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36 彼氏に甘え、いかがですか?

 「あのさ、灯里、僕さ、寿也さんに依存しすぎてないかな?」


 なんだか最近、僕は灯里に相談しっぱなしって気がする。


 「依存って、どういうこと?」


 「僕、最近、寿也さんに甘えてばっかりいる気がするんだ…」


 「そぉ?」


 「うん、なんかさ、2人っきりになると、やたら甘えてる気がするんだよ。

  なんていうか、抱き締められたいとか、その、えっちしたいとか、そんなことばっかりでさ。

  陽介にフラレた後、寿也さんと付き合うまで、彼氏が欲しいとか考えたこともなかったのに。

  僕は、今、すっごく弱くなってる気がする。

  寿也さんがいなくなったら、立ってられないんじゃないかってくらい。

  僕は、寿也さんに何もしてあげてないのに。

  これって、依存って言うんじゃないのかな」


 「あたしが見てる限りじゃ、依存してるって雰囲気じゃないけどね」


 「そ、そうかな」


 「彼氏と2人っきりになると甘えるってのは、多分そのとおりなんだろうとは思うけど、それって何か問題があるの?」


 「問題って…あるだろ? 自分の力で立ってられないなんて、一人前の人間とは言えないじゃないか」


 「ずっと甘えっぱなしってんなら問題でしょうけど、あんた、バイトとか大学とかじゃ1人で普通にしてるじゃない。

  依存してるんなら、1人になったら何もできないんじゃない?」


 「ん~、1人の時は、まあ、特にどうこうってことないんだけど…」


 そりゃあ、寿也さんいないとこじゃ甘えられないわけだし。


 「でしょ? 依存ってね、相手の都合考えないで甘えっぱなしなもんだと思うわよ。

  あんたのそれは、単に甘えてるだけ。

  あたしが思うに、あんたってクーデレってやつじゃないかしら」


 「クーデレ? 何、それ?」


 「正確なとこはわからないけど、要するに、クールとデレを併せ持ってる人ってとこかしらね」


 「クールはわかるけど、デレって何さ?」


 「今のあんたみたいな状態」


 「説明になってないよ。

  僕の状態がデレで、デレって僕の状態のこと? それじゃ、出来の悪い辞書みたいじゃないか」


 「要するにね、普段はクールなくせに、彼氏の前でだけゴロゴロふにゃーんな人をクーデレって言うらしいのよ。

  で、あんたは彼氏と2人っきりになると甘えちゃうって言うけど、逆に言えば、2人っきりの時にしか甘えないわけでしょ?

  十分節度を守ってるわけで、それって彼氏彼女としては当たり前なんじゃないの?

  まぁね、あんた、付き合い始めた頃ってあんまり素直に甘えられなかったみたいだし、自分で違和感あるんでしょうけど、彼女が彼氏に甘えるのなんて、全然おかしくないから」


 おかしくない? そうかな? …言われてみれば、最近ちょっと頻度がアレだけど、寿也さんにも、甘えられて嬉しいみたいなことを言われたような…。


 「甘えても、おかしくない?」


 「ない。

  あんた、ずっと王子様で来たから、お姫様になかなかなじめないのよ。

  やっと素直になれた分、ちょっと歯止めが利かなくなってるとこがあるかもしれないけどね。

  そんな、不安に思うほどのことはないんじゃない?」


 「そうかな…。

  僕、寿也さんに甘えてもいいのかな?」


 「いいんじゃない? むしろ、2人っきりになっても甘えてくれない彼女なんて、男からしたら物足りないんじゃないの?

  倦怠期の夫婦じゃないんだから」


 でも、なんだか甘えすぎるのは良くない気がするんだけど、僕の感覚がおかしいのかなあ。


 「そうかなあ。

  たしかに、寿也さんも、甘えられると嬉しいとは言ってくれてるけど…」


 「大体さ、あんた、今も同棲する気ないんでしょ?」


 「うん。

  一緒に住んじゃうと、多分、僕、我が儘になっちゃうから。

  それは、違うと思うし」


 「だからね、それが依存してない証拠なのよ。

  あんたは、ちゃんと冷静に距離を測ったり、後のことを考えたりする余裕があるってことなんだから」


 「そうなのかなあ…。

  ん、ありがと、灯里。

  大丈夫ってことにしとくよ」


 彼氏に甘えるのは当たり前かあ。

 僕、このまま寿也さんに甘えてていいのかもしれない。

 それは、すごく嬉しい話だった。

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