第五十四話【約束】
「やべ、先生だ」
緑髪が、慌てたような表情で小さく呟く。
いつかバレるだろうとは思っていたけど……まさかボコしてやろうと思っていた今だとは。
タイミング悪すぎだろ。
上半身裸の男の子一人と、制服を着ている三人。
この場面を見たら誰だっていじめだと分かるはずだ。
先生は怖い表情で近付いて来つつも口を開き、
「おい、どうしてアルトリア一人が服を脱いでいる! 誰か説明しろ」
だが、いじめっ子三人は無言。
クロード先生の圧力にビビっているのだろう。
実際この先生の顔は、迫力がやばい。
裏闘技場の選手なのではないかと思うレベル。
体も大きいし。
裏闘技場第1位の人……とかではないよな?
はぁ、とにかく俺がこの状況を何とかしてやるか。
赤髪ロストはまたあとでボコせばいい。
とりあえずこの担任をどこかへやらないと、そもそもロストに攻撃出来ない。
「あの、別に何でもないですよ? ただ単に遊んでいただけなんで」
俺が作り笑いでそう言うと、クロード先生は眉間にしわを寄せる。
やはりそう簡単には信じてもらえないか?
「どう見ても遊びじゃないだろ! お前ら三人がよってたかってアルトリアをいじめていたのか?」
先生が俺から視線を外し赤髪の方を睨むが、三人は目を逸らして無言を貫いている。
あー、面倒くせぇ。
俺はいじめっ子三人の前に移動して先生の目を見ると、
「本当に違います。実は特訓をしていました。俺が打たれ強いのは先生も知っているでしょ?」
「まあそれは分かるが‥‥‥」
「なので更に防御力を強化しようかなと思いまして。‥‥‥この子たちに協力してもらってました」
実際こいつらは、結構魔法攻撃をしてくれるからありがたいんだよな。
自分で殴るだけだと、魔法に対する防御力があまり育たない。
俺の返答に対し、先生は腕を組んで考えるような表情をする。
そして数秒の間が空いた後、
「ほう、なるほどな。まあ事情は分かったが‥‥‥ほどほどにしとけよ?」
よし。
「あ、はい。分かりました」
作り笑いをしつつもそう返事をすると、先生は振り向いてどこかへと歩いて行った。
ふぅ、乗り切れたぜ。
さてと‥‥‥。
じゃあ邪魔者もいなくなったし、ロストを半殺しにしてやろう。
こいつは絶対に許さん。
そう思い、三人の方を振り向くと。
「おい、お前……どうして俺たちを庇ったんだよ!?」
ロストが強めの口調でそう言って来た。
とても不思議そうな表情をしている。
答える訳ねぇだろ。
お母さんを馬鹿にするような、クソ野郎の質問に答えるつもりなんてない。
「‥‥‥」
無言で三人に歩み寄る。
「はっ、ブスなババァの子供は、顔だけじゃなく性格も不細工だな」
は?
何の余裕を取り戻したのかは知らんが、ロストは再び減らず口を叩き出した。
「‥‥‥」
止めだ。
半殺しは止め。
俺は何を言われてもいいけど、お母さんのことをここまで言われて許せるはずがない。
‥‥‥。
顔面を潰して、どこかに吊るすか?
ほぼ全部の関節を折るか?
金髪と緑髪の二人に、強制的にロストを攻撃させるか?
いや、それだけだと収まらん。
精神的にもダメージを与えたい。
……。
ふっ、いいことを思いついた。
確か二日後に、このアラストル学園で武闘大会が開催されるはずだ。
学園中の腕自慢が集まって、優勝を目指すだけの大会。
うん、十分だ。
数日前、食堂でご飯を食べていた時に、ロストと他の友人の会話が聞こえて来たのだ。
その時言っていたのは、俺は今年武闘大会に出る! とのことらしい。
よし! 決定。
その武闘大会で痛めつけよう。
そして全校生徒の前で大恥をかかせる。
正直俺のおおよその強さは、去年の一年間でばれている。
だから今更武闘大会である程度目立っても大丈夫だろう。
何にせよ、全校生徒の前で精神的にも物理的にも強烈なダメージを与えてやらねば気が済まん。
「おい、やっぱりてめぇは言い返すことも出来ねぇ弱虫だな」
「なあ、ロストくん?」
俺は必死で感情を堪え、歯を食いしばりながら問いかけた。
「あ? 何だ?」
ロストは目を細める。
「君って明後日の武闘大会に出るんだよね?」
「ああ、でも弱虫のお前には関係ないだろ」
「あるよ。だって俺も出るから」
真顔でそう言ってみると、少しの間が空いた後、三人は大きい声で腹を抑えながら笑い出した。
「「あははは」」
「お前ら聞いたか? 弱虫の平民が出るんだってよ! ちょっと体育の成績がいいからってうぬぼれてんじゃねぇのか? 悪いけど身体能力なんて実践では何の役にも立たないぜ?」
ロストくんや、わざわざご忠告ありがとう。
「だからさ、そこで戦おうよ」
そう宣言すると、ロストは首を曲げて口元をにやけさせる。
「は? お前誰に喧嘩売ってるのか分かってんの?」
「うん」
赤髪ロスト。
苗字は忘れた。
けど、この子は学年内で結構有名だ。
今現在二年生魔術コースのSクラスらしいしな。
そう、彼はこの一年間でFクラスからSクラスまで上り詰めたのだ。
確か二年生魔術コースには約540人の生徒がいた為、Sクラスになれたのはかなりすごいと思う。
おそらく一年間俺に魔法を撃ち続けていたから、普通以上に上達したのだろう。
実際俺に効かないとのことで、かなり悔しそうにしていたしな。
おおかた夏休みとか、放課後にたくさん努力したんだと思うぜ?
「面白いじゃん。じゃあ今言ったこと絶対忘れるなよ? 逃げたりしたら殺すから。‥‥‥分かった?」
「了解」
逃げる訳なかろう。
スライムから逃げるドラゴンがどこにいるのだろうか。いや、いない。
「あ、因みにだけどさ‥‥‥いつもお前に撃っている炎魔法、半分も本気を出していないから」
……ほう。
やはり何かを隠し持っているらしい。
心配せずともこいつなら絶対に勝ちあがって来る。
いつも火の魔法を受けているから分かるけど、明らかに二年生のレベルではない。
更に、自称それが半分の力らしい。
つまり上級生とでも余裕で戦えるということだ。
因みに俺が勝ち上がれるかどうかは、言わなくても分かるだろう。
毎年死者が絶えず、かなり危険だとされている非合法の裏闘技場で第2位をキープしているこの俺が負けるはずはない。
正直自信しかない。
ということで俺とロストは約束をした。
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