私はこれでいい
在るところに、旅人がいました。
旅人は、寂れた町に入って行きました。
町の中に、人は見当たりません。
建物も、外壁が崩れていて、すっからかんのようです。
暫くすると、どこかで楽しそうな声が聞こえました。
気になって声の方へ行ってみると、そこにはお爺さんと、二人の小さな女の子が居ました。
女の子は、それぞれ鉈をもっていました。
お爺さんは、両手にナイフを持っていました。
彼らは、仲良く遊んでいるようでした。
旅人は、近くに行って聞いてみました。
こんにちは、何をしているんですか、と。
お爺さんと女の子達は答えました。
お爺さんは、私の愛する娘達と遊んでいる、と。
女の子達は、お爺さんと遊んでいる、と。
しかし、旅人からは片方の女の子がお爺さんと遊んで片方の女の子が鉈で隙をついて攻撃しているように見えました。
聞くと、お爺さんは、あぁ、そのことですか。いえ、私は愛する娘達と遊んでいるのですよ。ほら、こうして捌きつつも、あそんでいるしょう?
女の子達は、今ね、パパを半分こにするところなの。とっても楽しいんだ。
旅人は、訳が分からなくて聞きました。どういうことなのですか、と。
お爺さんは、言葉どおりですよ。娘達は私の事を気に入って、二人いるから仲良く居られるように私を半分こしようとしている。私は愛する娘達と遊びたいので、こうして娘達の鉈を片手間で捌きつつ、片手間で娘達と遊んでいるのですよ。
旅人は、どうなっているんだ?
お爺さんは、先程のが答え。私は娘達と遊べて嬉しい、幸せです。娘達は私を半分こしようとして、その間の遊びも楽しい。そういう事ですよ。
旅人は、そんなのがあるんですか?
お爺さんは、おや、ありますとも。なに、私は私の幸せを、娘達は娘達の幸せを得ている。もっとも、私を半分こにはできていませんがな。それでも、楽しんでいる。そう見えますでしょう?なに、難しい事じゃないんですよ。私は私の幸せのため、娘達は娘達の幸せのため、私がこうして娘達の鉈を捌きつつ遊んでいれば、済む話なのです。それに、いつもこうしているわけではありません。飯を食べれば、寝もします。もっとも私は半分こされないように注意せねばなりませんがな。
そういうとお爺さんは、わっはっはっ、と、笑った。
旅人は、お爺さんのナイフ捌きに感嘆しつつ、その片手間てしっかりと遊んでいることに驚いた。ひやひやするものの、鉈はお爺さんにかすりもしない。その時、そういえば、と、旅人は、
お爺さん、あなたは、パパと呼ばれていますが、女の子達の、お父さんですか?
お爺さんは、いいえ、私はパパですよ。娘達が私にパパと名付けた。ならば私はパパでしょう。物の名前など、みなそうではありませんかな?
旅人は、では、血縁関係上のお父さんは?、と。
お爺さんは、ああ、既に半分こされましたなぁ。ほれ、そこですよ。
旅人は、そこでふっと、青いシートの下に何が在るのかに気づいた。
旅人は、何をそんなに!、と。
お爺さんは、なに、簡単ですよ。互いが利益を得るには、私のようにするのがいいということ。彼にはそれができなかった。そういう話です。私のようにできれば、関係は維持されるのですよ。難しい話ではない。簡単でしょう?皆やっている話だ。
旅人は、そこを立ち去りました。




