5 「第1印象」
「よし。まずはお互い自己紹介から始めていこうじゃないか。まずこの冴えない醜男は『佐藤 高希』。ただのバカだよ。で、こちらのウサミミをつけた女性は人類最終永続機関所属の『レベッカ』さん。研究員で主に記録を担当してるそうだよ。因みにウサミミは本物ね。」
「よろしくなレベッカ。そのウサミミ似合ってるぜ。」
「殺す。」
第三者が来たことにより幾分か冷静になった俺とバニーガールことレベッカは、紗希からお互いの説明を受けている。
…俺の紹介が少し酷くないか?
「因みにさっき僕が言った『高希に会わせなきゃいけない人』がこのレベッカさんだね。高希とレベッカさんには『こもり探索任務』での仲間として一緒に外に行ってもらう手はずになっているんだ。」
「つまりチームってことか。まぁなんだ。出会いは最悪だったけどこれからは互いに背中を預ける仲間なんだ。仲良くやろうぜ。それで、ウサミミついてるけど人間の耳はどうなってんだ? やっぱ無いのか?」
「殺す。」
「高希。レベッカさんはウサミミを気にしてるからあまり触れないであげて。」
「それを早く言ってくれよ紗希。わかった。ウサミミにはもう触れない。この際だし今迄の事は水に流そうぜ。プールだけにな。」
「殺す。」
俺はもしかしたらNPCと話してるのかもしれない。
「なぁレベッカの殺意が高いんだけどチェンジしてもらっていいか?」
「だめだね。レベッカさんほど高希の班に適した人は人類最終永続機関にいないから。」
「適した人? 人類最終永続機関の研究者は沢山いるだろ?」
レベッカが俺と同じ班に適した人と紗希は言うが、少なくとも今のレベッカとは仲良くどころかちゃんと会話が出来るかすら怪しいのだが。なんなら背中を見せたら槍で刺されそう。
「研究者は42人だね。その中で『記録部門所属』『あつかいやすい』『人類進化薬を投与されている』『いなくてもそこまで学校は困らない』『ある程度危険な場所に行っても大丈夫な判断力・戦闘力を持っている』『暇人』という条件が全て当てはまっているのがレベッカさんしかいなかったんだよ。」
「おい紗希。暇人とはどういうことだ? 私は『風紀員』としてこの学校の秩序を守る役目があるのだぞ。」
レベッカが紗希の説明につっかかる。俺的には『暇人』以外にもつっかかるべきところがあったような気もするが、本人が気にしていないなら別に良いだろう。
そんなことより、さっきもレベッカが言っていたが『風紀員』という役職の方が気になる。
元の学校では『風紀員』というものは無かった。
つまり、俺が5日間寝ている間に出来た重要な役職なのかもしれない…。
「レベッカさんはこの通り皆が忙しそうなのに自分だけ暇なのは居心地がわるいからと勝手に自分の事を『風紀員』と名乗って学校内部の見回りをしているんだよ。」
「『風紀員』って自分で名乗ってるだけかよ。」
「貴様ら私を愚弄するか!」
顔を赤くしウサミミをピーンと伸ばしながらレベッカが怒る。
レベッカって可哀想なんだな。頭が。
「でもレベッカさん、今回の『こもり探索任務』の同行をメイドのアンナさんに任命された時は嬉しくて震えていたじゃない。」
「そ、それは別に頼られた事やアンナ様に自分の事を覚えていて貰えた事が嬉しかったとかじゃなく、純粋に人を救うという内容の任務に対して武者ぶるいをしていただけだ!」
「おいレベッカ。ウサミミがなんかピョコピョコしてるがもしかして動揺してないか?」
「み、見るなこの変態が!!」
「まぁまぁ落ち着いて。とにかく2人にはしっかり班としての信頼的なものを得て貰いたいから、これからは学校内でも一緒に行動してもらうから宜しくね。」
紗希がだんだんとヒートアップしていくレベッカを落ち着かせながら言う。
それにしても学校内でも一緒に行動か。
もしかして他の班もまとまって行動していたりするのだろうか?
「クッ…。アンナ様からの指令でなければこんな男と班など組まないというのに…。」
レベッカが憎らしげに俺を見る。
仲良くやっていけるか今から不安でしかたがないな。
「なぁ。班って言うからには俺とレベッカだけじゃないんだよな?」
「うん。レベッカさんの他にもあと4人が高希の班にいるね。」
ほーん。ということは俺も合わせて班は6人か。
レベッカとはファーストコンタクトで大失敗してしまったからな。他の4人とはうまくやって行きたい。
学校でずっと行動を共にするんだからできるだけなじみやすい奴らが班になってくれたらいいんだが…。
「そうそう。高希とレベッカさんの班なんだけど、部門は探索班でその中でも特殊な任務を受けてもらう第0班に所属してもらうよ。」
「え、第0班? かっこいい…。」
レベッカが第0班と聞き声を漏らす。『罪殺の槍』って叫んだりするし、もしかしたらこのウサミミ感性が中学生男児なのかもしれないな。
俺としては班の番号よりも部門の方が重要だ。
「探索班ってことはやっぱ『外』に行くのがメインになるのか?」
「そりゃ勿論。だって高希の頭じゃ製造とかインフラ整備みたいなの出来ないでしょ? というかインフラ整備って分かる? まぁ分かんないんだろうけど。」
紗希がそう言って俺を挑発してくる。
クソッ。難しい言葉を使って頭いいアピールかよ。
勿論俺には『インフラ整備』なんて言葉は分からない。生まれて初めて聞いた。
だがここで素直に分かりませんと言うのもなんだか悔しい。
『インフラ整備』って言葉自体が分からなくても、何か似たような言葉があればそれに類する何かの可能性もある。何か、何か似たような言葉は無いか…。
インフラ整備、…インフラ、……インモラ、…インモラル…。
インモラル!!
インモラルって響きが似てるな!
確かインモラルっていうのは…。
『インモラル』
意味: みだらなさま。不道徳。
「どちゃくそエッチでみだらなものを整備するんだろ。」
「うん。やっぱ高希には外で働いてもらった方が良いね。できるだけ学校にいてほしくない。」
「なぁ。私は本当にこんな奴と班を組まなければならないのか?」
2人の反応からすると、どうやら少し違うみたいだな。
「おうおう酷い言いようだな。まるで俺がバカな奴みたいじゃないか。」
「徹頭徹尾バカなんだよ高希は。」
「話しかけてくるなバカが感染する。」
呆れたような目と完全に見下してきている目が俺に突き刺さる。
なんだ? 俺そんな変な事言ったか?
「そういえば高希。レベッカさんと殺し合いをしていたって事はまだプール入ってないんでしょ?」
「おう入ってないな。ついでだし皆で一緒に入るか?」
「こいつの腕を縛ってプールに沈めていいか?」
「そうだね。縛る際に紐は切られちゃうかもだから針金を使おうね。足の健もちゃんと切っておくんだよ?」
「なるほどな。紗希ってヤクザかじってたりする?」
場を和ませようと小粋なジョークを言ったつもりなのだがどうやら逆効果だったらしい。チクショウ。
「僕は高希の班に入る最後の1人がまだ見つからないから探してくるよ。レベッカさんはどうする? ここにいたってことはプールに入るのかな?」
「いや。私はもうプールに入った後だ。」
「そう。なら一緒に最後の1人を探すの手伝ってくれないかな?」
「あいわかった。」
「じゃぁ高希。プールに入ったら2-7、僕達の教室だった所に来てね。そこに高希の班員が集まっているから。……あんまり遅くならないようにね?」
「あいよ。プール入るだけなんだから1時間もかかんねぇよ。」
「ならいいんだけどね。じゃぁまたあとでね。」
紗希はそう言い手を振り、レベッカを連れながらグランド方面に歩いて行く。
よし。俺もさっさとプールに入って2-7に行かないとな。
…2-7にはもう他の仲間になる奴が揃っているのだろうか?
だとしたら身だしなみもしっかりしなくてはな。
今回の事で、第一印象は大切だって学んだのだから。