第十四話【学校!?】
それから三年後‥‥‥。
俺、レイン=フォレストは十歳。
妹ことティア=フォレストは六歳。
そして親父、ギルツ=フォレストは三十五歳となった。
だんだんと温かくなって来ているので、もうすぐ春になるのだろう。
自分で言うのもなんだが、俺は今現在かなり強くなった。
身長と体の大きさこそ飛躍的に伸びていないが、明らかに内容量が違う。
最近は親父との訓練で攻撃されてもあまりダメージを受けなくなって来たのだ。
なんか普通の特訓では満足出来ない体になって来た為、一年ほど前から新しい特訓方法を始めた。
それは、まずあの崖から飛び降りて受け身を取り、そのまま数時間かけて村まで走り、更にそこから家まで走る。このコースを毎日早朝からやっているのだ。
次に、親父との剣術トレーニングを行い、終わった後に食事。
そのあとは日によってランダムで、再び崖の上から飛び降りて猿の出現する森で堂々と昼寝をし、攻撃をくらい続けたり。
崖をよじ登ろうと挑戦して途中で失敗し、下に落ちたりだ。
それで思ったのだが‥‥‥俺の耐久性って異常じゃね?
この世界の人間ってこんなに強いもんなのかね?
それとさ、なんか親父がずっと強くなっているように感じるのだが‥‥‥。
俺はダメージこそくらわないが、模擬戦となると全然勝てない。
木刀で首を絞めて来たり、馬鹿力で俺を動けなくして来たり。
そして今現在、一通り特訓や晩御飯が終わった夜だ。
「おにいちゃん、おとうさん。じゃあわたしそろそろねるね」
ティアはリビングの机の上で読んでいた絵本を閉じ、目を擦りながらそう言った。
この妹は結構頭がいい。
そして素直でいい子だ。
果たしていつまで俺のことをおにいちゃんと呼んでくれるのか‥‥‥。
女の子っていうのは変化が突然来やがるからな、お願いだから無視とかしないでね?
「おう、おやすみ!」
「ティア、おやすみ」
俺と親父は同時にそう答え笑顔で見送る。
やがてティアがリビングのドアを閉めると、俺は正面の椅子に座っている親父の方を向いた。
「で親父、話ってなに?」
今日の剣術の特訓中に、ティアが寝たあと大事な話があるって言われたんだが。
親父は俺と目を合わせ少し真剣な顔をする。
「今までお前に隠していたことがある」
「いかがわしくて薄い本がタンスの裏にあることでしょ?」
「おお、実はそうなんだ。‥‥‥昔はお母さんに見つからない場所を何度も頑張って探してな、結局タンスの裏が絶対見つからないという結論に至った。いつか言おうと思っていたのだが遅くなっちまったぜ‥‥‥って違うわ!! てかなんでお前が知ってんだよ!?」
‥‥‥ボケ突っ込みのボケがなげぇ。
「なんでって‥‥‥俺が小さい時に子守りをしているふりをして、お母さんが帰って来たらすぐに隠したりしてたじゃん」
「どうしてそんな昔の記憶があるんだよ!? ‥‥‥て、そういうことじゃなくて、ちょっと聞いてくれ」
親父は顔を赤くして誤魔化すように話し始める。
「あ、うん」
「まず、お前はお母さんとか他の村の人に比べて自分の筋肉の成長速度に疑問を持ったことはないか?」
「あ、ものすごく覚えがある」
明らかに日本にいた時よりも体が強くなりすぎている。
いくら特訓をしているからと言って、これは頑丈になりすぎだ。
「それについてなんだが‥‥‥お前は通常の人間よりも強くなれる」
「えっ、どういうこと?」
「簡単に言うと、レインはフォレスト家の血筋だからだ」
親父は腕を組んで頷きながらそう言った。
「う、うん。それは知っているけどさ、成長速度と関係あるの?」
「ああ、実はな、フォレスト家の血筋は代々、成長速度が普通の人間よりも早いんだ」
「えっ‥‥‥そうなんだ」
おかしいとは思っていたけど、まさかそうだったとは。
「あと、人間には普通、成長期というものがある。平均で言うと大体十二歳から十八歳程度と言われているんだが、フォレストの血筋は違う」
「というと?」
「どんなに年を取ろうが、ダメージを受けたり、筋肉を使ったりするごとにどんどん無限大に成長していくんだ」
なにそのチート級の血筋。
でも、これで俺の馬鹿げた耐久性にも説明がつく。
そしてどんなに死に物狂いで特訓をしても、親父との差があまり縮まらない訳だ。
だって親父も強くなり続けているんだもん。
「なるほど、そういうことだったんだ」
成長速度が速いということは、筋繊維が修復されるのも速い。
ふむふむ、これでダメージを受けたあとの回復速度が異様に速い理由も分かったわ。
「わしもこの話を親から聞いた時には、頑張って己を強くしようと、魔物のいる場所に籠ったりして特訓に明け暮れたもんだ」
「じゃあ、小さい頃から頑張って来た俺は、かなり期待出来るってこと?」
「悔しいが、わしよりも強くなるだろうな」
「そっか」
俺が少し嬉しそうな表情でそう言うと、親父は何故か怖い顔をして来る。
「だが、今のままじゃお前はこれ以上強くなれない」
「うん、それは薄々感じてた。ここら辺の魔物はもうそこまで手ごたえがないし」
「だから、レインよ! お前はこの森を出て街に向かい、とりあえず学校へ行け。街にはこの森では出来ないたくさんの経験が出来るし、人との関わり合いも学んだ方がいい」
おーん? 今から学校!?
「でも、俺もう十歳だしちょっと遅いんじゃない?」
日本では六歳から七歳の間に通い始めるよな?
「そんなことはないぞ? 学校って言ったら、十歳から十六歳まで通うのが普通だしな」
あ、そうなんだ。
「けどさ、その学校って誰でも通えるものなの?」
「いや、誰でもじゃない。街にある学校に入学するには、お金がいる‥‥‥それは問題ない。次に入学試験だ」
「入学試験?」
「そうだ。学校とは実力のある魔術師や騎士をたくさん輩出して、名誉を得ているような場所だからな、いくらお金を積んでも実力のないやつは落ちる。まあわしは昔余裕で受かったがな」
なにそれ、面白そう。
何より平民や貴族などがあまり関係なさそうだ。
「因みに父さんは昔どんな試験を受けたの?」
「わしの時は三つだったぞ。魔力検査、筆記テスト、そして教師との模擬戦」
‥‥‥やばそう。
特に前二つ。
魔力検査が最低レベルなのは分かりきっている。
次に筆記テスト‥‥‥ずっとこの森で暮らしている為あまり常識も知らないし、まあ無理だろうな。
となると、俺は模擬戦で圧倒的な力を見せつけるしかないな。
おそらく親父もそれで受かったんだと思う。
「で、その試験はいつあるの?」
俺がそう聞いてみると、目の前の親父は即答。
「三日後だ」
「へぇ、そうなんだ‥‥‥じゃあ気楽に待っておくか‥‥‥‥‥‥て、すぐじゃん!?」
三日後!?
「ああ、かなり前から言おうと思っていたのだがすっかり忘れていた。すまんな」
親父は頭を掻きながら笑ってやがる。
「すまんなじゃねぇよ。まじで時間ないじゃん」
ここから街までどのくらいかかるのかは知らんが、三日って‥‥‥。
「という訳だ。仲のいい知り合いに話を通して村には馬車を用意してあるから、今からダッシュで村まで走れ!」
「えっ、でも行くならティアにも言っておきたいし」
「わしが代わりに言っておくから早くしろ、まじで間に合わん」
「お、おう」
俺は仕方なくその場に立ち上がった。
「あ、それと少し前に注意事項とかをこの紙にまとめておいたから、馬車に乗った後でゆっくりと読め」
親父は隣の椅子に置いてあった手紙を俺に差し出して来る。
「おう」
俺は返事をして受け取った。
「あと、ここから村までの道のりは暗いだろうけど、歩いていたらまじで間に合わなくなると思うぞ。村から学校のある街まではかなり遠いからな」
「おう」
「最後に、ちゃんとお母さんに挨拶していけよ」
「おう」
「あーそれと、この中にお金がたくさん入っているから持っていけ」
「‥‥‥おう」
「じゃあな」
「‥‥‥‥‥‥おう」
俺は早速急ぎ目で外へ出ると、庭にあるお母さんのお墓にしばしの別れを告げ、そのまま門の外へと飛び出した。
そして全速力で走る。
毎日村から家へと走っていたお陰で、もうすっかり道は覚えた。
だが、ここまで暗かったら木や岩の位置が分かりずらい。
しばらくして‥‥‥。
俺は暗いなか走り続け、とうとう村へと到着した。
因みに数十回ほど木や岩に衝突したが気にしない。
崖から飛び降りる痛みに比べたら大したことないぜ。
てか、村についたのはいいけど、その馬車とやらはどこにあるんだ?
「まあ、とりあえず走って探してみるか」
そう考え、俺は適当に村の中を走り、馬車らしきものを探していった。
すると村の正門辺りにあった。
ここからでも、大きい荷台が見える。
うん、結構早めに見つかったわ。
読んでくださりありがとうございます。