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5 イブのお誘い、いかがですか?

 「灯里、お願い。

  買い物付き合って」



 僕が寿也さんと付き合い始めて2週間。

 お互い忙しい身の上なので、まだ2回しかデートしていない。

 2回っていうか、初デートの後、1回だけだ。


 2回目は、映画を見に行った。

 恋人タイムのナイトシアターで、金曜日の夜、カップル限定で安くなる。

 デートなのに色気のない話だけど、僕らは学生だ。

 ワリカンにしようと思ったら、安くすむように工夫することも必要なのだ。

 寿也さんは微妙な顔をしてたけど。

 苦学生ってわけじゃないけど、自分の小遣いは自分で稼ぐことにしてるから、バイト代で賄える以上の出費は抑えたいのだ。

 これには、親からの干渉を最小限に抑えたいっていう打算もある。


 デートでは、そば屋で夕飯を食べてから、話題のアメコミアクションものを見て、お茶を飲みつつ映画の感想を語り合って、送ってもらって解散、だった。

 デートでそば屋ってのもどうかとは思うけど、新蕎麦、食べたかったんだから仕方がない。


 デートでは、電車とバスで移動した。

 そして、初めて手を繋いだ。

 恋人繋ぎは、恥ずかしくてできなかった。

 20歳にもなって情けない話だけど、手を繋いで歩くだけですごくドキドキした。

 寿也さんは平然としていて、それが妙に憎らしい。

 どうせ経験豊富なんだろうな、と嫉妬している自分に落ち込む。

 なんだよ。すっかり堕ちちゃってないか?

 寿也さんがどうして僕を口説いたかなんて部分をすっ飛ばして、僕が寿也さんにどんどん惹かれている現実が積み上がっていく。

 恋愛は惚れた方の負けだ、なんて、どこかで聞いたような気がするけど、本当にそのとおりだ。

 手を繋いで帰ってきて、アパートのドアの前でさよならする時、このままキスされたいなんて乙女チックなことを考えた自分に愕然とした。


 どうしよう。

 あの妙な告白で付き合い始めたのが10月26日。

 約束の2か月が過ぎる頃、ちょうどクリスマスになる。

 寿也さんのことだから、イブには何か趣向を考えているんだろうし、そこまで待って確定してもいいかもしれない。

 ただ、イブの夜ってシフトが変則になるから、休みになるかわからない。

 既に、イブはシフトから外してほしいって申請しているバイトも何人かいるようだし。

 まだ1か月半あるから、僕も申請しておこうかな。

 …って!

 すっかり、イブには誘われるものと思ってないか!?

 あああ、なんだよ、この恋愛脳は!


 えっと、バイト休みにして、体空けといて、で、デートの途中で、ちゃんと付き合うことにして…。

 流れ次第で、最後までいっちゃっても、いい、よね。

 なんだか、イマイチ素直になれないけど、寿也さんと一緒にいると楽しいし。

 ちゃんと、付き合って。


 この際だから、イブ空けたからって言っちゃおうか?

 お試し期間も終わるし、イブ空けとくからって。

 …なんか、僕が誘ってる(おねだりしてる)みたいじゃない!?

 うあああ…だめだ、恥ずかしすぎる!



 でも、もし、誘ってくれなかったらどうしよう?

 こんなに盛り上がっちゃった後で放り出されたら、中学の時より落ち込むのは間違いないよ。

 あれで女子高行ったくらいトラウマなのに、この気持ちは、中学の時なんて目じゃないくらいになってる。



 うん。大丈夫。きっと誘ってくれる。

 そしたら、僕の気持ちをちゃんと伝えよう。

 今更女の子らしくはなれないけど、それでも僕は女の子だから。

 僕を女の子として求めてくれるなら、僕は寿也さんと付き合いたい。



 あと、大きな問題が1つ。

 僕は、可愛い服を持っていない。

 元々、華奢ではあるけど身長が170もあって、普通の女物は体に合わないので、量販店で男物のシャツなんかを買って着ていることが多い。

 左前に慣れているのがいいことなのかどうかは知らないけど、気楽にラフな格好でいられるのは嬉しい。

 胸が慎ましすぎて似合う、と言われるのは悲しいけど。

 寿也さんとの初デートの時も、男物を着ていたけど、寿也さんは何も言わなかった。

 きっかけがきっかけだから、それでいいと思ってる。

 でも、さすがにイブのデートに男物はだめだろう。

 せめて恋人同士に見えるように、少しくらいは気合いを入れて可愛い服を着たい。

 そこで問題になるのは、僕にはファッションセンスがないってことだ。

 僕が男物でラフな服装を好むのは、実のところ、それしかできないからだ。

 その辺り、姉さんを見習っておくべきだったかもしれない。

 でも、スカートは履きたくないなぁ。

 とりあえず、目の前の問題を片付けるには、灯里の助けを借りるしかないだろう。

 朱野灯里(あけのあかり)、高校時代からの親友。

 学部こそ、教育学部で僕と違うけど、同じ青海大に通っているから、今でもしょっちゅう会っている。

 灯里は、僕と違って女子力が高くて、高校時代からよくモテていた。

 たしか、今は同じ学部の彼氏がいたはずだ。

 僕が灯里と歩いていても浮気と勘違いされないように、僕も1回彼氏に引き合わされた。

 灯里に頼んで服を見繕ってもらおう。



  「え? デート用の服? ちょっと待って、明星(あんた)、いつの間に彼氏なんか作ったわけ?」


 「えっと、2週間くらい前。

  っていうか、まだお試し期間中なんだけど、本格的に付き合いたいっていうか、その…」


 「ふーん。で、どんなコースの予定なの?」


 「え? コース? あ…わかんない。っていうか、まだ誘われたわけじゃないんだけど、多分、誘ってくれるだろうし、っていうか、僕から誘ってみようかなとか…」


 「珍しくはっきりしないね。

  そっか、そういや男慣れしてないんだっけ。

  ん、わかった。

  次のバイト休みの日っていつだっけ?

  買い物付き合ってあげる」


 「ありがとう。助かる」



 こうして、僕は灯里と買い物に出かけたんだけど…


 「いや、スカートはちょっと…」


 「ねえ、これ、鎖骨見えてるよね!」


 「ちょっと、これ、ヒラヒラしすぎてない!?」


 結論。

 僕は女子力が異常に低いらしい。

 ともかく、僕は、灯里に半分呆れられながらも、なんとかヒラヒラしてなくて可愛い服を買うことができた。

 買い物に付き合ってくれた灯里に、お礼としてお昼をご馳走した分も含めて、諭吉さんが2人去っていった。

 懐が痛いけど、必要経費だ、仕方ない。

 さあ、こっちは準備OKだよ。

 いつでも誘いにきて。



 さらに10日後。

 やっとお誘いが来た。

 その間にメールが15回、実際に会ったのが2回。

 それで、11月29日。

 イブまで1か月切ってるじゃんか!

 なんでこんなに待たせるの!



 「バイトの方、イブは空けられた?」


 「なんで空けるの前提なわけ? まあ、空けたけど」


 「そりゃあ、恋人達の一大イベントだからね。

  俺も頑張って空けたけど、明星も頑張ってくれたかなぁって。

  星也の話じゃ、普段はイブに率先してシフト入れてたらしいから」


 「兄貴、そんなことまで話してるの!?

  ってか、それって、もしかして僕と寿也さんが付き合ってるって知ってるわけ!?」


 「いんや、気付いてないよ。

  気付かれたら邪魔されるに決まってるから、そこは気を遣ってるよ」


 「じゃあ、なんで僕のクリスマスのバイトの話なんか」


 「知り合いがクリスマスケーキの立ち売りのバイト探しに奔走してるって話をしたら、教えてくれた。

  『うちの明星もイブを一緒に過ごす相手がいた試しがないから、いっつもイブにはバイト入れてるぞ。そういうお一人様に声かけりゃ一発だ』ってさ」


 「あ~、まあ、イブを過ごす相手はいなかったねえ」


 「というわけで、初めてのイブデートに1名様ご招待!

  イブのディナーくらい奢らせてくれよ」


 「…わかった。

  楽しみにしてる。

  イブは1日空けてあるから、何時からでもいいよ」


 「うんうん。楽しみにしててよ」



 よかった~。

 ちゃんとお誘い来たよ~。


 そうだ、プレゼント用意しなきゃ。

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