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第二話【暇だから筋トレ】

 俺の名前は多分レイン=フォレスト。

 

 年齢は、生後二か月ほどだ。

 

 名前が多分というのは、正確には分からないからである。

 まあ親の会話を聞いた感じ、名前がレインというのはあっているだろう。

 だが、苗字の方が曖昧で、耳で数回聞いただけなので、ファレストの可能性もあるし、フレストかも分からん。

 この世界の言語は発音が日本と全然違うんだよ。

 

 で、俺は今、ベビーベッドの中で寝転がっているのだが‥‥‥うん、とにかく暇だ。

 頑張ってベビーベッドから抜け出し、ハイハイをして家の中を探検しようとしたら、すぐ親に連れ戻されるし。

 かと言って、親が寝た後の夜中に動こうとしても、この体だからかすぐに眠たくなる。つまり小さい間は大人しくしていろってことかね?

 

 ということで、俺はずっと横になって周りを観察したりしてます。

 まあ今現在、やたら体格のでかい筋肉ムキムキの、親父であろう人物が椅子に座って子守りをしてくれているのだが、この人‥‥‥さっきから薄い本ばかり読んでやがる。


 母親は、ついさっき何処かへ出かけて行った。

 つまり、自分の妻がいる時には読めないものを見ているのだろう。

 表紙には肌色の、母親と同じ性別みたいな人が映っているけど、生後二か月の俺にはよく分かりません。

 でも、その薄い本の表紙を間近で観察して、一つ気付いたことがある。

 これは恐らく絵具みたいなもので書かれている。

 つまりこの世界に印刷技術はないということだろう。


 しばらくして‥‥‥。


 家のドアが開く音がした。

 

 それと同時に親父が本を閉じて立ち上がると、急いで何処かへと走って行く。

 そして物凄いスピードで椅子へと戻って来ると、俺が寝転がっているベビーベッドのおりを触り始めた。


「amiadat」


 そんな綺麗な透き通っている声と共に一人の女性が、俺と親父のいる部屋へと入って来る。

 そう、この人が母親だ。

 息子である俺が言うのも何だが、めちゃくちゃ美人。

 金髪で肌が白く、胸が大きいのにも関わらずウエストが細い。

 どこぞの筋肉熊と結婚なんてしていなかったら俺がもらいたいくらいだ。


「ireako~!」


 筋肉熊こと、がたいが大きく、物凄くいかつい顔をしていて、髭もじゃもじゃな親父がにやけながらそう答えた。

 因みに、今まで生活をして来てほんの少しだけど言葉の意味が分かって来たのだが、さっきの親たちの会話は、

 

「ただいま」

「おかえり~」


 だと思う。

 外から帰って来た時、毎回あの言葉を言い合っているからだ。

 まあそんな感じで、暇な生活を送り続けているんだけど、楽しみが一つもない訳では無い。


 何かって? うん、食事だ。

 美人で若々しい母親から与えてもらえるから最高に美味しく感じる。

 優しく噛んでみると、とても柔らかい。

 そして口に入って来るのは生暖かいミルクで、かなり優しい味になっている。


 

 それからいくつかの月日が流れた。


 

 俺の名前は、レイン=フォレスト。今度は確定だ。

 

 年齢はもう一歳で、今ではハイハイだけでなく歩くことも可能になって来た。


 容姿は髪が父親と同じ茶髪で、結構可愛い顔だと思う。

 流石高校生の頭脳とあって、日常生活程度の会話であれば口に出して喋れるようになり、親二人は「この子は天才よ」「この子は天才だ」と口を揃えて言っている。

 

 だが、約一年間かかっても文字を習得することは出来ずにいた。

 文法はおろか単語すらほとんど分からん。

 よく母親に絵本を読んでもらっているのだが、その文字すら理解が厳しい。

 

 あと庭に出て分かったことがある。


 この家は森の中にあり、周辺に他の建物は一つもない。


 母親こと、エリフ=フォレスト曰く、森の中には魔物がたくさんいて危ないから、絶対入ったら駄目だと言う。

 

 また父親こと、ギルツ=フォレスト曰く、男なら危ない目にあって当然だ。いつかわしが連れて行ってやる、とよく言っている。

 

 正直言って俺はちょっと魔物を見てみたいと思っている。

 敵と戦うっていうのは昔からの夢だったしな。


 ‥‥‥ん? そういえばよく考えたら、母親って頻繁に近くの村まで買い物へ行っているよな?

 じゃあ魔物とかどうしているんだろう。

 まさか、出会いがしらに拳でフルボッコにしてたりしてな。

 ‥‥‥いや、まさかな?


 因みに俺の親父は普通に魔物を倒しているみたいだ。

 よく森で鹿みたいなやつを素手で仕留めて来て、元気が出るから食べてみろとか言って、焼いた肉を食べさせて来やがる。

 まだ母乳とか離乳食がええわ。

 喉につっかえて死んだらどうすんねん。


 あーそれと、俺は最近筋トレを始めた。


 ‥‥‥いや、筋トレと言っても、全然大したことは出来ないけど、敷地内の庭を走り回ってみたり、親父の真似をして木の棒を振ったりなどだ。

 そんな姿を見た親父は、とても嬉しそうな顔をして頭を撫でて来る。

 

 

 更に約一年の月日が流れた。



 俺はもう二歳になり、バランスよく走ることが出来るようになって来た。

 また、多少であれば文字を読むことが可能だ。文法は未だに分からんけどな。

 

「レイン。今日もお父さんと一緒に特訓するの?」


 ほうきを使って家の玄関を掃除している金髪で美人な母親が、外へ出ようとしている俺を見つけてそう聞いて来た。

 相変わらず美しいなぁ~。

 特に目が神秘的すぎる。

 それでいて料理も上手なんだから、本当に完璧だと思うわ。

 

「うん、でもまねをしているだけなんだけどね」

「そう。気を付けてね」


 俺の返答に母親は、目を閉じるとにっこり微笑んだ。

 めっちゃ綺麗やないか。

 もう俺の人生のヒロイン‥‥‥この人でよくない?

 

「わかった!」


 俺は勢いよくドアを開けると、まず最初に広い庭でのジョギングを始める。

 限界まで全速力を出して疲れてきたらスピードを落とし、心拍数が戻るまで待つという自己流トレーニングだ。

 

 しばらくこのジョギングを続けていると、不意に親父の視線を感じた。

 ふと確認してみると、筋肉熊こと親父が木刀での素振りを止めて、走っている俺の姿をじっと目で追って来ている。

 かと思ったら木刀を地面に置き、走ってこちらに近づいて来ると、隣に並んで一緒に走り始めた。

 

「おとうさんどうしたの?」

「ああ、ちょっとな」


 親父は少し頷いてそう答えるだけで、何も言わずに同じ速度で走って来る。

 ものすごく余裕そうな表情をしてやがるな。

 わしの方が体力があるんだぜアピールかね?

 いい歳して二歳児と張り合って楽しいのかね?

 

 そんなことを考えながらも、前を向いて必死に走っていると、

 

「なぁ、レインよ」


 突然向こうから話しかけて来た。


「ん? なに?」

「お前って本当に二歳か?」


 親父は、一見真剣そうだけど少し笑っているようにも見える、よく分からない表情をしている。


「きゅうにどうしたの?」

「いや、いくら引いてるとは言ってもなぁ」


 ん?

 

「ひいてるって?」

「あ、ああ何でもないから気にすんな。それよりその動きは明らかに二歳のスピードじゃねぇだろ? わしでも子供の頃は歩ける程度だったぞ」


 確かにそうだけどさ、別にチートをもらっている訳じゃないし、普通に努力のものだと思うな。


「そんなことないとおもうよ。だってぼくはいっさいのころから、ずっとがんばっているもん」

「まぁそりゃーそうだが‥‥‥でもよ、普通レインほどの子供がトレーニングをしようなんて思わないだろ?」

「そうかな?」

「‥‥‥じゃあ質問を変えよう。お前は何の為に自分を鍛えているんだ?」


 そう言われたら‥‥‥どうしてなんだろう。

 確かに俺は毎日一定のトレーニングを繰り返し続けている。

 だが、なんでそこまでするのかってなると‥‥‥暇だから? くらいしか思いつかない。


 あーでも、地球にいた頃みたいなしょうもない人生にはしたくない、と言うのはあるかも。

 けどそんなこと言ったら変な奴って思われそうだから、少しは子供っぽく答えておくか。


「ぼくがきたえているりゆうは‥‥‥おとうさんがかっこいいから」


 すると親父は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに笑顔になり、走りながら俺の頭をくしゃくしゃと撫でて来た。


「そうか。お前は可愛い奴だな」

「ん。ありがとう」


 こうやって頭を触られたら、不思議と安心するって言うか‥‥‥なんか嬉しいな。

 俺が目を細めて微笑みつつも走っていると、親父は急に足を止めた。

 どうしたんだろうと思い、俺はその場に立ち止まると後ろを向く。

 

「レイン」

「ん?」


 なんか急に真面目な顔になりやがった。


「わしから剣術を教わる気はないか?」

「えっ!? ‥‥‥でもぼくってまだ、にさいだよ?」

「ああ、分かっている。だがお前の体力といい、その人と話すコミュニケーション能力といい、どうやらかなりの天才らしい。だから早く始めるに越したことはないんだよ」


 やっぱり俺のスペックに違和感は感じていたんだな。

 けど、この体力だけは辛い思いをして作って来たものだ。

 つまり、本当の天才なんかじゃないと思う。

 

 だが体力が育ちすぎているような感覚はあるんだよな‥‥‥。

 親父の言う通り天才の可能性もあるけど、それは分からない。

 

 そして頭脳については、前世の記憶があるからである。


 結果、俺の体は多分一般的だ。


 と、まあなんにせよ、剣術は教えてもらいたいな。普通に興味がある。

 

「ほんとにおしえてくれるの?」

「勿論だ。その代わり、厳しいのは覚悟してもらうが」

「だいじょうぶだよ」


 俺が両手の拳を握り、元気な声でそう答えると、親父は一度にやりと笑った。

 

「よし決まりだ。そうとなりゃー早速始めるぞ」

「うん!!」


 ということで、俺は今日から親父に剣術を教わることになった。

読んでくださりありがとうございます。

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