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神崎鈴羽は、せんぱいに構われたい。  作者: みゅう
第一部 第一章 神崎鈴羽は騒がしい。
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第5話 休日(1)

 土曜日。約束の時間の十分前に俺が大学前に着くと、千里(せんり)が先に来て俺を待っていた。

 千里が待ち合わせにおいて、俺より後に来る事はまずない。もしそんな事があれば、それは本当に何かがあった時だろう。


「うっす」


 近付き、挨拶(あいさつ)をする。


「やぁ、隆之(たかゆき)


 俺の顔を見て、千里がその顔に微笑を浮かべる。


「今日は悪いね。付き合ってもらって」

「気にするな。俺も休日を過ごす相手くらい、ちゃんと選ぶ」

「それはまた、嬉しい事を言ってくれる」


 千里は俺の言葉を社交辞令的なものとして受け取ったようだが、俺も人間なので、本当に嫌なら嫌と言うし、一緒にいたくない相手とわざわざ休日に会ったりはしない。

 そういうところは意外と俺はシビアである。


「とりあえず駅行くか」

「そうだね。今日はよろしく頼むよ」

「おう。任せとけ。今日は完璧にお前をナビゲートしてやるよ」

「そう言ってもらえると、こちらとしても心強いよ」


 お互い冗談半分にそんな事を言い合い、俺達は並んで最寄り駅へと向かう。


「例の彼女とは、よく一緒に休日を過ごすのかい?」

「いや別に、あいつと俺はいつも一緒にいるわけじゃ……。先週も土日は会ってないし、今週も今のところ会う予定はないよ」

「へー。そうなんだ。てっきり、もっと頻繁に会ってるとばかり思っていたよ」

「別に無理して休日に会わんでも、平日にも会うし、何より毎日だとあいつの相手はさすがに疲れる」


 昨日も学校で会うなり、今流行(はや)りのユーチューバーの話をされ、大変だった。何が大変って、今まで名前すら知らなかったその人物に、途端興味が()いてしまい、結果チャンネル登録までしてしまったのだ。

 本当に、なんて事をしてくれたんだ、俺の睡眠時間がこれ以上(けず)られたらどうしてくれる。


「とはいえ、嫌いじゃないんだろ? 彼女と過ごす時間も」

「……」


 その問いに関しては、ノーコメントとさせてもらおう。どちらの答えを返しても、おそらく俺に得はないだろう。


「千里こそ、浮いた話の一つや二つないのかよ」

「残念ながら、今も昔もその手の経験はなくてね」

「いや、それはさすがに嘘だろ」


 この容姿と性格でその発言は、冗談にしても笑えない。


「ホントだよ。あまり、家のせいばかりにもしたくないんだが、ウチの両親は案外古風な人達でね。男女が安易に付き合う事に抵抗があるらしい。そういう家庭で育った事も、経験のなさに少なからず影響はしていると思う」


 なるほど。相手がいくらその気になっても、本人がこの調子では進展も何もあったものじゃないか。


「そういう隆之はどうなんだ?」

「俺は……まぁ、色々とな」


 いい思い出もあれば悪い思い出もある。思い出したくないものから、少し嫌な気分になる程度のものまで、本当に色々と。


「そうか。いやに女性の扱いに慣れてると思ったら、経験者だったか」

「経験者言うな」


 なんか違う感じに聞こえるだろ。


「ところで、今日はどんな本を買うんだ?」


 雲行きが怪しくなってきたので、こちらから少し強引ながら話題を替える。


「専門書、と言えばいいのかな、アレは。刀について詳しく書かれた本が欲しいんだ」

「……」


 いや、まさか。千里に限って、それは……。


「もしかして、千里。例のアプリゲームやってる?」

「あぁ。知り合いから(すす)められてやってみたら、存外ハマってしまってね。それで本物にも興味を持ったんだ」

「へー……。そうなんだ。千里もゲームとかやるんだな」


 失礼ながら、その手のものとは無縁かと思っていた。


「まぁ、それだけなんだけどね。ウチにはゲーム機はなかったし、やりたいと思った事もなかったから、高校を卒業するまでいわゆるゲームと呼ばれるものとは関わりがなかったんだ」

「俺とは真逆な人生だな。中学生の時は、ゲームばかりやってよく親に怒られたよ」


 高校に入ってからは要領良くゲームをやる事を覚え、それに関しては怒られなくなった。


「くくく」

「なんだよ」


 急に(こら)えるように笑い出した千里に、俺は眉を(ひそ)ませ、尋ねる。


「いや、すまない。今の隆之からは、そんな姿想像出来ないと思ってね」

「まぁ、言いたい事は分かる」


 今の俺は言ってしまえば平均点の男だ。悪くない状態を維持し続けているだけの、面白味(おもしろみ)のない人間である。


「くくく」


 そんな面白味のない人間を見て笑える千里は、ひどく変わった感性を持った人間と言えるだろう。


「……」


 それにしても、笑い過ぎだ。




 最寄り駅から徒歩三分の所に、今日の目的地はあった。


 二つのビルが並び立ち、その二つに挟まれるように少し背の低いビルが建っていた。

 その全ては内部で繋がっており、行き来が出来るようになっている。


 確か、左のビルが十二階建てで、右のビルが二十三階建て、真ん中のビルは内部が吹き抜けになっており高さとしては十階相当の建物だったと思う。


「デカイな」


 この場所に初めて来たらしい千里が、建物を見上げ、そう感想を()らす。


 高さだけで言ったら、これより大きな建物は付近にも存在するが、建物全体の外観を遠くから(なが)めた場合、やはり「デカい」という感想が最初に口を付いて出る事だろう。


 実際、俺も初めて見た時は、千里のようになった。


「本屋は右側のビルの地下一階と六階にあるけど、まず下から攻めるか」

「あぁ……」


 若干、まだ放心状態から脱しきれていない千里を引き連れ、俺は右のビルに進む。


 自動扉を(くぐ)り、そのまま直進をし、エスカレーターへと向かう。下りの方に乗り込み、地下へ。するとそこには――本屋が広がっていた。

 フロアの一角が本屋、なのではなく、フロア丸ごと全てが本屋、なのである。その広さは圧巻であり、少し異様でもあった。


(すご)いな」


 建物を見た時同様、千里がそう言葉をこぼす。


「とりあえず適当に中回るか。今日のメインは、どちらかと言うと上の方だからな」

「了解した。君に任せるよ」


 そういうと千里は、その顔に(ほの)かに笑みを浮かべた。


 地下一階は、いわゆる一般向けの本が置かれたエリアとなっている。コミック、雑誌、文庫、児童書、新書など、どこの本屋でも置かれている部類の本が、しかし普通の本屋では考えられないくらいたくさんの種類置かれている。


「千里は日頃、本は読むのか? あー、専門書じゃなくて、こういう……」

「コミックはあまり、かな。小説は、父の書斎にある物をたまに。隆之は?」

「俺は漫画(まんが)くらいで読書は……」


 活字が一切ダメとまではいかないが、物語形式になったものは長時間見ていられない。


 そして、そんな俺とは対照的に、意外な事に鈴羽(すずは)は、結構日頃から本をよく読むらしい。

 なのに、なぜあんな仕上がりになってしまったのだろう。不思議であり、非常に残念だ。


「隆之はどの辺の漫画を読んでるんだ?」


 ちょうど、コミックスの売り場に足を踏み入れたという事もあってか、千里がそう俺に聞いてくる。


「俺が今読んでるのは――」


 適当に目に付いた、家にある漫画を抜き出しては千里に見せる。


「なるほど。隆之はこういうのが好きなのか」

「まぁ、最近はそうだな」


 大学に入ってから、微妙にだが漫画の好みも変わった。昔読んでいた漫画を全く読まなくなったわけではないが、新たに読み始めた物はやはり今までとは若干毛色が違う物が多い。


「この中で、隆之のお勧めはどれなんだ?」

「お勧めか……」


 また難しい質問をしてくれる。面白そうな物というざっくりした質問でも難しいのに、お勧めとなるとすぐには思い付かない。


「しいて言うなら……」


 俺は少し悩んだ後、一冊の本を捜し、手に取る。


「コレかな」


 それは、ある少女のなんの変哲もない日常を描いた物語だった。ただその日常は、俺逹の知るものとは違う、別世界の日常ではあるが。


「今までのとは、少しテイストが違う気がするが」


「お勧めって事は、相手あってのものだろ? お前に合わなそうなやつを見せても、意味ないじゃないか」

「なるほど。……じゃあ、それを買おうかな」

「いや、勧めといてアレだけど、中身も知らずに買うのはどうなんだ? 今度一冊貸してやるよ。それで気に入ったら買えばいい」


 勧めて買わせたらいいが、千里に合わなかったでは、俺も申し訳ないし。


「分かった。隆之がそう言うなら、それに従おう」


 いや、別にいいんだけど、こいつの俺への絶対的な信頼は一体なんなんだろう。特に何かをした覚えはないのだが……。


 地下一階を適当に回ると、今度は六階に向かう。


 二人でエレベーターに乗り込み、俺がボタンを押す。

 休日という事もあり、数人の乗り降りを経て、俺逹乗るエレベーターは六階に到着した。


 六階も地下一階と同じく、ワンフロアが丸ごと本屋となっている。六階には専門書が置かれており、大学の授業で使う本もここには結構置いてある。


「千里の探してる系統の本は……」


 記憶と勘と案内表記を便りに、刀に関する本が置かれたエリアを目指す。


「おぉ……」


 自分の探していた種類の本が大量に置かれた様を見て、千里が感嘆の声を漏らす。


「少し見てもいいか?」

「あぁ。存分に見てくれ」


 今日は、そのためにここに来たのだから。

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