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閑話 幸せ、ここにあります

 妹が結婚した。

 嫁に行く形にはならなかったが、それでも惚れた相手と結ばれた。

 あいつのあんな幸せそうな顔は、随分久しぶりに見る。

 俺のために、人生をねじ曲げてしまったあいつ。

 「ぼくがお兄ちゃんのお嫁さんになってあげるよ」そんなことを言って俺を慰めてくれたのは、いつの頃だったか。



 俺は、小さな頃から女顔で、誰からも女の子と思われた。

 おまけに、名前も「せいや」で、背も低く、1歳下の妹と双子の姉妹だと思われることも多かった。

 小学校に通う頃には、妹に身長を追い抜かれ、むしろ俺が妹扱いされるようになってしまった。

 親の趣味なのか姉さんの趣味なのか、着ている服も女の子っぽい雰囲気のものが多かったことも影響しているかもしれない。

 俺が男の子らしい服を選ぶよう親に頼んでも、親は一向に変わらない。

 俺は、せめてもの抵抗で、自分のことを「俺」と言うようになり、そんな俺を可哀想に思ったのか、明星は俺を「お兄ちゃん」と呼び始めた。

 この時、多分、明星は、どこかボタンを掛け違えてしまったんだろう。

 元々活発だった明星は、そこらの男子と遜色ないどころか、女の子特有の発育の早さで、男子顔負けのやんちゃ坊主になっていた。



 決定的だったのが、中学時代の失恋だ。

 小学校からの同級生に告白されたとかで、暫くはウキウキしながらデートに出掛けたりしていたのに、ある日、学校から帰ってきた明星は、ひどく落ち込んでいた。

 事情を聞いてみると、男女(おとこおんな)と言われてフラれたらしい。

 「心当たりがありすぎて、どれが原因かわからない」と言われたことには開いた口がふさがらなかったが、心当たりのどれもが、昨日今日の話ではないらしい。

 色々問い質してみると、どうやら昨日どうしていたかと聞かれ、()と出掛けたと答えた後で言われたようだ。

 それを聞いて思ったのは、「もしかして俺と2人でいるところを見られたんじゃないか?」ということだった。

 悲しいことに、俺と明星が並ぶと、俺の方が少し背が低いこともあって、男女が逆転してカップルに見える。

 たしか昨日は、やけに機嫌の良かった明星が手を繋いできたから、デートしてるようにでも見えたんじゃなかろうか。

 とすると、明星がフラれたのは俺のせいか。

 …言えないよな。「お前がレズだと思われたからフラレたんだ」なんて。

 どのみち、明星を信じることのできなかった男だし、別れるのも時間の問題だったかのかもしれないが…半分以上、俺のせいだな。



 言うべきかどうか悩んでいるうちに、明星は吹っ切れたと言うべきか諦めたと言うべきか、女子高に行きたいと言い出した。

 俺は、胸にもやもやしたものを抱えたまま、見ているしかできなかった。

 だから、明星が高校の友達を初めて家に連れてきた時は、ちょっと嬉しかった。

 あいつが俺を友達に紹介したのも初めてだったし。

 その友達…朱野さんという子から聞いた話では、明星は学校で王子様扱いになっているらしい。

 それと、俺を紹介したくなくて、家に友達を連れてこないのだとも聞いた。

 俺の存在が、明星にのしかかっているという現実は、重かった。



 いつの間にか俺は、明星に正面から話をすることができなくなっていた。

 俺のせいで歪ませてしまった明星の人生に、責任が取れない自分が情けなかった。

 逃げている。そう自覚してはいても、どうすればいいのかわからない。

 明星はと言えば、家でやっているコンビニのバイトが楽しいらしく、家を継ぎたいと言っているようだ。

 なら、せめてその夢が叶うよう協力してやろう。




 「なぁ星也、そこのオルマで、お前によく似た子を見かけたんだけどさ」


 ある日、友人の白寿也が、明星を見かけたらしい。

 寿也はいい奴だ。たしか、今彼女はいないはずだし、長男でもない。

 もし、こいつが明星を口説き落とせるようなら、もしかしたら…。


 「ああ、明星っていうんだが、弟がバイトしてる。俺がKAKUYOに入ったら、繰り上がって跡継ぎかな」

 「弟? なのか?」

 「なんだ? 女に見えたのか? なんなら口説いてみるか?」

 「もっかい会ってくる。口説いていいんだな?」

 「男を口説く趣味があるならな」


 さあ、女だと見抜け。口説き落としてみせろ。悔しいが、お前なら認めてやる。

 明星(あいつ)を幸せにしてやってくれ。




 年も明け、いい加減結果が聞けてもいい頃だろうと焦れている頃、寿也に呼び出された。

 寿也の隣には、神妙な顔をして明星が座っている。

 そうか、よかった。

 「ま、見りゃわかると思うけど、明星と付き合ってる。

  お前には報告するのが筋だと思うんで、忙しいとこ悪いけど呼び出させてもらった」


「もう確認したんだろうが、こんなんでも一応女だ。

  返品は受け付けないから、そのつもりでな」

 「返せって言われても、返さないから」

 「明星も。

  せっかく奇特な引き取り手が見付かったんだ。

  しがみついて離れんなよ」


 よかった。明星が幸せそうで。

 頼むぞ、寿也。




 「なあ、星也。

  いい加減、明星に素直になったらどうだ?」


 「うるさい。俺の勝手だ。

  それより、クリスマスのデートの写真とやらはどうした」

 「ほれ」

 「データよこせ」




 「その待ち受け」

 「ん? ああ、成人式だよ」

 「データ」

 「はいはい」

 「明星には、言うなよ」




 自分で糸引いておきながら、幸せそうな2人を見ているとむかつく。

 とはいえ、明星が明るく笑っていられるなら、それくらい安いもんだよな。

 幸せになれよ、明星。

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