おぞましく美しいお人形さん
よろしくお願いします!
今日は友人と一緒に、アンティークショップに行き、品定めをする日だ。
寝苦しいこの季節、セミはうんざりするほど、うるさく鳴いていて、じりじりと照り付ける太陽がそれを後押しする。
「……あー、めんどくせーな」
「まぁ、そういわずに。マヒロが大好きな幼女ドールが待っているかもよ」
「ナツヒコは気軽でいいよな」
「そうかな? これで結構苦労してるよ」
何気ない会話と日常の中でこれから起こる事件をものがたろう。
僕の家から約二キロぐらい離れた場所に、そのアンティークショップはあった。何度か出入りしているが、その人形を見るのは初めてだった。
「この人形不気味だね」
「……ああ」
ナツヒコは不気味というが、僕には愛らしく見えていた。
確かに、眉間にシワを寄せて、どことなしか威嚇しているような雰囲気の顔だったが、さほど怖くはなかった。
白いワンピースを身にまとった、その人形は幼かった。年齢層は六歳前後ぐらいに見えた。
値札に目をとめると、六十センチサイズの木製の古い人形が千円ぽっちだった。この手の古い人形はプレミアとかついてそうで、もっと高値で売ってそうだが、それを気にもとめず人形をレジに持ち運んだ。
「え、それ買っちゃうの? ぜったいヤバいやつだって」
「気に入った。買う」
僕はナツヒコの制止を聞き入れずに人形を購入する。
「この子ね、“マリアちゃん”って言うのよ。大事にしてやってね」
顔なじみで、ここの店主のおばさんが、にっこりと笑いながら、マリアちゃんを包装してくれた。
その帰り道、偶然事故で横転した車をみた。現場は騒然とする中、僕はナツヒコに別れをつげて、家に猛ダッシュした。
事故とか関係なかった。一刻も早く家に帰り新しく手に入れた、そのマリアちゃん人形で、性的ファンタジーの世界に浸りたかったからだ。
僕は人形を新しく買うたび、性的ファンタジーで洗礼をする。マリアちゃんにも洗礼を受けてもらうべく、包装紙をやぶりそっと手に取った。
「マリアちゃん、初めまして僕はマヒロっていうんだ。よろしくね」
挨拶も、そこそこに、僕はおもむろにパンツを下して、性的ファンタジーに身を置こうとしたときだった。
――よろしくね。
どこからか声が聞こえてきた。
「どうしたの。あたしはここよ?」、
しゃべっているのは紛れもなくマリアちゃんだった。僕は幻聴ではないかと一瞬、自分を疑ったがそれは、事実であって夢ではない。
「キミ、しゃべれる機能あったんだ?」
「ううん、あたし人語が話せるの」
「そうなんだ。面白いね」
日常であって、非日常なのである。ここから僕とマリアちゃんの奇妙な同棲生活が始まろうとしていた。
「マリアちゃんはいくつなの?」
「六つよ」
僕はこの言葉を聞いて興奮を抑えきれない。ロリコンであるからだ。その上、ピグマリオンコンプレックスを持っている。
それはまさに至福のひと時だった。ファンタジーに浸っているあいだマリアちゃんは、なやまし気な声を出してくれた。
人形がしゃべったなんて聞いたら、常人ならおそらくは恐怖するだろう。だが、僕はそれよりも異常性欲が勝ったのである。
性癖は恐怖すらも克服できるものだと、僕は実感した。
「よかったよ、マリアちゃん」
「あたしもよかった。ウフフ」
翌日の昼に、とある友人からメールが届いた。
『ヤマトだけど、タカシが危篤になった』
メールの内容がそれだった。僕は早急にタケシの入院している病院へ自電車をこいだ。病院は五キロ離れた場所にある。
待合室にはナツヒコもいた。
「どうして急に?」
「あの事故の犠牲者はタカシだったんだ!」
それはアンティークショップからの帰り道の出来事が重なった瞬間だった、
「……マジかよ」
「きっと呪いだよ。あのマリアとか言う人形の……」
「聞いたぜ、ナツヒコから。呪われてそうな人形を買ったてな?」
「マリアちゃんは呪われた人形じゃない!」
「いや、呪われている。あれがしゃべりかけてきたのを覚えている。最初は幻聴かなにかと思ったけどこういう事故が起きてしまった以上確信だよ。ヤマトもそうおもうだろ?」
「ああ」
「絶対違う。マリアちゃんは呪いの人形なんかじゃない。むしろ天使だ!」
「お前って奴は、目を覚ませ!」
ヤマトが胸ぐらを掴んできたが、ヤマトの電話にある知らせが届いた。それは父親が工事現場の事故で大ケガをしたとの知らせだった。
「そんなオヤジが……これでもか? こんな不慮な事故が立て続いてんだぞ!」
「……僕、家に帰るよ」
「なんだよ、逃げんのかよ?」
「ああ、そうだよ」
「お前はいつだってそうだ現実から逃げるんだな」
「絶縁だ。お前と関わったら死んじまう」
ナツヒコとヤマトは、僕に対し縁を切ると言ってきた。たぶんそれは自分たちが巻き込まれたくないからだと思った。
それでもよかった、「僕は憎まれて死ぬ」というのが座右の銘だからだ。「あいつは死んだ方がマシ」と思われた方が誰にも悲しませないからだ。
家に帰ると、
「おかえりなさい。ご主人様」とマリアちゃんが出迎えてくれた。
僕はさっきまでの出来事をマリアちゃんに打ち明けた。
「ウフフ。それはさぞかし悲しいでしょうね。でもご安心下さい。あなたのそばにはあたしたちがいます」
周りを見てみると人形たちが囲んでいた。
「そうだね。僕にはみんながいるから大丈夫だよ」
「そうですよ。ウフフ」
そしてこの日は人形に囲まれながら眠りにっついた。
翌朝、テレビをつけること一家殺害というニュースが舞い込んできた。被害にあったのはヤマトの家だった。
「あ、ヤマト死んじゃったんだ?」
「おはようございます、ご主人様。お加減はいかがですか?」
「うん、大丈夫だよ」
僕は平然としていた。それから数時間、マリアちゃんと語らいながら笑っていた。そこに邪魔者がやってきた。僕にとっては招かざる客だ。
「おい、ドアを開けろ。ニュースみたらろ?」
ドアを開けるとナツヒコがいきなり僕を殴ってきた、
「すべてお前のせいだよ。その呪いの人形を今すぐお寺かどっかに預けて来いよ!」
「いやだね。マリアちゃんは呪いの人形じゃない」
「ウフフ」
「笑ってんだよ。その人形が今でも」
「知ってるよ。この子は天使なんだ」
「お前、その人形をよこせ!」
ナツヒコはあろうことかナイフを持参していた。そこまでして、マリアちゃんを呪いの人形だと言いはるのは僕にはわからなかった。
「やめろって、落ちつけよ」
「だったら人形をよこせ」
「やめて。あたしのために争わないで!」
「お前は黙っていろ。人形の分際で」
このカオスは隣人が感づいてか数分後、警察が突入してきた。そしてナイフを所持していたナツヒコは銃刀法違反と脅迫で逮捕された。
「マリアちゃん。助かったよ」、
力が抜け腰が砕けるように座り込みむと、マリアちゃんはいきなり僕を罵倒し始めた。
「アハハ、楽しかった。なにが天使だ? あたしは魔女がつくたでっきとした呪いの人形なのさ。最後はあんたの番だよ!?」
そこへ侵入してきたのは今朝のニュースでやっていた、ヤマトを殺害した殺人鬼だった。僕は抵抗もむなしく刺された。
「フン、お前正直キモかったよ?」
人形に気持ちわるがられるなんて僕はどんなけだ、と思いつつも、
「……それ……でも……愛して……る……」
最後はその言葉を投げかけマリアちゃんを手に取りキスをした。意識薄れていく中で、マリアちゃんは、
「キモイ、キモイ。離せ、離せー!」と大声を張り上げていた。
読了感謝!