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1Hチャレンジシリーズ

1H作文チャレンジ20171205

作者: あるつ

個人的も納得いってなかったのでリニューアル。

あのあと自分の書きたいお題はどこだったのかってのを考え直して練り直しました。


多少はましになってる、はず。

お題:リボン、少女、心臓


 白い天井、白い壁、白いカーテン。目を開けると飛び込むのは圧倒的な白さ。気が付いたときから、私はここにいた。毎日運ばれてくるのは味気のない食べ物。口に運んでもむせてちゃんと飲み込めない日も多い。私を産んでくれたパパとママは、なんとかして外へ連れ出そうとしてくれてはいる。けれど、体を車椅子に移すだけでも一苦労で、調子の悪い日はベッドと車椅子を往復するだけで終わってしまう。このままこの部屋から出ることなく終わってしまうのかな、と毎日のように考えていた。ママが読み聞かせてくれる絵本には、私と違って元気な子がたくさん出てきてた。私が異常で、みんなが正常。毎日同じ景色で同じものを食べる生活。おそらく同世代の子よりも感情というものが削られてしまったのかもしれない。そんなある日のこと。


「やっ、はじめまして。」


 そう言って私の前に現れたのは、とても活発(に見える)女の子。髪の毛をグリーンのリボンで纏めている。どこか懐かしい雰囲気を持っている子だった。


「……だれ?」

「誰だっていいさ。それよりさ、一緒に遊ぼう?」

「無理だよ。体を動かしたら苦しくなるもん。」

「大丈夫!体なんか動かさなくていいから!」


 そう言って女の子が取り出したのは1枚の真っ白な紙と鉛筆。お絵描きなんてここから一歩も出たことのない私には飽きた遊びなんだけどな。付き合ってあげようかな、と紙を手に取ろうとすると、さっと紙を取り上げられた。


「まだだめ!…これを、こーやって。それから…」


 何やらこそこそと見せないようにしながら描いている。手の動きからして細かい図形ではないようだ。しばらくして、「できた!」との声が上がったが、一向に絵を見せてくれる気配はない。


「質問です!…将来、何になりたい?」

「何って、まだこの部屋から出れてないんだから、考えようもないでしょ。」

「それはそうだけど…ほら、イメージで!何かない?」


 純真といっても差し支えのないきれいな笑顔を向けられ、逃げようのない状況が生まれる。とはいっても本当に想像がつかないため、適当に「お医者さん」と言ってみることにした。


「お医者さんね!じゃあ、何歳から働く…いや、学校に行くのが先だね。専門学校に行くのはいつになるかなぁ?」

「いつ、って…そんなの、わからないけど…たぶん、20歳くらい?」

「じゃあ20歳に学校に入学、っと…で、次なるイベントは?」


 ここから始まったのは医者(になると仮定した私)の人生に関する大量の質問攻め。開業医なのか、それとも途中で路線変更して看護師なのか。院内で相手を見つけるのか、学生時代にラブロマンスで玉の輿を狙うのか。子供はいつ産むのか、両親が先立つのはいつのことなのか。などなど。時系列に沿って質問され、80歳くらいで看取られて死ぬところまでたどり着いた。質問の数が多すぎて途中からはうんざりとしていたが、彼女は喜々として進めていた。そして今度こそ完成したようだ。紙をこちらに見せてくれる。


「じゃーん!人生ゲーム!」


 その名の通り、今から死ぬまでの双六ゲーム。すべてのマスの内容に質問の回答がぎっしりと埋められている。途中でマスが足らなかったのか、追加で線を書き足したりもしていた。近くに転がっていた、おそらく彼女が持ってきたであろうパンダと馬の消しゴムを1マス目に置く。


「ねぇ、これ。サイコロとかルーレットは?」

「あっ、忘れてた!ごめん、今取って来…」


 そう言いながら立ち上がったところで、彼女がぴたりと動きを止めた。


「あちゃぁ。…ごめん、続きはまた今度ね!この遊びは秘密だよ、じゃーね!」


 早口で告げるのとほぼ同時か、それより早く紙と鉛筆、消しゴムと持ってきたものすべてを抱えて走り去っていった。それから1分もたたないうちに、先生の回診がやってきた。


「おや、起きてたのかい。どうかな?調子は。」

「今のところは悪くないです。いつも通り、という感じですけど。」

「そうか。悪化していないようで何よりだ。ところで、体を動かしてみたのかい?どうだった?」


 先生の視線の先に目を向けると、先ほどまで彼女が座っていた場所のシーツが乱れていた。


「ちょっと頑張ってみましたけど、難しかったです。」

「そうか。できれば、私たちの見ていないところでのチャレンジは我慢してもらえないかな。何かあったときに助けられないから。」

「はい。すみません。」


 なぜだかさっきの彼女のことは話す気にはなれなかった。一通り診察を終えた先生が、ひと呼吸を開けてから、これまで以上に丁寧な口調で話し出した。


「キミの体のことなんだけどね。…治るかもしれないんだ。」


 一瞬、何を言われたかわからなかった。生まれてこの方、ずっと見てきたこの部屋を、今になって出ることができるようになるという。医療技術は日進月歩らしいが、その恩恵にあやかることができるというのだろうか。治るかもしれない、というワードがじんわりと脳内に染み込んだタイミングを計って、先生が続きを話し出した。


「治す、というよりは交換する、のほうが正しいかもしれない。臓器移植、っていうのは聞いたことがあるかな?」

「はい。あります。」

「ちょうどキミに近い子の臓器が手配できるかもしれないんだ。手術を頑張ってくれたら、この病気を治すことができるよ。」

「…本当ですか?」

「ああ。あとは君の決断だけなんだ。準備はできてて、いつでもオッケーなんだよ。あ、別に今日じゃなくても…」

「大丈夫です。よろしくお願いします。」


即決だった。何がここまで動かしたのかはわからない。あまりの即答に先生も面食らっていたようだったが、気を取り直し、続ける。


「…わかった。最短で実施は4日後だよ。4日後でいいのかい?」

「はい。よろしくお願いします。」


 「よし、今から急ピッチで準備を進めてくるね!」と立ち上がり退出した先生を見送ったときの顔。この時は表情がほころんでいたと思う。この話を聞いてからというもの、自分にも未来があるということをよく考えるようになった。偶然にも、先生が来る前に話していた未来の自分を描いた人生ゲーム。これを作ったことで、より自分の未来像を細かく想像するようになっていた。

 翌日も、女の子は来た。


「やっほ!またつくろっか!」

「うん。」

「あれ?何だか元気だね。」


 女の子にも手術が4日後に決まったと報告すると、我が事のように大喜びしだした。万歳三唱からの固い握手、明日は赤飯だなんだのと。対応がなんだかズレてる気もするが、喜んでくれているのに水を差すのは申し訳ないのでそのまま受け取っておく。ひとしきり喜んだ(騒いだ)後になって、本来の目的と言わんばかりに紙と鉛筆を取り出す。


「じゃあ、余計に未来の設計やってみなくちゃね!昨日はお医者さんだったし、今日は別のお仕事にしようよ。」

「えっ?昨日の続きじゃないの?」

「あの紙、どっかいっちゃって…てへへ」

「なにそれっ、おっちょこちょいね。…じゃあ、パティシエかな」


 そのあとは昨日と同じ質問攻めタイム。昨日と大きく違うのは、私の心境だろう。嫌々だった昨日から、揚々と話し出す今日になった。どんな質問にも細かく答えるようにし、将来がどうなるのか、自分の考えうる妄想を広げていった。自分が良く話すようになってしまったためか、人生ゲームを作るよりも未来について語る時間になってしまっていた。気づけば日は落ち、面会時間の終わりが来る。


「あっ、もうこんな時間。看護師さんの面会が来るし、また明日、話そうね!」

「うん。またね。」


 そう言って別れた後、看護師さんの巡回ののちに消灯となったが、なかなか寝付けなかった。次の日も、女の子はやってきた。


「ねぇ、今日はどんな将来のお話をするの?」

「私ね、写真をいっぱい撮ってみたい。お仕事とは違うけど、いろんなところに行って、いろんな写真を撮ってみたいな。たとえばね…」


 私が話すのを嬉しそうに聞いてくれる。今日は女の子が質問するよりもすらすらと、私の中から思っていることがあふれ出してきた。日が傾いてきた頃、すべて話し尽くした、出し切ったという満足感に包まれながら、少し静かな時間を二人で過ごしていた。そんな中、ぽつりと女の子がいつもとは違う雰囲気で尋ねる。


「ねぇ。ここまで話してて、最後に聞きたいんだけどさ。この先も、生きていたい?」


 突然何をいいだしたのか、最初はよくわからなかった。だが、その問いに対する答えは、今なら持ってる。


「生きたい。ほんとにちょっと前まではこんなこと思いもしなかったけど、生きたいな。」

「うん、そっか。…手術って、自分の気持ちで成功する確率が変わるんだって!その気持ち、忘れたらだめだよっ!」


 一瞬のトーンダウンと納得の後、これまでよりもさらにテンションを上げて話しかけてきていたと思う。そのあとも、あれやこれやと話をし、昨日と同じ看護師さんの巡回の時間が迫ってきた。


「もうすぐかぁ。」

「そうだね。」

「あたしね、明日は会いに来れないんだ。だからね、これ…」


 そう言って女の子は自分の髪を纏めていた緑のリボンを解き、私の髪を編んでくれた。


「…いいの?」

「うん。これ、お守り。頑張ってね!」

「ありがとう。無事に終わったら、また来て。お返ししてあげなきゃ。」

「うん。わかった。それまで預かっててね。」

「もちろん。大切にするよ。」

「じゃあね!」

「またね。」





 結論から言うと、私の手術は成功したが、その後女の子が来ることはなかった。リハビリと称して院内を歩くも、どこにもその姿はない。結局数か月のリハビリも完遂して退院することになったが、その間1度も女の子の顔を見ることはなかった。

 そして数年後、自分で買ったカメラを手に、夜の山を登る。登山を意識した服装に、入院時代より肌身離さず身に着けている緑のリボンはジャケットのアクセサリとして風になびいている。歩みを進め、山頂より1kmほど手前の開けた場所。何度かこの山に登ったことはあるが、ここがベストポジションだ。土草が服につくのも気にせず寝転ぶ。レンズをのぞき込むと、その先には障害物は一つもない、満天の夜空。以前の調子では感じることも叶わなかった木のにおい、山のざわめき、星のかがやき。それが今は一身に受けることができている。自分の直感で、人差し指の筋肉を動かす。軽快な音とともに、夜空が切り取られた。レンズから目を離し、液晶で出来栄えを確認する。納得の一枚だった。


「うん、きれい。」


 心臓が喜びを表しているのか、一層大きな音を刻んだ気がした。

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