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8 学食でランチ、いかがですか?

 「ねえ、僕の顔に何か付いてる?」


 今日は、学食で寿也さんとランチ。

 クリスマスを空けるために2人とも忙しくて、12月になってからはあまり会えていない。

 仕方ないことではあるけど、デートのために会えないというのも少し淋しいので、大学の方で少しでも会う時間を作ろうというわけ。

 さすがに大学に来てる時にお昼を一緒に食べる時間を作るくらいは難しくない。

 とはいえ、寿也さんは実験の最中は昼も外に出られず張り付いていることが多いので、週に2回学食で会うのが限界みたいだ。


 で、一緒にご飯食べてるわけなんだけど、寿也さんがじっと僕の顔を見たまま微妙な顔をしている。

 僕、何も変なことは言ってないと思うんだけどなあ。


 「ねえってば。

  さっきからどうしたのさ?」


 「ん、ああ。

  明星、何か悩みあるんじゃないか?」


 「悩み? …いやあ、思いつかないなあ」


 目下最大の悩みであるクリスマスプレゼントをどうするかってのは、この前解決したしね。

 もちろん、寿也さんには内緒だけど、今現在悩んじゃいないし、いくら寿也さんが勘がいいからって、気付くようなものじゃないはず。


 「僕、悩んでそうな顔してる?」


 「ん~、悩んでそうっていうか、ちょっと疲れてる感じ?

  体力的にっていうより精神的に疲れてるって感じだから、悩みがあるのかなぁって思ったんだけどね」


 「精神的な疲れ? バイトの方に問題児がいるけど、顔に出るほど疲れてるかなあ?」


 「問題児?」


 「えっとね、いちいち指示してあげないと仕事ができない子。

  商品補充してとか、今のうちに床清掃してとか、レジ2人でやってとか。

  でも指示したことはちゃんとやるから、そんなに疲れてるってことはないよ?」


 「いやいや、十分ストレスだと思うけどな。

  きっとそれだよ」


 「う~ん。

  けど、人を使う側になると、避けて通れない部分ではあるよ?

  一応、バイトではチーフだし」


 「チーフって?」


 「一緒に店に出るバイトの中で、最上位ってこと。

  ほら、一応引継とか報告とかで責任者って必要じゃない。

  そういうのをチーフっていうんだ。

  僕、一応2年近くやってるし、実家の方でも経験あったからね、大分前からチーフに昇格してたんだよ」


 「そっか。

  明星は、学生って言っても半分社会人みたいなもんなんだな。

  そりゃ、ストレスも溜まるか」


 「溜まるってほどでもないよ。

  それに、問題児(あの子)達と組むのは、クリスマスまでの辛抱だしね」


 「なんでクリスマス?」


 「イブに休み取りたいバイトが何人もいるから、あらかじめシフトを組み替えてるんだよ。

  その分、いつもと違うメンバーがシフトに入ってくるんだ。

  まあ、忙しい盛りに休みを取ろうとすれば、多少しわ寄せがくるのは仕方ないよ」


 寿也さんとイブを過ごすためだからね、とは言わないけど。


 「そっか。

  イブのために頑張ってくれてるんだなぁ。

  でも、無理はしないでくれよ。

  デートの時にヘロヘロだと、お互い悲しいからさ」


 だから、どうしてそう鋭いんだよ!


 「寿也さん(あなた)のためだなんて、一言も言ってないよ。

  イブに休む人は沢山いるんだから、お互いフォローしないとね」


 「そうだね。

  でも、明星が体壊したら俺が悲しいから、俺のためにも無理はしないでくれよ」


 「~~~~~!

  もちろん、無理なんかしないよ。

  かけがえのない自分の体だからね」


 この女たらし!

 なんでそういうことへらっと言えちゃうんだよ!

 顔! 赤くなっちゃダメだってば!

 どうしよう、多分、今、僕、耳まで真っ赤だよね!

 どうしよう、話、何か、誤魔化さないと!


 「あ、あの、指示待ち系の人ってどうして言われないと動けないんだと思う?」


 「指示待ちってさっきの話の?

  俺の周りにもいるけど、大抵は怒られたくないのが原因かなぁ」


 「怒られたくない? むしろそのせいで怒られてるんだけど」


 「そ。

  さっきの話だと、例えば商品の補充な。

  弁当とか生菓子とか、賞味期限の細かいやつがあるだろ?

  あ~、少なくなってるなぁと思っても、今そこに追加していいのかって考えると動けなくなったりする。

  古いのと新しいのが並んでたら、誰だって新しい方を選ぶだろ?

  そうすると、ここに新しいのを置いたら、古いのが売れ残るんじゃないか、そうしたら新しいのを並べた自分が怒られるんじゃないかって考えちまうわけさ。

  だから、自分からは動けない。

  指示されてやったんなら、自分は怒られないだろ?

  要するに、自分の判断力に自信がなくて、間違って怒られたくないから、指示のないことはやらないわけだ」


 「やらない方が怒られるんじゃない?

  実際、こんな忙しい時期でもなきゃ、あの子、すぐクビだよ?」


 「その辺は、個性とかもあるからさ、一概には言えんよ。

  例えば、以前に自分の判断でなんかやらかしてひどい目にあったりすると、もうダメって人は多いなぁ」


 「失敗したら、次頑張ればいいとは考えないの?」


 「そういうポジティブな人ばっかじゃないさ。

  俺の知り合いにさ、中学で野球部にいた奴がいるんだけど、そいつ、中3の県大会の準決勝で、サイン無視して盗塁してアウトになってな。

  結構足が速かったんだけど、その後、まったく盗塁できなくなった。

  足がすくむんだと。

  で、高校では野球部には入らなかった。

  強烈な経験するとさ、それがトラウマになって、思うように動けなくなることもあるのさ」


 「その人、今はどうしてるの?」


 「高校出てからは会ってないけど、多分二度と団体競技はやらないんじゃないかな」


 「たった一度の失敗で?」


 「そのたった一度が、消えない傷になることだってあるさ。

  あ、言っとくけど、明星のとこのバイトがそうだって言ってるわけじゃないぞ。

  そういうのが恐くて動けないタイプもいるってだけだからな?」


 「じゃあ、そういう人は、自分に自信を持てれば改善するのかな?」


 「人それぞれだからなぁ。

  その指示待ち君にだな、黙って見てるから自分で判断して動けって言ったところで、結局は動けないまんまだと思うぞ。

  変な言い方だけどさ、高所恐怖症の人に、飛び降りても怪我しない高さだから飛び降りろって言っても、無理なものは無理なんだよ。

  明星は大抵のことにポジティブだし、乗り越えるだけの力もあるから、あまり共感できないだろうけどさ。

  星也が家を継がないって決めたのも、多分、継ぐことに対するプレッシャーとか、明星の方が商売向きだっていう劣等感とか、色々あったと思うんだ。

  そういうのってさ、周りが何を言っても、本人が心から納得しない限りどうしようもないんだよね」


 兄貴も?

 家を継ぎたくないから、こっちで就職しようってことにしたのも、自分に自信がないからなの?

 僕は、オルマの仕事が好きだけど、自信があるからってわけじゃないけどなあ…。


 「まあさ、その指示待ち君達は、明星が雇ってるわけじゃないんだし、そんなに気に病むことないって。

  そうだ、自分に自信がないと動けない例をもう1つ。

  いい雰囲気になったなぁって思っても、クーリングオフが恐くてキスの1つもできない臆病者もいるんだってさ。

  んじゃ、また学食(ここ)で」


 寿也さん、去り際になんか爆弾落としてった!

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