第四十九話【強い魔物?】
「で、出たんだよ!」
すると、ガラの悪い連中は笑いだす。
「がはは」
「おい、聞いたか? 出たんだってよ」
「けつの穴から実が出たんじゃねぇのか?」
「ははっ、傑作だな」
‥‥‥下品すぎだろ。
言っていることがあまりにも幼稚すぎるわ。
とまあ、あいつらは置いといて、いったい何があったんだろう。
まさか本当に漏らした訳ではあるまい。
もし仮に漏らしたのならこんなギルドではなく、真っ先に自宅の水浴び場へ行くはずだ。
「一旦落ち着いてください」
受付の女性は、若干困ったような表情をしつつもそう言った。
「あ、ああ。そうだな‥‥‥」
‥‥‥どうやら落ち着いたらしい。
いきなり入って来たり。
いきなり大声を出したり。
急に落ち着いたり。
忙しい奴だな。
「で、何があったのか詳しく教えてもらえますか?」
「‥‥‥門の近くの草原に出たんだよ。ものすごい強い魔物が!」
強い魔物?
うわぁ、見てみたいなぁ。
でも、どうせ猿とかオークのことを言っているんじゃねぇのか?
受付の女性は冷静に対応していく。
「どんな感じの見た目でした?」
「えーっと、赤い‥‥‥そう、赤かったんだよ! オークが!」
んんっ?
あ、赤!?
まさか‥‥‥。
「魔物が赤いんですか?」
「ああ、今も門の近くで暴れていて、馬車に乗っていた数人の商人たちが殺されているんだよ」
「本当ですか!? ちょっと待っていてください」
受付の女性は慌てた表情で奥の部屋へと入って行く。
「魔物が赤いだと? どうせ見間違いなんじゃねぇのか?」
「誰かが絵の具で塗っていたりしてな」
「がはは。まあ何にせよ‥‥‥俺たちがいたら一瞬よ」
何言ってんだ、あいつら。
酒飲みごときがに勝てる訳ねぇだろ。
汗で服がべとべとになっているこの男性の言っていることが本当なら、俺には心当たりがある。
今まで赤い魔物には一度しか出会ったことがない。
そう、俺の大切なお母さんを殺したゴブリンだ。
少しして‥‥‥。
奥の部屋からギルドマスターが出て来た。
彼は一目見て圧倒されるほど体が大きい。
何故か二年連続で俺の担任になったフォード先生に、雰囲気が似ている。
まあこっちは顎ひげがあって不衛生だが。
って、そんなことは今どうでもいい。
ギルドマスターはこの部屋を見渡しながら、大きな声で話し始める。
「おい、今から俺がクエストを出す。Aランク以上の冒険者は引き受けてくれ。勿論報酬は国からたくさんもらえるはずだ」
すると、少しの沈黙が流れたあと、フードを被った一人の男性が椅子から立ち上がった。
「俺はAランクになったばかりだが‥‥‥戦力にはなるだろう」
そしてそれに続くように掲示板の近くにいた四人グループが手を挙げる。
「俺たち、斬撃の咆哮も行くぜ?」
‥‥‥斬撃の咆哮って、何そのダサい名前。
「あ、あの人たちがいるなら安心だ」
「お、俺たちが出なくても大丈夫そうだぜ。がはは」
酒ばかり飲んでいるガラの悪いの口ぶりからして、そうとう有名らしい。
悪いけど約一年間冒険者やってて初めて知ったわ。
「他に参加する奴はいないか?」
ギルドマスターが険しい顔でそう言うが、誰も手を挙げない。
さっきまで大口を叩いていやがったガラの悪い連中はだんまり。
うん、口だけなのは知ってたぜ。
おおかた本物の実力者が集まったせいで、事の重大さに気付いたのだろう。
俺も参加したいんだけど‥‥‥Cランクだしな。
絶対行かせてくれないわ。
ということで、あとからこっそり行ってみよう。
「よし、じゃあこの五人は急いで正門へ向かってくれ」
「「はい」」
「「了解」」
「御意」
Aランク冒険者はそれぞれ返事をし、ギルドの外へと出て行った。
さて、俺も出発だ。
もし俺の勘が正しければ赤色の魔物は危険。
七歳の頃に倒した赤いゴブリンと何らかの関わりがある可能性もなくはない。
そうなると、Aランク冒険者ごときが手に負えるような相手じゃないのは確かだ。
そう考え入り口のドアを開けた。
その時。
「おい‥‥‥お前まさか行く気じゃねぇだろうな」
後ろからギルドマスターの低い声が聞こえて来た。
まあこのタイミングで外へ出ようとしていたら疑われて当然か。
「いえ。あまりよさそうなクエストが無かったので、今日のところは家へ帰ろうかなと思いまして」
因みに俺は自分が学生だということをギルドの者に伝えていない。
この世界では、俺のような年齢の子が学校に通っていないのは珍しいことじゃない。
むしろ学生の方が割合的に少ないのだ。
だからお金を稼ぐ為に、たまにここで仕事をしているという設定にしてある。
‥‥‥てよく考えたら、俺って嘘ばかりついてるやん。
学校で名前を偽っているし。
親も偽っているし。
唯一素直でいられるのは、あの闘技場くらいだ。
そろそろ学校の先生にばれたりしないのかなと不安になるのだが‥‥‥今のところ大丈夫のようだ。
実は俺の担任であるクロード先生は、去年の夏休みを使って、俺が住んでいた森よりもかなり遠い場所に住んでいるフォード=アルトリアさんに会いに行ったらしい。
まじかよって思ったのだが、先生が「お前の言っていた通り、あいつはお前が小さい時から厳しい訓練をさせていたんだな」と言っていたので、フォードさんが話を合わせてくれたのだろう。
俺の言葉に、ギルドマスターは疑うような表情をすることもなく頷く。
「そうか。‥‥‥またいい仕事を探しておくからな?」
「あ、はい。お願いします」
ということで俺はギルドから出ると、街中を歩き出した。
さて、これから赤いオークとやらと戦いに行くのはいいけど、多分人目がたくさんあると思うから、俺が俺だと分からないような恰好をする必要がある。
とりあえず適当な服屋に寄って顔を隠せるようなものを買おう。
そう考え、ギルドから少し歩いた所にある服の絵が描かれている建物の中に入り、中で黒色のフード付きの上着を購入した。
そして再び外に出て、街の正門方向へ向かう。
にしてもさっきのお店、初めて行ったんだけど‥‥‥結構俺好みの服がたくさんあったな。
店員の兎耳が生えている女性も可愛かったし、また来よう。
「てか今の俺、絶対怪しい奴だよな?」
黒色のフードによって目元辺りをすべて隠している。
そのフードからは、長めの前髪が若干出て来ている。
ぶかぶかな衣服越しにも分かる逆三角形の体。
袖から出ている両手はやたら傷だらけ。
そして身長はちび‥‥‥うるせぇなぁ!!
好きで小さくなっている訳じゃねぇよ。
とまあ、こんな感じの見た目なんだけど、自分で見ても怖いと思うわ。
だがフードの下には可愛めの顔があるからね?
同じ平民友達のティナさん曰く、俺の顔は可愛い系らしい。
‥‥‥じゃあ何で他の生徒が寄って来ねぇんだよ!?
やがて門の近くに到着すると、急に辺りが騒がしくなって来た。
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