1 一方その頃 Aー1
私、『神 梨花』は今通っていた中学校から一番近くにある高校に保護されている。
私は紫薔薇東中学校に通う中学2年生。
一人っ子で両親は共働き、勉強は国語が得意で数学が苦手。趣味はパソコンで動画を見たりすること。
部活はバスケ部で、休みの日はよく友達と買い物へ行っていた。
「もうほんと信じらんない! ずっと友達だと思ってたのに、あんなことするなんて!」
そんな買い物へと一緒に行く、特に仲が良かった友達の『美喜』が私の目の前で敵意をむき出しにし叫んでいる。
ある朝美喜と待ち合わせをして学校へと向かう途中で沢山の血だらけの人に襲われ、その時近くにあった公園に避難をした。
そして、私達と同じように公園へと避難してきた2人の男の人としばらく一緒に隠れていたら、今度は白いガスマスクをつけた人が現れ、そこからまた血だらけの人達に襲われながらもこうして保護されたのだ。
だがその襲われた時に私はパニックに陥ってしまい、あろうことか美喜の背中をおもいっきり押してしまった。
美喜は私に押されたことにより、血だらけの人たちが沢山いる中で倒れてしまい死にかけてしまう。
なんとかその場は白いガスマスクの仲間だと言う高校生の人達に助けられこうして私と美喜は無事に生きてはいるのだが、それいらい私と美喜は言葉をかわせてはいない。
いや、私が1度美喜に『あの時はごめんなさい』と謝ったが無視をされたのだ。
そして、この高校に来てすぐに私と美喜は白いガスマスクの人達によって別々の教室にいれられてしまう。
私としては美喜にもっと謝りたかったのだが、教室の外には出してもらえなかった。
なので今日の朝、朝食をとるために食堂へと白いガスマスクの人に何人かの人達とまとめて一緒に案内されている途中で美喜に会うと『白いガスマスク達に見つからないように私について来て』と言われたのは少し驚いた。
まさか美喜の方から話しかけてくるなんて思わなかったから。
私は美喜の言葉に従い、他の人達にばれないよう2人で食堂へ向かう列から抜けだした。
そしてそのまま黙って人気のない方へと歩いて行く美喜へついていく。
私は校舎裏にある薄暗い雰囲気の場所へ連れて来られた。
そこには私と美喜と同じ中学校の制服を着た男が3人いた。
何とも言えないような表情をしてその3人は立っていて、その中にはバスケ部の先輩である『カナメ』先輩もいた。
よく見るとカナメ先輩以外の2人の男も、同じクラスの男子生徒だった。
(先輩も無事だったんだ…!)
私はこんなよく知らない所でカナメ先輩と再会できた事が嬉しく、そのまま私が声をかけようとした時に美喜は言ったのだ。
『私を殺そうとした梨花を連れて来たわ。』と。
そして話は冒頭に戻る。
私はなんで美喜が今このタイミングであの時の話しをするのか理解が出来ない。
「な、なんで今その話しするの!?」
先程までは静かに私を連れて歩いてきたのにいきなり怒り狂ったかのように私に怒鳴る、そんな美喜の豹変ぶりに驚きながらも私は疑問をぶつけた。
今は『カナメ』先輩や他の知り合いの人と再会できたことを喜ぶべきじゃないの?
なんで今あの時の事を非難してくるの?
「悪いが、俺らはもう美喜から聞いたぞ。梨花、お前がゾンビの群れに美喜を突き飛ばしたってな。」
私の疑問は美喜に無視され、変わりにカナメ先輩が口を開いた。
カナメ先輩の表情はとても困っているようだったけど、眼は美喜と同じように私を非難している。
「待って、あれは違うの!」
「なにが違うよ! そのせいで右足がうまく動かなくなったのよ私は! 責任取りなさいよね!」
私はその先輩の眼に耐えられず咄嗟に声をだすが、その声に美喜はすぐに噛みついてきた。
「そ…、そんなこと言ったって…。」
私はオロオロと周りの皆を見る。
だがそこには私を救ってくれるような人はいなかった。
それどころか残りの男子生徒2人も私を非難する眼を向けている。
「俺も美喜の足を見たが酷いもんだったぞ。梨花、お前は自分が助かる為なら友人の命すら犠牲にしてもいいんだな。」
男子生徒の1人が口を開く。
「どうだっていいなんてそんなこと…。」
「じゃぁあの時なんで私を突き飛ばしたのよ! 自分が助かるために私を囮にしようとしたんでしょ!」
「だって」
「ほら『だって』って言った! ねぇあんた達も聞いたでしょ!!」
美喜は私の言葉をことごとく否定していき、カナメ先輩達にも同意を求める。
「あ、あぁ。」
カナメ先輩を始め、残りの男子生徒も美喜の肩を持った。
いつの間にか私は校舎を背に美喜達4人に囲まれるように立たされている。
まるで、私にあの時の罪をここで清算させようとするかのようだ。
「『だって』なんて言い訳をする時くらいにしか使わないじゃない! 言っとくけど裏切り者の言い訳なんて聞きたくないわ!」
「私もあの時は死にそうで!」
「自分が死にそうだからって友人を殺そうとしていいの!? 最悪よねあんたって!」
「そんなこと言ってないじゃない!」
気付けば段々と声を荒げながら近寄ってくる美喜に恐怖し私は叫んでいた。
「キャッ!」
美喜は私のその叫びに驚いたのか後ずさり、カナメ先輩にぶつかる。
「おい梨花! 落ち着けよ!」
カナメ先輩はぶつかってきた美喜を優しく支えながら私へ怒鳴る。
「カナメ先輩…ありがとう。」
美喜は笑みを浮かべながら私に怒鳴るカナメ先輩に感謝の言葉を呟いていた。
そんな…、私はただ美喜が怖くて…。
「梨花。美喜から話しを聞いた時は信じれなかったが、どうやら本当みたいだな。」
「ちょっと引いたわ。」
2人の男子生徒もカナメ先輩の怒鳴りに続いて私へ辛い言葉を浴びせてくる。
「なんで、皆そんなこと言うの…?」
私はこんなにおかしくなった世界でもまた皆と再会できてうれしいのに、皆は違うの?
あんなに学校で仲良く笑い合ってたじゃない?
一緒にカラオケとか、みんなで行ったじゃない?
なんでそんな怖い眼で私を見るの?
なんでそんな酷い事を言うの?
私があんなことしたから、皆が私を否定するの?
ねぇ、やめて、お願いやめてよ、怖いよ、辛いよぉ…。
「『なんで』? 今あんた『なんで』って言ったの!? 私にあんなことをして、私の足にこんなケガまでさせて『なんで』って!! ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」
「あうっ!」
頬に痛みがはしり、身体にうまく力が入れられていなかった私はそのまま地面に倒れた。
数秒して、美喜にはたかれたのだと理解した。
「美喜も落ち着けよ。な?」
「カナメ…もう私、1人で走る事も出来ないのよ…。これくらいいいじゃない…。」
私をはたいた美喜はカナメ先輩に優しく抱きしめられている。
カナメ先輩は美喜を安心させるように微笑み、私には冷たい眼を向けてくる。
その後ろから男子生徒が2人カナメ先輩と同じ目で私を見下す。
やめて。やめてよ。お願いやめて…。やめて嫌だ。やめてお願い私をそんな目で見ないでごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私が悪かったですだからもう許して下さい。お願いお願いしますから誰か私を許して許し
「あれ! こんなとこで何してるんだい君達!」
私が謝罪の言葉を必死に唱えていると、場違いな声が響いた。
反射的にその声が聞こえた方に顔を向けると、そこには白いガスマスクに白衣を着たこの高校でよく見かける服装の人が立っていた。
「あんたなんすか?」
男子生徒の1人が突然現れた白いガスマスクに声をかける。
「いや、私は『渡辺 正仁』っていうのですがね。こんな人気の無い場所に君達がいたから何をしてるのかと思いまして。」
白いガスマスク…『渡辺』さんはおどけたように大げさな手ぶりをつけながら私達に近付いて来る。
「何よ。あんたには関係ないでしょ。」
「あー、すみません渡辺さん。今ちょっと取り込み中ですのであまり…。」
美喜は不機嫌そうに言い、カナメ先輩はやはり少し困ったように渡辺さんへ対応する。
「えっ、でもそこの女性泣きそうでは?」
だが渡辺さんはそのまま私達に近付く足を止めずに近くまでやってきて、私を見ながら言った。
「何? 弱いものイジメでもしてるように見えた? 言っとくけどね! 被害者は私よ! 訳も知らないで頭突っ込んでこないでよね!!」
美喜の言った『被害者』という言葉に心臓が締め付けられたかのように苦しくなる。
美喜が『被害者』なら、『加害者』は私になるのだろう…。
苦しい。何でこんなに苦しいの…。
「おい美喜、あんま動くと足が…。」
「美喜の言う通りあんましゃしゃりでてくんなよガスマスク。こっちは忙しいんだよ。ただでさえ訳わかんねぇ状況なんだ。イライラしてんだよ。わかるだろ?」
男子生徒が睨みながら渡辺さんへ一歩近づく。
「はぁ。ですが、私は今ある人に学校を案内している最中でして…。」
だが渡辺さんは相変わらずおどけたような態度で話す。
「案内?」
「えぇ。あ、丁度来ましたね。」
渡辺さんはそう言うとくるりと振り返り手を振る。
「ケーシィ様! すみません先に行っちゃって!」
そうして現れた人を見て私は、いやこの場にいる渡辺さん以外の人は全員眼を奪われた。
「「「「「はぇ…」」」」」
全員、同じように口を開け思わず出た声が重なる。
渡辺さんの後ろから現れたのは、まさしく女神さまだったのだ。
まだ距離はあるが、それでもわかる完璧な目鼻だちをした美くしいという言葉すら足りない顔立ち。
モデルばりにすらりと長く伸びたシミ1つない手足と、太陽光を反射し光り輝く銀色の髪。
私は今の状況すら忘れただただ見惚れる。
あぁ、あのお方が『美』か…。
「――――――――――――」
『美』の化身、いや女神さまが口を開いた。残念ながらここまで声は聞こえてこないが何かは言っているようだ。
「えぇ! はい! そうですねぇ。 それは私にも…。」
いつの間にか渡辺さんはその女神さまの側に立っていた。
どうやら何かを話しているようだ。
「――――――――――――」
「いや、この人達は違うとは言っていたんですけど…。」
「――――――――――――」
「そうですが…。はい。確かに私もそう思います。」
女神さまの声はよく聞こえて来ないが、元から声が大きい渡辺さんの声はよく聞こえてくる。
「お、おい渡辺さん!」
女神さまが私達を見ながら何を渡辺さんと話しているのか気になったのか、たまらず男子生徒が声をかけた。
「…はい?」
「ちょ、ちょっといいか?」
「いかがなさいましたか?」
渡辺さんは男子生徒に呼ばれるがまま女神さまの側から私達の方へと戻ってくる。
「あ、あの女神みたいなお方は誰なんだ?」
男子生徒が今私達が聞きたいことを代表して聞いてくれた。
というか、男子生徒もあの人の事を女神さまって言うんだ…。
「あちらはケーシィ様というお方です。どういったお方かは我々『人類最終永続機関』の機密事項なので言えませんが、ここに避難されている人達の状況を自分の目で確認したいとのことで学校を見て歩いている最中なんです。」
『人類最終永続機関』とは、私達がここに保護された時に一番最初に説明された団体の事かな?
残された人類を救う最終防衛ラインとか言っていたけど、正直なところ胡散臭さはぬぐえない。そもそもそんな団体の人達がなんでこの高校を拠点として居るのだろうか?
でも、あんなオーラが凄い女神さまみたいな人がいるのならその『人類最終永続機関』って団体もあながち間違った事を言っているわけではないのかも…。
「そ、そうか。見回り中なんですか。」
「――――――――――――」
男子生徒の納得した言葉にまた女神さまが何かをいうが、やはり少し遠いのかよく聞きとれない。
そもそも、日本語で話している様子ではない。まぁあんな恐ろしさすら感じる美貌の持ち主さんなんだ。きっと外国の知らない国からやってきているのだろう。
「渡辺さん。ケーシィ様はなんて言ってるんですか?」
「えぇっと、状況の説明を求めていますね。『何故そこの少女は倒れていて、その周りをあなた達は囲んでいるのですか?』と言っています。」
渡辺さんが女神さまの言葉を通訳してくれる。
そしてそれを聞いた瞬間、カナメ先輩を含めた男子生徒達の顔色が一気に悪くなった。
「――――――――――――?」
「『もしかして、1人の少女にあなた達は寄ってたかって何か悪いことを
「「「めっそうもありません!!」」」
渡辺さんの通訳を遮り、男3人は叫んだ。
「!?」
「なっ!?」
いきなり大声で叫んだ3人に私と美喜は驚く。
「そんな、こんな大変な時に仲間同士で喧嘩なんてする訳ないじゃないですか!」
そんな私達女子2人の驚きをよそにカナメ先輩は叫ぶ。
「えちょ、ちょっとカナメ先輩?」
美喜はいきなりとりみだし始めたカナメ先輩に戸惑いながら声をかけるが無視をされている。
「カナメ先輩の言う通りだですよ! 俺はほら、平和主義者だし? イライラとかしたことない仏みたいな人間だし? 人類は南無阿弥陀仏? みたいな?」
「えぇ! えぇ! そうですよ俺達みんな家族! イジメ? なにそれかっこ悪い! イジメとか見たら俺すぐ成敗しちゃうね! 間違いない!!」
「ね、ねぇいきなりどうしたの皆?」
「「「ちょっと黙ってろ!」」」
「………はぁ!?」
いきなり男子生徒3人に、先程まで仲間だった全員に黙ってろと言われた美喜は目を白黒させながら驚いている。
「――――――――――――?」
「渡辺さん! 通訳を!!」
女神さまがまた何かを言い、カナメ先輩はすぐに白いガスマスクに通訳を頼む。
流石カナメ先輩。指示が素早く的確だ。
「あーえぇっとですね…。……どうやら皆様が素晴らしい紳士であると分かってくれたようですよ。」
「「「おぉ!!」」」
「ただケーシィ様は、ならば何故そこの少女は倒れているのかととても心配そうにおっしゃっております。」
「あぁ…それはですね、…あの、この子はちょっと転んで怪我をしてしまってですね…。」
カナメ先輩が何故かここで嘘をついた。
「怪我ですって!? それは大変だ!! はやく保健室に連れて行かなければ!!」
しかしそれが嘘だと知らない渡辺さんは、急に慌てたような声を出す。
「ほ、保健室?」
「えぇそうです! 今世界は沢山のゾンビに溢れているのは皆さんご存じですよね?」
渡辺さんは元から身ぶりてぶりが大げさだったが、今は身ぶりがてぶりがさらに凄いことになっている。しかも早口だから、相当慌てているのだろう。
「え、えぇまぁ。」
「ゾンビウィルスは実は空気中にも極めて微量ですが漂っています! もし怪我した所からゾンビウィルスが侵入したら大変でしょう? だからすぐにそこの少女には保健室に行き治療を受けてもらわないといけません!! なので今から連れていきます!!」
「な!? 今から連れていくですって!? 大丈夫ですよ!!」
今から保健室に私を連れて行くと言う渡辺さんにカナメ先輩は焦りだす。
それはそうだろう。だって私は怪我をしていないのだ。
今私が保健室に連れていかれたらカナメ先輩がついた嘘がばれてしまう。
というか、そもそもなぜカナメ先輩はこんな嘘をついてしまったのだろうか…?
「なにが大丈夫なもんですか! あなた達には分からないでしょうが本当に危険なんですよ! すぐに保健室に連れて行きます!」
「あ、あのえーと…。」
「ほ、ほら! 渡辺さんはケーシィ様に学校を案内してるんだろ? 保健室なら俺らが連れてくから渡辺さんはそのままケーシィ様の案内を続けてくださいよ!」
カナメ先輩が口ごもると、次は後ろにいた男子生徒が口を出してきた。
「いえいえ、これでも私は『人類最終永続機関』の一員。いわゆるプロです! 目の前に危険にさらされている人がいるのなら助けるのが私達の使命です!」
それでも渡辺さんは有無を言わせない調子でそう言い、ずんずんと歩いてすぐに私の目の前にまで来た。
「ちょっと待ってよ!!」
そこに美喜が声を上げ立ちはだかる。
美喜はあの私に向けていたものと同じ敵意のある眼で渡辺さんを睨んでいる。
私は先程まであの眼にさらされていた。だから、渡辺さんは私が感じたあの恐怖を前にしているんだ…。
もしかしたらこのまま美喜を怖がってどこかに行ってしまうんじゃないのかと心配してしまう。
だが、そんなのは杞憂だった。
「いいえ待ちません。…そう言えば、あなたも足がうまく動かないそうですね。そうだ! あなたも一緒に保健室に行きませんか?」
渡辺さんは敵意をむき出しにする美喜にためらいなくそう言うと、そのまま美喜に顔を近づける。
「本当に足が動かねぇのか、俺様が調べてやるよ。」
そして美喜と近くにいた私にしか聞こえない、小さくそれでいて威圧的な声でそう言い放った。
「ヒッ。」
渡辺さんの纏っていた雰囲気の変わりように美喜は小さく悲鳴を上げ、そのままなにも喋れなくなってしまった。
「あぁでもやはりまずは怪我をしたというそこの少女の治療を優先するべきですね!!」
それを見て渡辺さんは雰囲気を一瞬でおどけたようなものに戻し、それは楽しそうに声を上げる。
そして…
「さぁ。いきますよ!!」
そして、私に優しく手を差し伸べてくれた。




