42 今後の相談、いかがですか?
「というわけで、卒業してすぐ実家に帰っても家を継げる訳じゃないんだってさ」
正月明け、実家から帰った僕は、寿也さんに報告していた。
寿也さんも正月は実家に戻っていたから、お互いに状況報告ってところだ。
「いやいや、それ、普通じゃないか。
というより、なんで大学出たばっかで家業継げるとか思うかな」
あれ? 驚かない? もしかして、僕がおかしいの?
「え? だって、兄貴が継がないんだから…」
「だからさ、跡取り娘婿養子はわかるけど、卒業してすぐ家を継ぐって話にはならないだろ、普通。
跡取りってのは、後々家や家業を継ぐためのものであって、今すぐ継ぐってわけじゃない。
例えば、大企業の跡取り息子が、大学卒業してすぐに社長になるか? って話だよ。
ゆくゆくは跡を継ぐのはこの人ですってことでしかないんじゃないの?」
…言われてみれば。
え? それじゃ、僕、何を悩んでたの? てか、僕、就職活動してないんだけど…。
「僕、就職活動してない…。実家帰るつもりだったし…。卒業した後、どうしよう。
新入社員とフリーターじゃ、結婚なんてできないじゃない」
よほど僕が落ち込んでいるように見えたらしく、寿也さんがフォローを始めた。
「いやいや、別に明星が就職する必要はないだろ。
卒業してすぐ家を継ぐわけじゃないにしたって、基本、明星は実家の店を手伝うか、こっちでバイトを続けるかってことでいいと思うよ。
卒業即結婚である必要もないし、そんなに焦ることはないんじゃない?」
「でも、結婚しないで僕が実家に帰ったら、遠距離恋愛になるよ。
寿也さんは、それでいいの?
僕、てっきり、卒業したらプロポーズしてもらえるんだと思ってた…。
馬鹿みたいだね」
「あのな、明星。
結婚式どうするとか、どこに住むかとか、現実的な問題って結構あるんだよ。
すぐになんて、無理だって。
第一、俺達の場合、嫁に来るのか婿に行くのかってとこから話をしなきゃならないだろ」
「じゃあ、寿也さんはどうするつもりだったの?」
「まぁね、今回実家に戻った時に、一応親には話したんだよ。
付き合ってる娘がいるってことと、その相手が跡取り娘だってことと」
「で? 寿也さんのお父さんは、なんて?」
「特に反対はしないけど、そう簡単には決められないってさ。
相手の、つまり明星のな、親御さんと話してみないことにはって」
「そっかあ…。あ~、もう、なんでそんなに面倒なのさ。
好きだから結婚します、じゃ駄目なの?」
「明星、それ、どっちかって言うと男の側が嘆く時の言葉だと思う」
「いいんだよ、僕は男っぽいって言われ続けてきたんだから」
「いやいや、さっきの拗ね方は、とっても女の子してたよ」
「そんな微妙なほめ方、いらないよ!」
「ん~、じゃあさ、明星は、どうしたいわけ? 本当に、卒業したらすぐに結婚したかった? それとも、すぐに店を継げないことに拗ねてるだけ?」
拗ねてる? 僕が? …うん、拗ねてるかもしれない。
僕だけが、現実を見ていなかった、結婚なんて夢を見てただけだったことに気付かされたから。
「わからない。僕の理想は、寿也さんが婿養子に来てくれて、僕がお店を継ぐことだった、と思う。
少なくとも、それはあり得ないことらしいから…」
もう、自分がどうしたいのかさえわからない。
僕は、おままごとの世界にいたんだ。
したこともなかった、おままごとの世界に。現実を見ることもできない子供そのもので。
少し、寿也さんと距離を置いた方がいいのかもしれない。
冷静になって、お互いを見つめ直して。
「おい、明星! 明星ってば! なに泣いてんだよ」
「…え?」
泣いてる? 僕が? あれ、ほんとだ。
なんか頭がぐちゃぐちゃになってる。
ああ、寿也さんと距離を置くって考えたからだ。
やっぱり僕、寿也さんに依存してるんじゃないかなあ。
「寿也さんは、どうしたいの?」
怖いけど、答えを聞くしかない。
これから僕達がどうするのか、寿也さんの希望を。
「できれば、しばらく一緒に暮らして、それから結婚、かな。
もし、俺が婿養子に入るなら、それなりの結婚式を挙げる必要があるんだろうし、それなりの金がいるよな。
個人的には、式なんかどうでもいいんだけど、明星の家はそうはいかないだろ?
言っちゃなんだが、田舎の土地持ちなんだろ。周りへのアピールは必要だし。
あと、お互いの家に挨拶に行ったり、親同士が挨拶したり。これは、婿でも嫁でも同じだと思う。
準備やらなにやらやってると、1年や2年はすぐ過ぎるよ」
「一緒に暮らすの?」
「ん。どっちにしても、結婚したら暫くは2人で暮らすわけだし。
どのみち2人とも若すぎるってのが難点なわけだから、事実上一緒にいるってことでもいいのかな、と。
最近は、式を挙げずに籍だけ入れるって人も結構いるけど、婿養子でそれだと、明星の家が困るだろ。
まぁ、婿養子になるって道を残す意味でも、今は俺達、籍を入れるわけにはいかないからなぁ」
「それって、婿養子でなければ、今すぐ結婚もできるってこと?」
「まぁ、そうだけど。
でも、そこは焦らない方がいい。
明星は今、ちょっと情緒不安定だから、安易に流されるときっと後悔する。
俺の前で泣いたの、これが初めてだろ。
卒業したら店を継ぐって予定が崩れたもんだから、狼狽えてるんだよ」
情緒不安定、か。
たしかに、こんなにぼろ泣きすることってないもんな。
どうしちゃったんだろう。
僕は…僕が卒業したら結婚するつもりでいたから、同棲を断っていたんだ、きっと。
だから、すぐ結婚できないなら、同棲してもいいって思い始めてる。
すぐ結婚できないって言われたことで、寿也さんを失ったような感覚になってるんだ。
置いてかれたって感覚が、捨てられたってすり替わってる。
捨てられたくないって焦ってる。
いつもの僕じゃない。
頭を冷やさなきゃ。
これから寿也さんとどうしていくのか、よく考えなきゃ。
独りよがりじゃなくて、きちんと話し合って決めよう。
「あのね、寿也さん…」




