【嘘】だってバレるぞバカ!


「おい美香、あんま動くと足が…。」


 ほら長身の男に心配されてんぞ! 落ち着け!


「おい。美香の言う通りあんましゃしゃりでてくんなよ。こっちは忙しいんだよ。ただでさえ訳わかんねぇ状況なんだ。イライラしてんだよ。わかるだろ?」


 美喜が引き下がると今度は別の男が詰め寄って来た。

 クッソやっぱ俺様1人じゃ分が悪すぎる! このままでは俺様にまで被害が出る!

 このままでは年下っぽい男にボコボコにしばかれる!


 俺はチラリと後ろを振り返る。

 そこにはまだ待ち人は来ない。


「はぁ。ですが、私は今ある人に学校を案内している最中でして……。」


「案内?」


 そう聞きながらも俺様を睨んでくる男。

 だから怖いから睨んでくるんじゃねぇよ!

 だいたい俺様は勝てそうな奴にしか喧嘩を振らないんだよ!


 俺はもう一度後ろを見る。

 だがまだ待ち人は来ない。


 え? もしかして帰った?

 ならもう俺様も帰ろうかなぁ。


 一応白いガスマスクもしてるから顔ばれもしてないし今からダッシュで逃げるか。


 そう思い逃げようと後ろに重心を移すと同時に後ろを見た。


 視界に銀色の髪が映った。


 やぁっときたな!


「えぇ。あ、丁度来ましたね。」


 俺様はそう言い、そのまま今きた人物のもとに走る。


「ケーシィ様! すみません先に行っちゃって!」


 超絶美女の密入国者のケーシィのもとへ。


 お前くんのおっせーよチビると思ったわ!


「ξφpqieψrzhsihナニfgiop8ji51?」


 だからなんて言ってんだよお前は。


「えぇ! はい! そうですねぇ。 それは私にも……。」


 そう思いながらも俺様はとりあえず話してるっぽくふるまう。


「ΔΓ651.:@ニクマン@,-^7……」


「いや、この人達は違うとは言っていたんですけど…。」


 今こいつ肉まんって言わなかった?


「お、おい渡辺さん!」


 適当に話してるふりをしていると、男の1人が話しかけて来た。


 喰いついたなアホめ!


「はい?」


 俺様は声に喜びが(にじ)まないよう、つとめて不思議そうな声をだし男の方を見る。


「ちょ、ちょっといいか?」


 男は遠慮気味に俺様を手招きする。


「いかがなさいましたか?」


「あ、あの女神みたいなお方は誰なんだ?」


「あちらはケーシィ様というお方です。【どういったお方かは我々『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』の機密事項なので言えませんが、ここに避難されている人達の状況を自分の目で確認したいとのことで学校を見て歩いている最中なんです。】」


 俺様は事前に聞かれるだろうと思っていた問いに用意していた【嘘】をつく。


「そ、そうか。見回り中なんですか。」


 男はそう言いながらも話してる俺ではなく密入国者のケーシィを見ている。

 まぁ最初は誰だって密入国者のケーシィの美貌にくぎ付けになるよなぁ。


「ijhfodhfsdjaoiewjcpダレoihgp?」


「渡辺さん。ケーシィ様はなんて言ってるんですか?」


 しらねぇよ。こっちが教えてほしいくらいだわ。


 ……なんて言えるわけ無いのでかわらず俺様は【嘘】をつく。


「えぇっと、【状況の説明を求めていますね。『何故そこの少女は泣きそうな顔をしているのですか?』と言っています。】」


「oidπυgΣhdfωψオイoih?」

「【『もしかして、1人の少女にあなた達は寄ってたかって悪いことを』】」


「「「めっそうもありません!!」」」


「!?」


「なっ!?」


 俺様の【嘘】を聞いた男どもは大声を上げた。

 それに女子2人、美喜と梨花は驚いたような表情をする。


「【そんな、こんな大変な時に仲間同士で喧嘩なんてする訳ないじゃないですか!】」


「ちょ、ちょっとカナメ?」


「【カナメの言う通りだですよ! 俺、平和主義者だし? イライラとかしたことない仏みたいな人間だし?】」


「【えぇ! えぇ! そうですよ俺達みんな家族! イジメ? なにそれかっこ悪い! イジメとか見たら俺すぐ成敗しちゃうね! 間違いない!!】」


「ね、ねぇいきなりどうしたの皆?」




「「「ちょっと黙ってろ!」」」




「…………はぁ!?」


 カカカッ! 急に仲間と思ってた男どもに黙れと言われた気分はどうだ美喜とやら!!


 いいか覚えとけ!

 男ってのはどんなに取り繕っていても美女が好きなんだよ!

 あとおっぱい!

 目の前にべらぼうな巨乳美女が現れて、その美女が『もしかしてあなたたちイジメをしているのですか?』って悲しそうに聞いてきたら男はそら否定するわ!


 だってかっこつけたいからな!

 男は美女の前ではかっこつけたい生き物なんだよ!


 それにすぐ否定したってことは一応いじめてるって自覚はあったみたいだしなこの男共。

 後ろめたいことを指摘されたら過剰に反応したりすぐに隠したくなったりするのが人間ってもんだ。


「ijfdg5!#$%&''&%#イキナリ16|~=?」


「渡辺さん! 通訳を!!」


「かしこまりました。」


 にしてもやっぱ男をここまで簡単に裏切らせるとは流石は密入国者のケーシィだな。

 美しいは悪だなやっぱ。


 人を惑わせる美しさや可愛さが正義な訳ない。


「……どうでしたか渡辺さん。」


 っと、そんなこと考えてないでさっさと【嘘】つかねぇとな。


「あーえぇっとですね…。【……どうやら皆様が素晴らしい紳士であると分かってくれたようですよ。】」


「「「おぉ!!」」」


 なにが『おぉ!!』だよ。

 面白いないつら。


「【ただケーシィ様は、ならば何故そこの少女は倒れているのかととても心配そうにおっしゃっております。】」


「あぁ……それはですね、【……あの、この子はちょっと転んで怪我をしてしまってですね……。】」


 お。この長身男の【嘘】は利用できそうだな。


「【怪我ですって!? それは大変だ!! はやく保健室に連れて行かなければ!!】」


 俺様は過剰なくらい焦ったような声を出す。


「ほ、保健室?」


 俺様の焦りように男の1人がつい言葉に出たのか呟いた。


「【えぇそうです! 今世界は沢山のゾンビに溢れているのは皆さんご存じですよね?】」


「え、えぇまぁ。」


「【ゾンビウィルスは実は空気中にも極めて微量ですが漂っています! もし怪我した所からゾンビウィルスが侵入したら大変でしょう? だからすぐにそこの少女には保健室に行き治療を受けてもらわないといけません!! なので今から連れていきます!!】」


「な!? 今から連れていくですって!? 大丈夫ですよ!!」


「【なにが大丈夫なもんですか! あなた達には分からないでしょうが本当に危険なんですよ! すぐに保健室に連れて行きます!】」


「あ、あのえーと……。」


 俺様の【嘘】の勢いに押されとうとう長身の男が口ごもる。


「ほ、ほら! 渡辺さんはケーシィ様に学校を案内してるんだろ? 保健室なら俺らが連れてくから渡辺さんはそのままケーシィ様の案内を続けてくださいよ!」


 すると、次は後ろにいた男子生徒が口を出してきた。


「【いえいえ、これでも私は『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』の一員。いわゆるプロです! 目の前に危険にさらされている人がいるのなら助けるのが私達の使命です!】」


 正直『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』なんてダセェ名前の機関の一員だなんて名乗りたくは無いが、【嘘】につかえるなら何でも使うのが俺様の数少ないプライドだ。


 さて、思ったよりもスムーズに事が進んだしさっさとやるか。


 そう思い俺様は梨花とやらに近付く。


「ちょっと待ってよ!!」


 そこに美喜が声を上げ立ちはだかる。


 ほぉ。密入国者のケーシィを初見で見て、さらに男どもに裏切られたにもかかわらず俺様に立ちはだかるか。


 ……復讐したいって気持ちは本物だったってことか。


 こりゃ、今の流れでくぎ刺しておかないとまた似たようなことしでかすなこの女。


 俺様は目の前の梨花と呼ばれる少女を見る。


 ツインテールで童顔。背丈や着てる制服からして中学生か?

 頬が赤く腫れている。思ったよりも強い力ではたかれていたんだな。


 …カッ。


 中学生で知り合いである男3人と女1人に校舎裏で私刑(リンチ)にあったんだ。


 確かに女、美喜とやらを囮として突き飛ばしたのは度し難いがこいつだって生き残るのに必死だったんだろう。

 人間は自分が助かる為なら何だってやるが、俺様はそれを重い罪だとは思わない。





 ……もう充分だろう。





「いいえ待ちません。……そう言えば、あなたも足がうまく動かないそうですね。そうだ! あなたも一緒に保健室に行きませんか?」


 俺様は焦った雰囲気・おどけた雰囲気を取り払い振り返る。


 そこにはビビりながらも俺様を強い瞳で見てくる美喜がいた。

 そいつの顔に、出来るだけドスの聞いた声で言う。




「本当に足が動かねぇのか、俺様が調べてやるよ。」


「ヒッ。」




 美喜は短い悲鳴を上げ、そのままなにも喋らなくなった。


【嘘つき】が一番嫌うのはせっかく積み上げて来た嘘が根本から(くつがえ)されることだ。

 そこにくぎを刺したんだ。しばらくはこいつも大人しくしてくれるだろう。


「あぁでもやはりまずは怪我をしたというそこの少女の治療を優先するべきですね!!」


 俺様は雰囲気をおどけた調子に戻す。


「さぁ。いきますよ!!」





 そして、俺様は倒れた少女、梨花に手を差し伸べた。


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