2 秘密はあばいてこそ価値があるってものさ
「なんか、学校全体にでっかい柵が作られてるな。立てこもるのかな? 準備をするのがはやいなぁ。」
日の光の中に映える艶の有る黒髪を肩まで伸ばした男子生徒の服を着ている見ため美少女こと紗希は、表情をあまり変えずに言葉を吐きだした。
紗希はメイドの元から逃げた後、学校の所々にいる白衣のガスマスク集団に見つからないよう歩き、柵が途切れている所はないか探していた。
だが軽く見渡しても柵が途切れる様子がない為、もう柵をよじ登るかと柵に近付く。
そして柵に手が届くほど近寄ったところで、近くに看板が立っている事に気づく。
「ほぉ。電流注意、か。」
看板には『電流が流れているため触るのは駄目だ』と書かれていた。
「………」
紗希は無言であたりの地面を見渡す。
そしてミミズを見付け、それを拾い上げ柵に向かって投げた。
一瞬小さくバチッと音がなり、地面に落ちたミミズはそのまま動かなくなっていた。
「うーん…。電流は本当に流れてるみたいだね。となると、やっぱりこの学校から抜け出すには柵のない所からになるんだけど、校門の方には見張りがいるみたいだしなぁ。裏口の方はどうかな?」
仕方ないとため息をつき、学校の裏手に回る為紗希はまた歩き出した。
そしてガスマスク達をうまくかわし、学校の裏手にある教員・来客用の無駄に大きい駐車場につき紗希は驚きの声を上げた。
「おぉすごい! 駐車場がトラックで埋め尽くされてる光景は初めて見るなぁ。そういえばグランドにも結構な数トラックがあったっけ…」
紗希は好奇心に任せて沢山あるトラックに近付く。
トラックはどうやら殆どが10tトラックのようで、後ろにある荷台の扉がいくつか開け放たれていた。
紗希はトラックの荷台を覗きこみ、沢山の白衣とガスマスクを見付けた。
「あ、これあいつらの服とガスマスクじゃん! ガスマスク一回つけてみたかったんだよねぇ。」
紗希は当たり前のように荷台に乗りこみ、新品らしいガスマスクをつけ、自分のサイズに合った白衣を着る。
「うんうん。ばっちり似合うね。」
近くになぜかあった姿見に映った自分の姿に満足げにうなづく紗希。
「おいお前!!」
そこに大声が飛び込んできた。
紗希は即座に荷台の出口を見るが、そこに人影はなかった。
「なんだろ?」
荷台から降り、あたりを見回す。
すると隅の方に置いてある、他のトラックとは少し形の違うトラックで2人の人間がいるのに気づく。
紗希はその2人に近付き耳を澄ます。すると、2人の男の声が聞こえて来た。
「体育館の方を手伝ってくれねぇか!? 今緊急事態で体育館の人手が足りないんだ!!」
走ってきたのか、息を切らしている男がトラックの荷台の前に立つ男に言う。
「緊急事態だぁ? まさか生徒か教員が銃を持ってる俺らにたてついたのか?」
「そんなバカなことある訳ねぇだろ! なんでも手違いで『奇跡の存在』、『レベル0』を2人も重症にしちまったみたいなんだよ!」
「…はぁ!? おいおいそれマジか!?」
荷台の前に立つ男は事の重大さに声を荒げる。
「こんな状況で嘘つくほど俺はイカれてねぇよ! お前たしか医療系かじってたろ!? 時間がないから早く体育館に来てくれ!」
「つったって、俺『アンナ』さんにこのトラック見張れって…。」
「こっちは『アドルフ』局長から直接頼まれてんだよ!」
「局長も体育館にいんのか?」
「当たり前だろ!」
「クソッ。俺絶対離れんなよって言われてんのに…。お前さ、俺の代わりにトラック見張っててくんね?」
「無理無理! 俺だって今忙しいんだよ!」
「だよなぁ…。誰か暇な奴に代わってもらえれば…。…? おいお前! 何してんだ!」
荷台の前にいる男はあたりを見回し、ボケっと立っていた紗希に気づく。
「あーいや、大きな声がしたからなんなんだろうと思ってさ?」
紗希はさも当たり前のように2人の男に近付き言った。
男達は一瞬いぶかしむ。
だが紗希は今白衣とガスマスクをしている。なので顔は分からず、白衣のおかげで制服が隠れていた。
そしてなにより男達は、そんな自然体で接してくる紗希に違和感を感じず、まさかこの学校の生徒だと思わず仲間に接するように話しかける。
「あぁ、実は今体育館で」
「事情は大体聞こえてたから大丈夫。」
紗希は男の声をさえぎり言う。
「そうか。…そうだ、お前今手空いてるか!?」
「僕の手ならこのとおり空いてるけど。」
「なら丁度いい! お前、こいつの代わりにトラック見張っててくんねーか?」
「えっ?」
まさかの展開に紗希は思わず声を上げる。
「話し聞いてたならわかるだろ? 今は人類の緊急事態なんだ! 頼む!!」
「人類の? まぁ見張るくらいなら大丈夫だけど、このトラック何入ってるの?」
紗希の疑問に息を切らしていた男も気になっていたのか荷台前の男を見る。
しかし、荷台前の男も首を振る。
「いや、俺も実は知らないんだ。ただ、アンナさんが言うにうちの重大機密が保管されてるから絶対にここを離れんなよとしか。」
「そうなんだ。…まぁとりあえず君達が戻ってくるまでは見張っとくよ。」
「助かる。 じゃぁこれ渡しとくぞ。」
男は紗希に黒い棒状の物を渡す。
「これは?」
「何か異常事態が起きたら押せとアンナさんから渡されたリモコンだ。」
「へぇ。こんなのもあるんだ。」
確かに、棒の上の面に赤いスイッチのようなものが確認出来た。
「じゃぁ俺らは体育館に行くから見張り頼んだぞ!」
「まかせてよ!」
2人の男は紗希に軽く手を振り駆け出す。
「よし。じゃぁ荷物の点検致しますか!」
そして男達が駆け出してから10秒とたたずに紗希は行動を開始した。
だが、このトラックは他のトラックと違い荷台を守るように様々な金属が張り付いていた。
「クッ。開け方が分からない…。」
紗希はどこかに開けるスイッチはないかとトラックの周りを歩く。
「あっ、ドアあいてるやーん。」
そこでドアが開いてる事に気づく。
「鍵もついてる。」
上の方にあるドアを何とか開け、運転席に登り乗り鍵がついたままなのを発見する。その鍵を紗希はためらいなくまわした。
トラックはけたたましい音を鳴らす。
「あっ。エンジンがかかった。うーん。このまま運転して校門突き破って学校から脱出しようかな…。いやでも僕免許持ってないしなぁ…。…ん? 何だこのボタン。」
紗希が物騒なことを口走りながら運転席を見まわしていると、サイドブレーキの隣に赤いボタンがあるのを見つけた。
その赤いボタンは透明なケースに守られ、黒いドクロマークが描かれていた。
「まさか、自爆スイッチかな? やった。一度押してみたかったんだよね自爆スイッチ。」
勿論紗希は迷うことなくそのボタンを押す。
すると、後ろの方から金属がこすれ、ぶつかりあう音がしてきた。
「え、なになに?」
紗希はエンジンをかけたまま運転席から飛び降りトラックの後ろへ向かう。
「おぉ。荷台のロックが外れてく。」
紗希の言う通り、トラックの荷台を守るようにつけられていた様々な金属は1つ1つ開きだしていた。
そして、最後の金属が荷台から剥がれると、そこには1つのハンドルが取り付けられていた。
「このハンドルを回すのかな?」
紗希はハンドルに触れる。
「アハハハ。御開帳~。」
そして、やはりためらいもなくハンドルを回し荷台を開けるのだ。
「あなた、だぁれ…?」
そうして、2人は出会ったのだ。