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37 誕生日プレゼント、いかがですか?

 「まあ、僕の誕生日って夏休みだしね」


 今日は、僕の21歳の誕生日。

 うまい具合に、バイトが夕方までだったから、寿也さんとディナーに来てる。

 僕は、家族以外と誕生日を過ごしたことがなかったので、そのことを言ったら、寿也さんに驚かれてしまった。


 「夏休みってことは、毎年必ず休みなわけだから、むしろパーティーし放題なんじゃないの?」


 「そりゃ、夏休み入ってすぐだったら、あらかじめ日程決められるだろうけどさ。

  30日ったら、夏休み入って1週間経ってるからね、予定なんて立たないよ。

  あと、実は、これが一番大きな理由だけど、僕、家に友達連れてきたこと、灯里以外にないんだ」


 「朱野さん? だけ?

  あ、そうか、星也だ! 星也に会わせたくなかったんだな!」


 「当たり。相変わらず鋭いね」


 うちの兄貴は、僕よりよっぽど女の子っぽい顔立ちをしてるから、友達に見られたら何言われるかわからない。

 それで、僕は友達を家に連れて行くことはなかったんだ。

 陽介と付き合ってた時も、家に連れて行ったことはない。

 もっとも、陽介の場合は、兄貴がどうこう言うより、親に彼氏を見られるのが照れくさかったって方が大きかったと思う。


 灯里の場合は、先に兄貴に会ってたからね。今更隠す必要がなかったんだ。


 「いや、一緒にケーキ食べに行ったことくらいはあったけど、そういうのって誕生日を一緒に過ごすとは言わないでしょ」


 「あ~、そゆこと。

  なるほどね、夜を一緒に過ごすとか、ディナーとかってことか。

  初めての相手になれて、光栄です」


 「寿也さんの場合、僕にとっての初めての相手になりまくってるから、今更って気もするけどね」


 「重ね重ね光栄です」


 イタリアンのコースを食べた後、僕の部屋に2人で帰った。

 寿也さんとしては、誕生日というイベントだし、ディナーの後、ホテルに泊まろうと思ってたらしいんだけど、僕が先回りして潰した。

 どうせ、翌日は集中講義があるし、のんびり泊まれないから、そんなところにお金を使うのは勿体ない。

 こういうことを言うと、灯里なんかは「また、あんたはそうやって色気のないことを…」とか呆れるんだろう。

 でも、僕は、ついついそういうところに目がいくんだよね。


 嬉しいことに、僕がそういうロマンのない女だってことを、寿也さんは気にしないでくれる。

 間違っても「男女」なんて言わないし。

 今回も、本当はサプライズとかしたかったんだろうに、事前に僕に相談してくれた。

 で、結果がこれだ。


 プレゼントについては、寿也さんにお任せにしたけど、ネックレスは避けてもらった。

 クリスマスに貰ったルビーのネックレスをいつも着けていたいから他のネックレスはいらないって言ったら、寿也さんは喜んでくれた。


 「誕生日おめでとう、明星」


 寿也さんがくれたのは、万年筆。


 「あれ、これ、この前見たやつ…」


 「なんか、明星、これ気に入ってたみたいだから。

  こいつなら、普段から持ち歩いて使えるだろ」


 この前のデートで、また文具屋に行った時、目に付いた妙な万年筆だった。

 何が妙って、キャップがない。

 僕が万年筆を普段使いするのに何が困るって、キャップを外さないと書けないことだ。

 万年筆のキャップには、クルクル回して付け外しするタイプと、普通に引き抜くタイプの2種類があるけど、どっちも片手じゃ使えない。

 元々、万年筆は乾燥に弱くて、固まったら使い物にならないから、キャップには気密性が要求される。

 その辺り、やっぱりボールペンっていうのは偉大なんだと思う。

 で、この万年筆は、キャップレス式といって、ノックするとペン先が出てくる仕組みになっている。

 ボールペンとかと同じように、ノックしてペン先を出し入れできるから、片手で使えるのがウリだ。

 ペン先の乾燥を防ぐために、ペン先が引っ込む時には、ちゃんと内側から蓋が閉まるようになっている。

 ちなみに、ポケットに差した時にペン先が上を向くように、クリップ側にペン先があるという変わった構造になっている。

 この細かいギミックが気に入って、僕がはしゃいでいたのを覚えてくれていたらしい。

 色は、パールホワイトっぽいラメの入ったやつ。

 ペン先は、細字だ。


 「ありがとう。大事に使うね。

  あ、あとさ、その…寿也さんの就職祝いには、僕も万年筆を送ろうと思ってたんだけど…いいかな? まだ買ってないよね?」


 「ああ、俺の分は、まだ買ってないけど」


 「最初にあの店に行った時さ、これと同じメーカーので、透明なやつあったでしょ? あれなんかどうかな?」


 「ああ、そうか、なんか明星、じっと見てると思ったら、そんなことを考えてくれてたんだ」


 「あれ? 気が付いてたの?」


 「まぁ、なんとなく。最初は、明星はあれが欲しいのかと思ったんだけどね。

  明星が普段使いするには、ちょっと難しいかと思ってキャップレスにしたんだ」


 「うん、あの、寿也さんさ、透明でも仕事で使うのに支障ないかな?

  先の楽しみなくしちゃってゴメンなんだけど」


 「大丈夫。元々、自分で買おうと思ってたから。

  多少インパクトがあって、奇をてらいすぎずで、いいと思ってたんだ」


 「ん。じゃあ、買わないでね」


 こうして、いつもとあまり変わらない穏やかな誕生日が過ぎていった。

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