第十七話【謎の老人】
次の日‥‥‥。
「よし、着いたよ。ここがアラストル学園の門」
朝、目が覚めたあと俺はフォードさんに案内してもらい、結構な距離を歩いてここに到着した。
にしてもこの学校‥‥‥めちゃくちゃ大きいじゃん。
どっかの国のお城みたい。
正面からだと全体が見えないレベルだ。
まだ朝早い為か、入学試験を受ける受験者らしい子たちは見当たらない。
「すごいですね」
「だろう? 初めて見る人はみんなびっくりするよ」
うん、本当に驚いた。
これだけ大きいと、生徒数もかなり多いんだろうな。
「で、始まるまではまだかなり時間がありますよね?」
「ああ、だから近くの商店街で買い物したり出来るよ?」
「そうですか、じゃあペンを買いに行こうかな」
「‥‥‥あ、僕はそろそろ馬車に戻るけど、もう一人でも大丈夫そう?」
おぉ、これから一人になるのか‥‥‥。
まだ全然街の構造とか理解出来ていないんだけど‥‥‥。
でもまあ、ずっとフォードさんにいてもらうのも悪い。
フォードさんにも都合があると思うし。
う~ん、不安だけど、とりあえず何とかなるだろう。
そう考え俺は口を開く。
「はい、今までありがとうございました」
「いえいえ‥‥‥あ、そういえばこれをを渡しておくよ」
そう言ってフォードさんは俺に文字の書かれてある手紙とハンコのような物を手渡して来た。
「これは?」
「僕の家の住所とか色々。‥‥‥入学試験に受かったあと入学の手続きをしていく時に必要になるからね‥‥‥あとは裏闘技場の場所の地図」
「あ、なるほど。それは絶対無くさないように気を付けます」
俺はそう答えて、手紙やハンコなどをポケットの奥に入れる。
「あと最後に、君のお父さんから預かっていた入学金のお金‥‥‥もし無くしたら試験に受かっても入学出来なくなるから、気を付けてね?」
「承知致しました!」
続いてたくさんのお金が詰まっているのであろう布製の袋を受け取る。
そして再びフォードさんと別れを済ませると、商店街方面に向かって歩き出した。
にしても、この街は本当に大きくて色んな場所がある。
だからあまり変な所へは行かない方がいいだろう。
でないと確実に迷う。
いやー、にしてもすごいな。
見た感じいたるところに人が歩いていて、左右には屋台や建物がある。
頭に犬のような耳がついている子供たち同士が会話をしている姿が視界に入って来た。
初めて見るけど‥‥‥子供の頃家にあった絵本に乗っていた獣人族とやらに似ているな。
また、別の所には兎っぽい耳の生えているお姉さん二人が屋台の外で飲み物を飲みながら話している。
わおぉ、可愛いねぇ。
二人共胸は小さいけど、身長が高くて美人だ。
まあ手を出すつもりはないが‥‥‥。
多分相手にされないだろうしな。
その後俺は、よく分からない木造の店でペンと鞄を買った。
そして早速買った鞄にお金や手紙類などの荷物を詰め込み、無くさないように肩から下げておく。
さてと‥‥‥これからお昼まで何をしようかな?
まだかなりの時間があると思うんだが‥‥‥。
アラストル学園の近くでじっとしているのも暇だろうし。
とか言って街の中を探索してたら、迷って正午の鐘が鳴った時にここの学園の近くへ帰って来られなくなりそうだ。
あ、そういえばフォードさんが裏闘技場の場所を書いてくれている手作りの地図があるよな?
昨日、口で教えてもらったけどよく分からなかったし、ちょっと見てみるか‥‥‥。
そう考え、俺は鞄の中からペンで書かれている紙を取り出し、確認してみた。
するとその紙には街の大まかな場所が書かれている。
えーっと、これがさっきの学校か。
紙の中心にアストラル学園が表示されていて、そこからかなり横へ移動した場所に赤色の〇がされているのでここがそうなのだろう。
距離感でいうと学園からかなり遠い。
俺は学園の隣の商店街にいるから、ここからまだ随分歩かないといけないな。
でもこのくらいの距離なら間に合いそうだし、ちょっと場所だけでも確認しておくか。
ということで、地図の印方向へ向けて歩いていく。
しばらくして‥‥‥。
「えーっと、大体この辺りだと思うんだが‥‥‥」
それっぽいのが見当たらないぞ?
裏の闘技場ってだけあって、普通には分からないようにしてあるのだろうか。
この辺りは見た感じスラム街のような雰囲気だ。
ぼろい酒場と今にも崩れそうな幾つかの建物。
至る所にゴミが落ちていて薄汚い。
なんか空まで暗く見えるわ。
周りをキョロキョロと見渡していた、その時!
「そこのお前さん、こんな所で何をしとるんじゃ?」
おじいさんっぽい声が聞こえて来たので振り向いてみると、そこには黒色の服を着た背の高い老人と、横に体格のよい黒服の獣人族が一人立っていた。
‥‥‥見るからに怪しい人達やん。
ヤクザなのかね?
「あ、ちょっと探し物をしていまして」
俺が頭を掻きながらそう言うと、老人はゆっくりと近付いて来る。
その老人の表情は少し笑っていて、何を考えているのか分からない。
果たしてこの人に裏闘技場のことを聞いてもいいのだろうか?
「‥‥‥何はともあれ、お前さんほどの年齢の子供がうろついていい所ではない。早く帰られよ」
「いやーそう言われましても、探している物がこの辺りにあるはずなので、もう少しいいですか?」
すると老人は俺の目の前で立ち止まり、顔をじっくりと見て来た。
「言ってみよ?」
「えっ?」
「探している物じゃよ」
どうしよう‥‥‥。
あくまで裏闘技場は法的に認められていない場所みたいだからあまり言いふらさない方がいいのだろうけど、この人達はどう見ても裏の人間っぽいし。
いやー、だけどもし普通の人だったらやばいだろ。
俺が黙ってその場に立ち止まっていると、老人は続けて口を開いた。
「‥‥‥もしかしてじゃが、戦う場所とか?」
「あっ」
向こうから言ってくれて確信が持てた。
この老人は間違いなく裏の人間だ。
俺の表情で何かを察したらしく、獣人が老人の横で呟く。
「お前、どこで知った?」
おぉ、威圧感やべぇ。
模擬戦の時の親父には到底及ばんが。
「えーっと、知り合いから教えてもらいまして、強くなりたいならここに来るべきだと」
そう答えてみると、老人は不思議そうにこちらを見て来る。
「その知り合いとは?」
どこから情報が漏れるか分からないし、あまりフォレストの名を出さない方がよさそうだ。
ここはアルトリアさんでいこう。
「とあるAランク冒険者です」
「ほう。ということはお前さんは腕に自信があるのか?」
「ええまあ、誰にでも勝てるとは言い切れませんけど、それなりには」
「つまりは‥‥‥裏闘技場で戦いたいということでいいかの?」
「あ、はい!」
元気よく返事をすると、老人は真顔で横にいる体格のよい獣人の方を向く。
「ロック、頼めるか?」
「えっ、ですがこんな小さい子と戦うのは大人気ないかと」
ん? 戦う?
「構わん。ロックも知っているだろう? 裏闘技場は性別、年齢、経歴を一切問わん。だから戦いたいというやつを止めはせんよ」
そして俺と目を合わせて来ると、話を続ける。
「だがお前さんや? もしこの裏闘技場に関わった後で、誰かにばらしたりしたらただではすまんぞ?」
「‥‥‥はい」
このおじいさんめっちゃ怖いんだが。
「よし、ということじゃ。ロック試してやれ」
「了解です」
読んでくださりありがとうございます。