第三話【初めてのお出かけ】
約一年後‥‥‥。
「おらおら、防いでみろぉ!」
そんな大きい声とともに横から木刀が近づいて来る。
やばっ、間に合わねぇ。
俺は木刀を使ってガードをしようとしたが、やはり間に合わず腹に直撃した。
「げふっ」
自分の意志とは関係なく、変な声が出てそのまま吹き飛ばされる。
俺は地面に落ちる瞬間、体を回転させて受け身を取りすぐに立ち上がったが、腹部のダメージにより体が動かない。
痛くて今にも倒れそうだ。
「よし、今日はこのくらいで終わるか」
親父は俺を追撃して来ることなく、後ろを向くと家の中へと戻っていった。
あーよかったぁ。もう一回来たら確実に死んでたわ。
俺は木刀を杖代わりにし、残っている力を振り絞りふらふらと家の中へ入っていく。
すると玄関には、タオルを持った母親が少し心配そうな表情で正座をしていた。
「レイン‥‥今日は特に辛かったんじゃない? 大丈夫?」
「うん。まだまだよゆうだよ」
母親からタオルを受け取りつつも、あまり心配をさせないようにかなり無理をして答えた。
すると、
「ほう。じゃあ今からもう一戦やるか」
リビングから、水の入ったグラスを手に持っている親父が玄関に出て来て、そんなことを呟いて来やがった。
「げっ。い‥‥‥いや。えんりょしとくよ。おかあさん、ぼくみずあびをしてくる」
「風邪を引かないようにね」
「うん」
俺は水浴び場へ行く為に、親父の横を急ぎ足で通り抜け、リビング方向へと向かう。
「がはは。あいつもまだまだだな」
リビングに入った所で、親父のそんな声が聞こえて来た。
まだまだって‥‥‥俺、まだ子供なんだが。
「あなた。あの子はまだ三歳なんですよ。もう少し手加減をしてもいいんじゃないですか?」
‥‥‥ちょっと盗み聞きしてやるか。
「それはそうだが‥‥‥わしは今後もどんどん厳しくして行くつもりだ。あいつはわし以上の天才で未来があるからな」
げっ、ここから更に厳しくなるのかよ。
地獄の未来しかなさそうだぜ。
「確かにあの子は、異常なほど頭がいいです。でも‥‥‥ちょっと心配で」
「がはは。疾風の拳ともあろう女が何を言っとるのだ?」
ん? 何、疾風の拳って?
母親のことかね?
「そういうことを言うのは止めて下さいよ。あそこでレインが聞いているんだから」
あれ? バレてたの?
「そうなのか?」
いや、親父は気付いてなかったんかい。
‥‥‥ってあの親父でも分かってなかったのに、どうして母親が気付いてんだよ。
「ええ、あの子は頭がいいから、息の音一つとして立ててないですけどね」
ならどうして分かった!?
「まあ丁度よかった。‥‥‥おい、レイン。ちょっとこっちに来てくれ」
俺はタオルで汗を拭きながら、素直に玄関へ戻る。
「おかあさん、どうして分かったの?」
「なんとなくよ」
俺の質問に対し、母親はにっこりと微笑んで答えた。
全然答えになってねぇよ!?
「そ、そっか。で、おとうさん、なに?」
親父は俺から視線を離し、母親の方を向いて呟く。
「明日のことだけどな、お母さんと一緒に村まで買い物へ行ってこい」
「えっ!?」
村へ辿り着くまでには森を通らないといけない。その森には危険な魔物がたくさん出るんじゃないのか?
「あなた、どういうつもり?」
「わしが見た限りだと、レインはゴブリン程度なら倒せる実力がある。だから一匹でいい。良い経験になるし倒して来い」
俺ってもうそんな力があるのか? まあ親父が言うんだから本当なんだろうな。
若干怖い気持ちもある‥‥‥けどちょっと楽しみだ。
「もう、もりにでてもいいの?」
「ああ、お母さんがついていれば大丈夫だ」
「あなたがそう言うなら仕方ないわね。じゃあレイン、今日は早く寝なさい」
「はーい」
ということで俺は寝る為に部屋へと向かう。
因みに俺は最近、一人部屋になった。
親父が、一人で寝れない奴は男の子じゃないぞ! とか言って、半ば強制的に決めて来たのだが‥‥‥普通三歳の子に一人部屋なんて与えるものなのかね?
そして、夜中に隣の両親の寝室から聞こえて来る、ベッドのギシギシと言う音はなんだね?
寝返りを多めに打っているのかね?
あと、母親の変な声はなんなのだね?
怖い夢でも見ているのかね?
‥‥‥俺は眠りについた。
次の日‥‥‥。
「‥‥‥さい。レインもう朝よ。起きなさい」
目を開けると、部屋のカーテンを開けている母親がいる。
「おはよう、おかあさん」
「おはよう。さあご飯が出来ているから起きていらっしゃい。お父さんももう食べているわよ」
いやー、朝日に照らされている母親‥‥‥美しいのぉ。神々しいわ。
「わかった」
俺は母親の後ろについてリビングへと向かう。
すると、とてもいい匂いがして来た。
うわぁ、今日も贅沢だなー。
俺は椅子に座り「いただきます」と言って、親父に負けじと手掴みで食べ進めていく。
右手でパン。左手で色んなおかず。
そんな俺の姿を見た目の前の親父は、
「がはは。いい食べっぷりだが、まだまだわしには及ばんな」
とか言って、手に持っていたナイフとフォークを机の上に置くと、右手にパン。左手におかずの乗ったお皿を持ち、ノンストップで口へと放り込んでいる。
凄いけど、あほだな。
「やっぱりおとうさんにはかてないや」
「がはは、人間は食べた分だけ強くなるからな。たくさん食べろよ」
「ん」
そう会話をすると、俺たち二人は己の限界まで食べ物を詰め込んでいく。
そんな姿を見た母親は、少し呆れたように笑っていた。
やがて食べ終わると、村まで買い物へ行く為に自分の部屋で服を着替えて、家の外へと出た。
すると庭には財布と木のかごを持っている美人の母親がいる。金髪が太陽の光に当たって、家にいる時以上に綺麗に見える。
「レイン、じゃあ行こっか」
「うん!」
俺は元気よく返事をして美人な母親の隣へ行くと、同じペースで歩き出す。
少し行った所で、母親は財布の中に入れていた鍵を使用し、庭の門を開けた。
うわ、やっぱりちょっと怖くなって来たな。
こうして家の外へ出るのは初めてな訳だけど、やはり魔物はいたる所にいるのかな?
もしそうだとしたら、いくら母親がいるとはいえ油断は禁物だ。
ゲームの中とは違い、命は一つしかないからな。
「心配しなくてもいいのよ? お母さんは魔物の気配が分かるんだから」
門の外に出て、少し震えている俺に気付いたからか、母親は優しく話しかけてくれる。
「そ、そっか」
俺はまだ若干恐怖心に襲われつつも、母親の早い足取りに遅れないようついて行く。
母親は道など全くないにも関わらず、足を止めることなく歩いている。
この人、どうしてこんな薄暗い所を何でもないように進んで行けるんだよ。
そう、この森は木が多すぎてあまり日の光が届いて来ない。
一言でいうと、不気味。
‥‥‥ちょうどいい機会だし、ちょっと色々とこの人に質問してみようかな。
読んでくださりありがとうございます。