第一話【プロローグ】
まるで人がごみのようだと言わんばかりの偉そうな態度で世界を照らしている太陽。
全世界中を繋ぐ唯一の道である、綺麗な水色の空。
今日の天気は曇り。にも関わらず空を見上げてみても白色の綿菓子なんて一つもありゃーしない。天気予報‥‥‥普通に外れてんじゃねぇか。何が曇りだよ! めちゃくちゃ暑いわ。
そんな中太陽の光によって、弱火で温めたフライパンのように熱いアスファルトの上を歩いている一人の男がいた。
そう、俺である。
髪は普通の長さで、顔も普通だ。
今現在高校一年生なのだが‥‥‥うん、ぼっちなうです。
しかし俺がぼっちになったのには深い訳があるんだよ。
何故かって?
まあ簡潔に言うと、可愛い女の子と仲良くなりたかったから。
その為にわざわざ、一人しかいなかった中学生の友達とは別の高校へ通い始め、同じクラスメイトの男子が話しかけて来てくれたのを、読書に集中しているふりをして無視したり、休み時間中に寝たりして、近寄り難い雰囲気を作っていた。
結果、美少女とか可愛い子はおろか、普通の女子すらも話しかけてくれないんだが?
どういうこと何だね?
いくつかぼっち系主人公のアニメを見たんだけど、そのどれもが美少女たちといちゃいちゃ楽しく学校生活を送ってやがったぜ?
なのに俺は一人だぜ?
おーん?
特にいじめられていた訳ではないのだが、いない者として扱われているような感じが嫌だったのだ。‥‥‥自業自得だけどな。
極め付けは、勇気を出して自分からクラスの女子に話しかけた時、「えーっと誰だっけ?」って返されたことだ。
こんなのハーレムどころじゃねぇ。
‥‥‥いや、まあ結局俺が悪いんだが。
そんなことを考えながらも、俺は今自宅で時間を過ごす為の新作のRPGゲームを買いに行っているのだ。
誰よりも早くクリアすること以外、何も生きがいが無いからな。
にしても今日は本当に暑い。
今年最高気温かもしれん。
と、その時!
信号が赤色になりやがった。
おい、邪魔だこの野郎。早く変わりやがれ。
心の中で文句を言いつつも、白いイヤホンで聞いている曲を変える為に、半ズボンのポケットからスマホを取り出し、ちぃとばかし時間を潰した。
やがて青色に変わったので、俺は右足を前に出し歩き出そうとした‥‥‥その時、丁度真下に何やら光っている物が見えた。
早速しゃがんで確認してみると‥‥‥おぉ、百円玉だ。
ラッキー! 得したぜ。
そう考えつつも拾おうと手を伸ばした瞬間、何かが目の前を通り過ぎて行った。
「は!?」
突然のことに、思わずイヤホンを外してしまう。
すぐさま周りを確認してみると、大型のトラックが見えた。
勿論、車道の信号は赤だ。
居眠りか、わざとなのか。
まあどっちにしても信号無視に変わりはない。
今のめちゃくちゃスピード出てたぞ、おい!
この百円玉がここに落ちてなかったら俺確実に死んでたぞ、この野郎!
道路交通法をちゃんと守りやがれ、馬鹿野郎!
まあでも周りを見た感じ、死人が一人も出てなくてよかったわ。もし目の前で血だらけの光景を見せられたら、たまったもんじゃないぜ。
俺は一度大きく息を吸うと、気を取り直して立ち上がった。
───その刹那。
いきなり目の前が真っ暗になり、何も見えなくなった。
えっ‥‥‥んんっ!?
何?
俺って今、目を閉じている?
そう思い、人差し指と親指で目をこじ開けようとしたのだが‥‥‥あれ? やっぱり開いているよな?
じゃあ、逆に閉じてみたら見えるようになるのではないだろうか。ということで目を瞑ってみる。
しかし、やはり黒色だ。
まあ当たり前か。
仕方なくいつも通り目を開けると。
───白い髭をたくさん生やしているおじいさんが、椅子に座ってこちらを見て来ている。
‥‥‥はい? どういう状況? 全然把握出来ないんだけど。
ふと辺りを見渡してみると、360度すべてが真っ黒で、俺とおじいちゃんのいる場所だけ青色の足場がある。
これって黒色の場所に行ったら下に落ちたりするのかな?
て、そんなこと考えている場合じゃねぇ。
まずここどこだよ!?
てかおじいさん、ずっとこちらを見つめて来てるじゃん。
なんか不気味なんだけど。
『死後の世界へようこそ』
うわー、喋りかけて来たー。‥‥‥ん? 死後の世界? 何言ってんだこの人。
「いや、俺死んでないんだけど」
あのくそトラックのせいで死にそうにはなったけど、普通に無傷だったし。
『それは分かっておる』
分かっておるじゃねぇよ! 意味が分からんわ。どうして生きているのに、その死後の世界とやらに連れて来られないといけないんだよ。
「あのー、ちゃんと説明して貰えますか」
そう言ってみると、おじいさんは表情一つ変えることなく真顔で話し始める。
『いいじゃろう。まず自己紹介からなんじゃが、わしは‥‥‥えーっと、お前さんたちの住んでいる地球上でよく言われている神様というやつじゃな。で、今の状況を簡潔に言うと、お前さんはついさっき死ぬ運命だったのにも関わらず、無傷で生きておったから連れて来たのじゃ』
「はい? 何、死ぬ運命って?」
今さっき俺は生きてたんだから、それが運命なんじゃないのか?
『実はの、お前さんはトラックに引かれて死ぬ予定じゃった。元々横断歩道に百円玉など落ちてなかったはずなんじゃが‥‥‥おかしいのぉ』
「いや、それはそっちの予測ミスだろ。第一生きてたんだから、わざわざ死後の世界に連れて来なくてもよかったんじゃないのか?」
『それがのぉ。お前さんが生きていることによって、本来生まれてこないはずの生命が存在して来たりと、色々未来が変わって来るから面倒くさいんじゃ』
まあ、言いたいことは分かる。
「ほぉ、うん。大体分かった。‥‥‥でもさ、じゃあ俺はこの後どうなるんだ?」
もしかしたらだけど、これって異世界に行けるパターンかな? もしそうだとしたら最高だぜ!!
夢のハーレム生活に、俺だけが持つ特殊能力。
こういうことなら‥‥‥現実で死んだってことでもいいかもしれん。
若干期待に胸を震わせながら答えを待っていると、おじいさんは真顔で口を開いた。
『異世界に行ってもらおうと思うとる』
お、やったー!
「ほ、本当にいいんですか?」
『そうじゃ。‥‥‥ほいで更に嬉しいニュースがある。お前さんには色々と迷惑をかけたみたいじゃし、そのくらいの対価は払ってやろう』
来たー! チート能力がもらえるパターン。
マジでラッキーだわ。しょうもないぼっち生活と引き換えに充実した楽しい生活が手に入るんだからメリットしかないぜ。
「で、その嬉しいニュースとは?」
『それなんじゃが‥‥‥最近とある国が核実験をやめたらしいぞ?』
へぇ、そうなんだ~。
これで俺達が住んでいる日本に被害が及ぶ可能性はなくなった訳だ。
あー、めっちゃ嬉しいぃ~。
「‥‥‥て、ちがぁぁぁう!!」
これから異世界に行くんだから、そんなんどうでもええわ。
てか妙にリアルな、本当か嘘かも分からないようなニュースを持って来るなよ。
『冗談じゃよ、じょーだん』
こいつうぜぇな。ちょっといい奴だと思い始めていたのに、覚めたわ。
「はぁ~、本当は何がもらえるんだ?」
『聞いて驚け! お前さんには、異世界に今の姿のまま転移するのか、記憶を持ったまま異世界に転生し一から人生を始めるのか、選ぶ権利をやろう』
これもなんか違うぞー?
選べるのは、まあ嬉しいんだけどさ‥‥‥どうせならもっと別のものが欲しかった。
内心ちょっとがっかりしていると、そんな俺の表情を読み取って来たのか、おじいさんが少し微笑んだ。
『ほっほっほ。お前さん、もしやがっかりしておるのか?』
「まあ、そうですね」
『おおかた、何か一つ願いごとを叶えてもらえるとか、そんな夢のような妄想をしておったな?』
こいつ、的確に当てて来やがる。
『どうせ、わしを一緒に異世界へ連れて行こうとか考えておったのじゃろ?』
「考えてねぇよ!?」
美しい女神とかなら分からんでもないけど、よぼよぼのおじいさんを連れて行っても意味無いわ。
『冗談じゃよ、じょーだん』
マジで殺すぞ、この野郎。
「‥‥‥で、転移か転生かを選べばいいんですよね?」
『勿論さぁあぁあぁあぁ~』
なんかビブラートが効いてやがる。
うん、ほっとこう。相手にしてたら疲れるだけだ。
ということで、どっちにしようかしら。
転移の場合は、今現在の頭脳と体のまま異世界へ行き、たくさん冒険をし、富と名誉を得ていずれかは可愛い子や美少女に囲まれて楽しい生活を送ることが出来る。
一方転生は、今現在の頭脳を持ったまま現地の赤ちゃんに生まれ変わり、学校で他の人よりも優れた能力を発揮したり、可愛い幼馴染と結ばれたりといった感じだろう。
『まだかの? わしはこう見えてもゲームとか読書で忙しいんじゃ。家に帰りたいからはようしてくれ』
なんかめちゃくちゃ楽しそうな生活を送ってやがるな、こいつ。
まあ、答えはもう決まっているし、早く済ませてやるか。
「じゃあ、転生で」
幼少期からたくさん努力して絶対異世界最強になってやるぜ。
そして色んな女の子と仲良くし、充実した毎日を送る。
それが俺の思い描いた異世界ライフだ!!
『承諾した。では行くぞ、ほい!!』
えっ、ちょ‥‥‥いきなりだ───と、ここで俺の意識は途切れた。
読んでくださりありがとうございます。