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第十五話【手紙】

 俺は歩いて馬車へと向かい、前方に乗っている人へ話しかける。


「あの、すみません」


 その声でこちらの存在に気付いたらしく、帽子を深く被っている男性があっ、という表情をする。


「君がレインくん?」

「はい、そうです」

「少し前くらいに君のお父さんから話は聞いてるよ、さあ乗って」

「はい」


 そう言って男性は馬の後ろの席へと戻っていく。

 

 俺は後ろの積み荷であろう木箱の間の椅子に座った。

 意外と狭いけど、まあ不快ではない。

 ほこりが全然落ちていないことからして、定期的に掃除をしているのが分かる。

 

 これ、何を積んでいるんだろうな。

 ‥‥‥この人、商人ってやつか?

 

「じゃあ出発するね」

「お願いしまーす」


 少し大きめの声が聞こえて来たので、俺はそう返事をした。

 

 男性が一度鞭で馬を叩くと、馬車は月明かりのなかガタンッ、ゴトンッと音を立てて進み始めた。


 そういえば、馬車に乗るのって生まれて初めてだな。

 てかそもそも村より向こうへ出たことがない。


 ‥‥‥いや、それよりも、まだ全然状況が把握出来てないんだけど。

 確かに学校生活は楽しそうだし、通えるのは嬉しいよ?

 だがいきなりすぎるわ!!

 

 学校に行って来いって言われて、いつから? と聞いたら、今から家を出ろ!! ‥‥‥ん?

 流石に状況が理解出来んわ。


 結局持ち物がお金と手紙しかないんだが。

 まじで大丈夫なのか?

 正直不安だわ。


 ‥‥‥てかさ、どのくらいで到着するんだろう。

 街に着いたらちょっとは余裕が欲しいよな。

 学園の場所知らないし、買い物とかもしたいし。

 ちょっとあの人に聞いてみるか。

 

「えーっと、街にはどのくらいで着くんですか?」


 俺が前を向いて質問すると、帽子を被っている男性はこちらを振り向かずに答える。


「う~ん。大体二日くらいだから、明後日の夜には到着するかな」


 ふ~む。

 なるほど、じゃあ街に着いたらとりあえずどこかで一泊すればいいんだな。

 

「そうですか、ありがとうございます」

「いえいえ。分からないことがあったらいつでも聞いてよ」


 それはありがたいな。

 

 その後、俺は馬車がいい心地に揺れていて眠たくなったので、座ったまま眠りについた。

 

 

 次の日‥‥‥。

 

 

 目が覚めると、辺りはもうすっかり明るくなっていた。


 外を見てみると道の左右にたくさんの木がある。

 景色は村周辺とさほど変わらんな。

 

 俺はまず最初に男性へ「おはようございます」と言った。

 

 すると男性は「あ、起きたんだ。おはよう‥‥‥じゃあはい、これ」とこちらを向いて呟くと、皮の袋を手渡して来る。

 

「えっと、それは?」

「君の食べ物。お腹空いただろう?」

「あ、どうも。とてもありがたいです」


 俺は立ち上がって男性の元に近付くと、少し大きめの皮袋を受け取る。

 

 そして再び木箱の間に戻り、袋の中身を確認した。

 小麦のパンと、干し肉と、水の入った瓶。かなり少ないけど、文句は言わないことにする。

 

 お腹がペコペコだったのでハイスピードで食べていき、やがて全部食べ終わると、親父に渡された手紙のことを思い出し、ポケットに入れていた手紙を手に取り最初から読み始める。

 

『親愛なる息子へ。お前がこの手紙を読んでいるということは、わしはもう‥‥‥‥‥‥ティアと一緒に仲良く暮らしているだろう』


 出だしの文がすでにうぜぇ。

 明らかに俺を小馬鹿にして来てやがる。


『まあそんなしょうもない冗談は置いといて、まず最初に街へ着いたら適当な宿屋に止まって夜を明かせ。そして次の日の正午の鐘がなって十分後くらいに入学試験の受付が始まると、パンフレットには書いてあるぜ? 因みに入学の手続きはもう済ませてあるから自分の名前と番号を伝えば大丈夫だ。番号は505だから頭に入れとけ。あと、受付までにはどこかでペンを買っておけよ?』


 そのパンフレットを見せろよ!

 

 まあ、うん‥‥‥この世界には時計というものがないから正確な時間は分からないけど、とにかく太陽が真上に昇る前までには、その学校とやらの近くにいればいいということだ。

 

 ‥‥‥いや、学校の場所知らないんだが?

 

 あとで前に乗っている人に聞いてみるか。

 

『次に試験の模擬戦のことなんだが‥‥‥正直お前の力なら余裕で合格ラインに行けるだろう。で、相手の教師の攻撃をくらってしまった場合、全くダメージが無くても、一応痛いふりをしておいた方がいい。でないとかなり目立つことになる』


 ん? どうして目立ったらいけないんだろう。

 

『実はな、お前がフォレストの血を引いているということが広まったら、国中の奴らに力を欲しがられる可能性がある。わしもSランク冒険者の時はずっと国の兵士にしようと色んなやつに追われたり、話しかけられたりしてたんだ。だから誰に何を言われようと、よっぽどのことがない限り力を出すのは控えた方がいい。まあお前が国の為に働きたいって言うなら止めないがな。‥‥‥けど何があろうと特訓は頑張って続けろよ? いずれわしの本気を見せてやる‥‥‥そうだな、お前が卒業したあとくらいでいいだろ』


 へぇ、そんな事情があったんだ。

 まあよく考えたら、俺たちフォレスト家の人間はずっと、ものすごい速度で強くなり続けるしな。

 色んな連中に欲しがられるのは当然か。

 

『ということで、お前は今日限り自分をフォレスト家だと思うな。馬車に乗っている冒険者時代のわしの友人には、少し前から話を通してある。だからお前は今からそいつの子供だ。苗字は忘れたから直接聞いてくれ』


 忘れたってひどすぎだろ!

 友人の名前くらい覚えといてやれよ。

 てか、色々といきなりすぎるわ。

 

 俺は一度手紙を床に置き、風で飛ばされないように水の入っていた瓶を乗せると男性の元に近付く。

 

「すみません。あなたは冒険者で間違いないですか?」

「ああ、そうさ。君のお父さんにはよくクエストを手伝ってもらったりしてたよ」

「そうなんですか。‥‥‥で、今手紙を読んでいたら、俺はあなたの子供という設定みたいなんですけど」

「話は聞いてるよ。僕の名前はフォード=アルトリアだ、よろしく」


 苗字はアルトリアか。

 

「ということは俺の名前はレイン=アルトリアですね。よろしくお願いします」


 よし、覚えておこう。

 フォレストっていう苗字が知られて国の連中に付きまとわれるのは俺もごめんだ。


「そういえばさ、君のお父さんの話によるとレインくんはそうとう強いらしいね」

「いえ、そんなことないですよ」


 まだ一度も親父との模擬戦に勝ったことがないどころか、本気にさせたこともない。

 それに俺の攻撃力はまだまだだ。


「ははは、謙遜しなくてもいいよ。あの人が認めているってことは少なくとも冒険者Sクラスレベルの実力はあると思うよ?」

「えっ、そんなにですか!? 魔法使いの方とかと戦ったらボコボコにされそうなんですけど」


 なんか遠距離から一方的にやられそうだわ。


「因みに僕はAランク冒険者で剣士をやっているんだけど、正直言って魔法使いは対人戦では弱いよ? だって一つの魔法を放つのには毎回詠唱が必要だ。つまりその間に倒せば問題ない。まあ極稀にその詠唱を短縮できる人もいるらしいけど」

「あ、なるほど」


 魔法を使うのには時間がかかるのか。

 つまり魔法使いはパーティーの後方支援って感じだな。

 

「あと、レインくんに聞いておきたいことがあるんだけど」

「どうしたんですか?」

「学校のある場所、知らないよね?」

「あ、はい」


 学校どころか街についての情報すら聞かされてねぇ。


「じゃあ街へは今日の夜に到着するから、一旦同じ宿屋に泊まって、それから学校まで案内して場所を教えてあげるよ」

「あ、ありがとうございます。それじゃあお願いします」

「うん」


 これで街に到着したあとも大丈夫そうだな。

 

 俺は再び木箱の間に戻り、手紙の続きを読み始める。


『あと、お前を街へ行かせる理由なんだが実は学校だけじゃない。ここだけの話、街には裏の闘技場がある。勿論法的に認められていないかなり危険な場所だ。その闘技場には世界中から強者が集められて、一対一で戦う。俺も何度かそこでやりあったが、魔法戦士やら暗殺者やら、色んなやつの戦法が体験出来て己自身が成長していくと思うぞ? ルールは確か武器や魔法の使用もありで相手を動けなくした方の勝利。因みに死者が出たりすることもあるから半端な気持ちでは行かない方がいいぞ?』


 法的に認められていない危険な場所を子供に進める親って‥‥‥どうなんだ?

 スパルタ教育のつもりかね?

 てか暗殺者って、おい! 絶対最初から相手を殺しに来てるじゃん。

 

 でもまあ、ここに行けば強くはなれそうだな。

 正直言って、学校に通うだけだったら強くはなれないだろうと考えていたところだし、丁度よかったわ。

 

 この特別な血に生まれた以上は、世界最強を目指したい。

 

『最後にお金のことだが、仕送りをするのが面倒くさいから学校の寮で生活をしながら冒険者ギルドにでも行って自分で稼いでくれ。だがSランクにはならない方がいいぞ? 目立つからな! ‥‥‥もし暴れたいのなら、裏闘技場にしとけ。あー、闘技場の場所を言ってなかったな、詳しいことは文字で説明できないから馬車のわしの友人に聞いてくれ』


 親父‥‥‥ほとんどフォードさんに丸投げじゃねぇか。

 何しとんねん!

 

 俺は手紙を読み進めていく。

 

『じゃあ、またいつか会おうぜ? だからとりあえず生きておけよ?』


 おい、とりあえずってなんだ?

 理解出来ないんですけど‥‥‥。

 

『あと、女は一人までにしとけ。イケメンの親父、ギルツより』


 ふぅ、読み終わったけど、結構内容量が多かったな。


 そして最後の文はいらんわ。

 別にハーレム生活が送りたいとか‥‥‥ほんのちょっとしか思ってないし。

 

 ほんでイケメンの親父ってなんやねん。

 ただの筋肉熊じゃねぇか!

 

 俺は手紙をポケットにしまうと、一度背筋を伸ばして深呼吸をする。

 

 その後、ちょっとずつ変わっていく景色を眺めたり、地面へ降りて馬車に走ってついて行ってみたり、フォードさんと会話をしたりして時間を過ごしていった。

 

 フォードさんによると、どうやら裏闘技場の場所はまた明日教えてくれるらしい。

 

 

 それから一日とちょっとが経った‥‥‥。

 

 

 今現在もう夜で、周りは真っ暗だ。

 

 ‥‥‥そろそろ、馬車の中も飽きてきたな。

 もう丸二日も乗っているぜ?

 

「お、見えてきたぞ。あれがアラストル街だ」


 フォードさんにそう言われ、正面を見てみると草原の向こうのとても大きな壁が視界に入って来た。

 

 あの壁で街全体を囲んでいるのだろう。

 周りが暗いので、街の中の光が結構目立つ。

読んでくださりありがとうございます。

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