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4 送り狼、いかがですか?

 「はい、さっきの食事代」


 車に戻ると、僕は食事代を寿也さんに渡した。


 「デートなんだから、ご馳走するって」


 「だめ。

  ただより高いものはないんだから、自分の食べた分は払う」


 普段の僕なら、レジで「料金は別でお願いします」って言っちゃうとこだけど、一応デートってことで、気を遣って寿也さんにまとめて払ってもらった。

 でも、自分で食べた分は自分で払う。

 基本、奢ってもらうことはしない。


 「カタいな~。

  そういうとこも星也とは違うんだなぁ。

  星也なんて、『タダ飯ほど美味いものはない』なんて言ってて、隙あらば奢らせようとするぞ」


 「そうだね。

  兄貴はそういうことするね。

  多分、うちでは兄貴だけだよ、平気で人に奢ってもらうの。

  あの人、他人の善意にぶらさがるの大好きだから」


 兄貴はおめでたい人だから、他人の善意を疑わない。

 頭は僕よりずっといいし、対人関係だって僕より上手なのに、人の言葉の裏側は全く読まない。

 その辺が、兄貴が跡を継がなくてもいいって両親が考えている原因だろう。

 良く言えば性善説、悪く言えば脳天気なのが兄貴の特徴だ。

 末っ子気質と言ってもいい。

 これは、3人姉妹の末っ子(・・・・・・・・)だった頃に培われた部分なんじゃないかと思ってる。


 「そういえば、あの頃って『星也ちゃん』って呼んでたんだっけ」


 「ん? 何?」


 「いや、あの、僕が兄貴のこと名前で呼ばなくなったのっていつだったかなあって。

  僕、多分、小学校入った辺りまでは、兄貴のこと『星也ちゃん』って呼んでたんだよね。

  姉さんがそう呼んでたから。

  そのせいもあって、兄貴は周囲から3人姉妹の末っ子って見られてて。

  兄貴が『俺は男だ!』って言うようになったのはその頃で、たしか、僕は『星也ちゃん』じゃ男の子に聞こえないから『お兄ちゃん』って呼ぶようになったんだと思う」


 「それは、きっと星也に言われたわけじゃないよね?」


 「多分。

  …なんでわかる?」


 「明星は、大好きな星也が嫌がってるのを見てられなかったんだろ。

  そっからずうっと星也を庇いながら育ってきたんだなぁ。

  もうさ、庇って無理しなくていいから」


 「庇うって…僕はもう何もしてやってないよ。

  あんなんでも、兄貴なのは本当なんだし。

  兄貴はね、あれで要領もいいからね。

  僕になんか庇われなくても困らないよ。

  さっきの話だって、兄貴は末っ子扱いの時は、一番何でも貰えたからね。

  上手に長男と末っ子を使い分けてたんだ。

  可愛い女の子は得をするってのは、世界の真理だからね」


 「ん。まぁ、焦ることはないよ。

  俺が明星を誰よりも可愛くて幸せな女の子にしてあげるから」


 「何、それ? キザだね、寿也さん」


 「いやいや、気にしなくていいから。

  ちょっとした決意表明? みたいなもんだから。

  大丈夫。

  そのうち、俺といるだけで幸せいっぱいになれるから」


 うーん。

 なんか、すっごい恥ずかしいセリフを真顔で言う人だなあ。



 「で、家まで送っていいかな?」


 「家ってーか、アパートだけどね。

  約束どおり指1本触れなかった紳士っぷりに免じて、アパート教えましょう。

  ただし、アパートの前でストーカーしたら、速攻クーリングオフ(返品)だからね」


 「迎えに来るのはOKだよな?」


 「何、必死になってるのさ。

  迎えに来るくらいなら、アパートの前とか言わないで堂々と部屋の前までおいでよ。

  彼氏でしょ?」


 僕は、彼氏として堂々と隣にいることに文句を言う気はないんだから。

 こそこそ尾け回したり、教えてもいないシフトを調べて出待ちしたりってのが嫌なだけ。

 こんな女の子らしくない僕を本当に好きだと言ってくれるなら。

 僕は、あなたに正面から向き合うから。



 アパートの前に車を止めて。

 僕の部屋の前まで、寿也さんはやってきた。


 「今日は楽しかった。

  次は、ちゃんと事前に教えてね。

  じゃ、おやすみ」


 「おやすみのキスは?」


 「開封したらね、クーリングオフ利かなくなるんだよ」


 「おいおい、2か月待たされんの、俺?」


 「お試し期間だからね、仕方ないよ。

  クーリングオフしなくていいやって思えたら、ね。

  あんまり免疫ないんだから、がっつかないでよ」


 「はいはい。それじゃ、引き下がるとしましょうか。

  おやすみ、明星」


 「おやすみ」



 少し物足りなく思うのは、きっと僕が寿也さんに惹かれてるから。

 一歩踏み出せないのは、はまり込むのが恐いから。

 寿也さんは、きっと、約束を守って強引には迫ってこない。

 でも僕は、心のどこかで流されたいと思ってる。

 初カレのトラウマを消してくれる人なんじゃないかって期待してる。

 奪ってほしいような、待っていてほしいような、自分でもはっきりわからないこのあやふやな想い。

 開封したら、クーリングオフできない。

 できなくしてほしい自分もいる。

 でも、そこまで踏み込めない自分がいるのもわかる。


 後悔するようなことはしたくない。

 誰かを好きになるのに、理由なんかいらないっていうけど。


 僕は、どうして寿也さん(あなた)に惹かれる?


 寿也さん(あなた)は、僕のどこを好きなの?

 タイトル詐欺です。

 寿也は、送り狼にはなりません。

 でも、明星はちょっとなってほしかったり。

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