思ったこと
あるところに仲がいい家族がいた。家も近く、よく交流していた。そんなところに子供が産まれた。両家一人ずつ、片方は女の子で片方は男の子だった。二人は家族と一緒にすごし、そしてお互いに仲もいかった。
かれこれあって、二人は十五歳となっていた。未だ二人は仲がいい。しかし、俗に恋人と呼ばれるような関係ではなかった。二人はどちらかの家であったり、或いは通学路、合えばクラス等で一緒にいた。話もしたし、遊びもしたが、ただ一緒にいて各々過ごす事が多かった。
そんなある日のこと。二人の通う学校に、転校生がやって来た。男である。二人と同じクラスであり、また性格も大多数にうけるもので、すぐに多数の友達ができた。また、二人にもよく話しかけてきて、まあある程度の仲にはなった。男の子は会った当初とさして変わらず、女の子は少し変わった。別に恋をした訳ではないが、やや会うたびや何かするたび態度は軟化していった。女の子はそれなりの容姿と性格であったため好かれはしたが、女の子の方が好きとかいうのがなかったので、男の子にとっては少し意外であった。
或る時、男が男の子に相談をした。曰く、「女の子の事が好きである。」と。男の子はああそうなんだくらいにしか思わなかったが、相談を受けた以上真面目にやるつもりであったので、聞き返した。「ああ。それでどうした?」と。男は少し驚いていたが、納得のいく様子で「ああ、やっぱり好きじゃなかったのか。いやあ、好きな人が同じだとアレだから、と思ったけど。よかったよ。まあ、それがどうであろうと気にしないけどな。」と言った。男の子は、「ああ、どちらにせよ気にしないよ。」そう言った。
男が転校してきて一年が経った。男の恋は続いており、女の子の態度もだんだんと軟化していった。男が女の子を助けたり、積極的にアプローチをしかけ続けており、もうすぐ実るかもしれないと周りでは噂されていた。また周りは男の子がずっと女の子と一緒にいたことを意識はしていたが、"ただ一緒にいた"という感覚でうわついた感じは全くなかったので心配はしておらず、あの性格も容姿もそれなりにいい恋人ができるのと、あの堅かった女の子にも恋がきたのではというのが専ら気になっていた。
そして或る日。男の子が女の子に尋ねた。その頃は男の子と女の子が一緒にいないことも多くなり、女の子と男で遊びに行くことも多かった。男の子も一緒に遊んだこともあったが、一人でいることの方が多かった。そんななかでのことである。
「なあ、お前あいつのこと好きか?」
男の子の言う"お前"とは日頃から女の子を指しており、"あいつ"とは男を指していた。
「うん。・・・・・好きだよ。」
女の子は言った。
「そうか。そうなったか。頃合いだな。」
男の子はそう言い、女の子は自分達のことを言われているのだと思い赤面した。
「いやあ。お前も一年前とは随分変わったな。同じではなかったとはいえ、すごく軟らかくなったよ。」
「うん。そうだね、私も自分がこうなるとは思っていなかった。でも今も楽しいよ。あ、勿論昔も楽しかったけど。」
「ああ。そうだなぁ。ほんと、まあもそもそ本当もないが、そう思うほどお前は変わったよ。」
「あはははは。あなたのそういうところは変わらないね。」
「ああ、そうかもしれないな。さて、じゃあ俺は帰るよ。また明日な。明日はあいつと大事な話があるんだろう?俺も話したいことややりたいことがあるからな。早めに帰って準備するよ。」
「ええ。ありがとう。」
男の子は、その言葉になにか思いげに顔を変化させたが、すぐに家へと帰っていった。
そして次の日。その日は休日で、両親は仕事でいないので大事な話やことにはもってこいの日であった。女の子の家に、なにやら荷物を持った男の子と、男が訪れた。男の子は「さて、やるとするか。」と言い、男は「いや、気がはやいって。」といいつつもどこかその表情は柔らかだった。それでも緊張はしていたが。男の子は「いやいや、絶対はもそもそないけど、たぶん大丈夫だ。」と言った。二人はリビングへと進んでいく。そこには女の子がいた。
「おはよう、桜。」
男が言う。桜とは女の子の名前である。
「うん、おはよう、慎二くん。どうしたの、用って。」
慎二とは男の名前である。男の子は、黙って脇で様子を見ていた。少しの沈黙が訪れる。しかし不意に、男が切り出した。
「桜さん。」
「はい。」
「俺と、付き合って下さい。」
ついに男が言った。その視線は真っ直ぐ女の子の目を捉えている。女の子も、男を見ている。男の子は、脇で壁に寄り掛かって黙っている。緊張が、さらに張りつめる。その永遠にも感じる一瞬を、
「・・・・・はい。」
女の子の言葉が再生した。すると、男が嬉しそうになり、「本当か?!」と叫び、女の子が「声が大きいよ!でも、うん。本当だよ。慎二くんのことが、好きです。」と言う。男が喜びを全身で表し、「桜、これからもよろしくな!」と言った。女の子も、それに答えた。
しばしの時間をおき、やや静かになった空気で男の子が
「二人共、よかったようだな。どちらも好きなようで。」
と言った。男は、「ああ!本当によかったよ!ああ、そもそも本当もないんだっけか?でも、本当によかった!お前もありがとうな!」と返した。がしかし女の子は、ややいぶかしげな表情をしていた。ややぶっきらぼうそうな言い方といい、その表情といい、それは普段の男の子によく似ていたが、男の子に全く似ていない部分があったからだ。
「ねえあなた、二人共、って?それによかったなんて、あなた言わないじゃない。」
女の子が言った。男も「え?あれ?あ、そういえば」と何かに気づいた様子である。しかし、男の子が
「ああ、それでお前らの話は一旦それでいいか?俺からも話があるんだが。」
と言い、その話し方も女の子や男のよく知る男の子のものだったため、特に気にすることもなくその言葉に返す。
「ああ。いいぜ。どんなんだ?」
「あなたから話したいことなんて、珍しいわね。」
「ああ、俺もそう思うよ。しかしこれは俺の利益だからな。」
そして男の子は言う。
「なあ、お前らが好きあっているのは見たんだが、皆仲いく、ってわけにはいかないか?」
そう、言った。女の子と男は一瞬何を言っていると思ったが、男の子のことを考え、やめた。男の子は、そんなんで"話す"様な奴ではないのだ。暫しのあと、男が切り出す。
「なあ、お前、どういうことだ?いや、責めてるわけじゃないんだが、って、そんなのよくわかってるって、えーと、と、」
しかしやはり混乱している様子で、上手く話せていない。それを見ずになにやら考えこんでいた女の子は、顔を上げ、言う。
「えーっと、つまりこのまま付き合うとかはしないで皆一緒にいれないか、ってこと?」
「ああ、そうだ。」
男の子は言う。
「でも、それはもうしにくい、かも。こんなこと、あ、いや、私は慎二くんの好きだし、一緒にいたい。あなたとは、もうずっと一緒にはいられないと思う。」
女の子は、途中男の子が嫌う言い方を思いだし、中止してから言う。また、ようやく少し落ち着いてきた男は話し、
「え、いや、俺は桜と一緒にいたい。勿論、お前とも一緒にいたいが、でも桜との時間を優先したいんだ。にしても、どうしたんだ?実はお前、桜のこと好きなんじゃ、」
「いや、それはないと」
「やっぱり俺のことその程度にしか見ていないだろう。適当、この場合は不真面目が近いか。」
言っている途中で女の子に遮られ、更にそれを男の子が遮った。そして女の子は少し驚いたものの、男の子の言う"不真面目"はあまりいい認識ではないため、やや憤りつつ、
「あなた、慎二くんは不真面目ではないと思う。確かに少しズボラなところはあったけれど、少なくとも、そんな不真面目じゃない。」
と言った。男の子はそれを聞いて、男の方を見つつ、
「ああ、奴は少し不真面目だよ。不真面目ではないにせよ、やはり少し、不真面目だ。」
そう言った。ここまでくると女の子は男の子が何を思っているのか見当がつかない。
「ねえ、あなたどういうこと?そもそもなんであんなこと言ったの?」
「あんなこと、か。そうだな、"皆仲いく"。そのままその言葉の通りだよ。皆一緒に、特に誰かと誰かが俗に特別と呼ばれる関係にはならず、ただ一緒にいること。俺としては、別にお前だけでいかったんだが、あいつがいる以上、一応な。」
女の子は言い、男の子は言った。しかし女の子は、いや女の子のみならず、男も男の子の思いが掴めない。
「俺はさ。ただ一緒にいるだけでいかったんだ。お前と、俺と、ただ一緒にいれば。俗に恋人や特別な関係と呼ばれるものにならなくても、ただ一緒にいることがいかった。というより、ただ一緒にいることが俺にとっての利益だったんだよ。」
男の子は言った。女の子と男はよく考え、言う。
「それはつまり、私とただ一緒にいたかった、ってこと?」
「いや、ちょっとそれは、それに」
女の子と男が似たような考えを出し、そして何か言おうとし、
「ああ。俺は特にお前らが会ったり話したりするのを止めなかった。まあ、言うなればそういう権利を行使しなかった。お前らが仲いくなり、そして俗に特別な関係とよばれるものにならないようにする権利を。」
それは男の子が言ったことであった。"権利を行使するのは自分だ"。いついかなるどのような状況においても、権利を行使するのは自分なのだと、権利を行使したのは自分なのだという、男の子の考えであった。だからこそ、女の子はまた聞く。
「ええ。でもあなたはしなかった。それなのに、何故・・?」
やや詮索の感を含ませながら、そんなことを言った。男は、黙っている。
「なあ。俺、お前に言ったよな。お前が、変わったとはいえ、随分変わった、と。」
女の子にとってはすぐに思い当たることだったので、
「ええ。言ったわね。」
と、返す。
「ああ、そしてお前はこう言った。"私も自分がこうなるとは思っていなかった"と。」
「ええ。そうね。」
「おい、それがなんだって言うんだ。お前は、重要なのはこうしたらこうなった、て言って、不思議なこともない、とも言ってただろう。」
男が口をはさんで言った。しかし男の子は気にせず、
「ああ、言ったね。そういうのも。」
「だったら」
「だからこそ、だよ。」
男の子が言い、男が言ったところで男の子が遮って言う。そして続けて、
「まずたいして桜の奴が強くなく想いもとくにない以上、こうすることにした。途中でなにをやっても桜の奴が強くなければ、或いは想いが強くなければ、私のやることはおそらく不意味だろうからね。」
と言う。他から見て一人称がかわり、女の子と男は少し黙した。他から見て男の子の一人称が変わるのは珍しくなかったが、同じような雰囲気で、いきなる変わることはなかったからだ。そしてそれと同時に男は何か思い当たるようにし、黙る。女の子はそれを気にしつつも、聞く。
「どういうこと?」
そして男の子は言った。
「それはね、肉体番号"慎二"の肉体がプレイヤーで、お前は攻略対象だからだよ。」
と。男の子はそこで一旦黙り、場が静かになる。しかしその静けさは、女の子と男の子が一緒のときの静けさとは違った。その、重くもなく軽くもない"静か"のなかで、女の子が口を開く。
「え、それ、どういう?」
「なにを言っている、そんなことあるわけないだろう?」
そして女の子が言ったあと、やや焦っていたが遅れてしまった様に男が言う。それを聞いていた男の子は、
「うん。ここね、肉体に色々種類があるんだよ。見てくれは似ていても、全然性能が違う肉体がいるんだ。」
たんたんと話しだした。女の子は疑わしそうに、しかし真面目に話を聞こうとし、男は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「例えばそこの肉体番号"慎二"の肉体。その肉体は俗にプレイヤーと呼ばれているんだ。そしてお前のその、肉体番号"鏑木 桜"の肉体。その肉体は俗に重要NPCと呼ばれている。そしてこの肉体番号"虚鐘 彰野"の肉体。この肉体はNPCと呼ばれている。」
「なにそれ・・・。私、そんなの聞いたことない。」
女の子が首を振りながら言うが、男の子は気にせず続ける。
「これは呼び方が違うと色々違ってね。ああ、先に言っておくけどここはゲームの世界とやらではない。奴等はこの小さな小さな地帯に肉体ができたようにし、そしてその肉体を他のところにいる肉体を媒介としつつ操作するんだよ。そして他のところにいる肉体からある程度の操作をし、こちらの地域にも手を加えている。肉体:神でないにせよ、他からみればかなりのことをしたよ。まあ、私は些細なことではあると思うが。」
「え、いや、ちょっとまって、」
女の子が、理解できないと言う風に、或いは女の子がそれなりに優秀だったからこそ、そして男の子がどういう性格であるか見聞きしたからこそ、分からない、分からないと、頭を振りながら言う。しかし男の子は気にしない。
「そして、その"些細なこと"には、桜、その肉体を重要NPCとし、攻略対象とすることも含まれているんだよ。そしてNPCには好意を持たず、しかしプレイヤーならある程度であれば会うだけで好意を持つようにすることもね。」
男の子は言う。もはや男は無表情で黙り、女の子はある表情のまま固まっている。男の子は続ける。
「まあ、操作と言ってもたいしたことじゃないから私のようにある程度の奴であり、想いが強ければ問題ないんだが、君は違った。弱かったんだ。そして想いもさほど強くなかった。まあもともと私は君とただ一緒にいるだけでよかったから問題はないと思っていたが、やはりあの肉体はきた。そう、プレイヤーさ。」
女の子はもう何も考えていなさそうで、男はやはり黙っている。男の子はそれでも女の子が話を聞いていると考えて続ける。
「その肉体。肉体番号は"慎二"。しかし名前だけで名字がないなどいくら肉体番号とはいえ、いや肉体番号だからこそ、おかしいとは思わなかったのかい?そしてその肉体がきたたんびに君が困難に陥りそれをその肉体が"助けた"のも、それに君も言っていただろう?"私も自分がこんな風になるとは思わなかった"と。まあ、君の場合元々少しアレではあったが、私がまあたいして興味がない以上、そこは特に気にすることでもないだろう。しかしいささか君は変わった。ああそうだろう。重要なのはこうしたらこうなった、だ。そしてその"こうしたら"の部分に"プレイヤー"という要素が入ったと私は予想したわけだ。そしてまあ色々あり、私も幾つか試したが効果がなく、今に到るわけだ。さあ、君はあいつのことが好きだと言ったね。今でもそれは変わらないかい?まあ変わらないだろうね。今までもそうだったのだから。」
もはや、女の子はうつむいてしゃべらない。そしてそれまで急にだまっていた男が言った。
「はん、それがなんだっていうんだ、そんなのはお前の考えに過ぎない。プレイヤー?重要NPC?NPC?そんなのあるわけがないだろう!ただのお前の振り向かれなかったことに対するひとりよがりだ!」
しかし男の子は動じた様子もなく、
「その肉体、それを吐いたか。やはりやつは不真面目だな。まあ、そんなことはどうでもいい。私が気にするのは私の利益についてだよ。私に不利益がかかりそうな以上、そしてあれらの効果がなかった以上、私は私の利益の為に君を手に入れる。」
"君"の部分でチラと女の子を見ながら、そう言った。そして男は、
「はっ、手に入れるったてどうするってんだ!桜は俺のことが好きだ!仮にお前のいってる通りだったところで、だからこそ俺がプレイヤーだからこそどうにもならないんだよ!」
叫ぶ。女の子がふと、顔を上げた。男の子は、
「ああ、だから、その肉体を殺す。そうするくらいしか思いつかなかった。」
そう、言った。男はしかしニヤリと笑い、叫んだ。
「やれるもんならやってみろ!」
瞬間、男の子が動く。持ってきていた荷物入れから様々なものをとりだし、男に絡め手を使い襲いかかる。
そして。
あえなく男の一撃で沈んだ。沈んだ男の子の腹にはぽっかりと穴が空いており、その瞳にはすでに光はなかった。
「ああ、やはりこうなる。」
しかし男の子はそう呟き、そして今度こそ、動かなくなった。男は、すぐに後ろを向き顔を上げていた女の子に向かい合い、やや呆然自失といった体の女の子に向かい、にやりと笑って言うのだった。
「ああ、ごめん!ホンッとごめん!つい嬉しくて散らかしちまった!すぐに片付けるからさ!」
と。女の子は、やや、止まり、そしてゆっくりとうなずいた。
そして二人は付き合い、男が女の子に結婚を申込み、結婚。二人の子供ができ、男は単身働いて家族と幸せに過ごし、成長した女の子もそうであったようにみえた。子供もまた、幸せそうであった。そして、もう二人は90歳。それなりの歳となった。すでに孫もいて、二人は穏やかに過ごしていた。そして縁側でまた二人は過ごしている。
「なあ、桜。俺達今まで色々あったな。俺は、幸せだったよ。桜は、どうだ?」
その老いたようにみえる男が、成長し、また老いたようにみえる女の子に聞く。
「ええ。私も。何か、すこし釈然としない感じはあったけど、それでもよかったと思う。」
成長し老いたようにみえる女の子はそう言った。それに男は、やや笑いながら、
「またそれかい。そんなのないといつも言っていたのに、桜は可愛いなあ。」
そう話しかける。
「そうだ、何か聞きたいことはないか。その釈然としないものは俺も釈然としないが、答えられることなら答えるぞ。」
男は朗らかに笑いながら、そう言った。女の子もまた笑顔できく。
「うふふ。ありがとう、慎二くん。」
女の子のその呼び方に、男は嬉しそうにして、そして女の子が
「私、とても気になっていたんだけど、お前、私が私であると気づいてこうしていたのか?それとも気づかないでこうしていたのか?私としては苦渋の策としてこうして奴が情報を収集し操作した肉体から私が収集を収集し操作することにしたわけだが。まあ、奴も情報の収集はしているだろうし、話せないのは少し残念ではあったがこれはこれでいいと思いやってきたが、お前はどうだったんだ?それがどうにも釈然としなくてな。ああ、言葉は気にしないでくれ。この肉体だからな、それらしくしていたんだよ。で、どうなんだい?」
そう言うと、男は固まると言うのも温い感じで、微動だにしなくなり、そして、ゆっくりとぎこちなく女の子の方を向く。しかしその口からはなにも出てこず、その驚いたような顔のまま、倒れてしまった。
この日、近所や交友関係でよくおしどり夫婦と呼ばれた老夫婦の爺さんがなくなったと評判になった。そのことを通報したのは婆さんであったという。
そして一人、縁側で、
「いやあ、どうだったんだろうなあ。」
そう呟いていた。




