閑話3 ちょいデレ、ありませんか?
最近、明星がデレてきたみたい。
なんというか、劇的? って感じだろうか。
ヤキモチ焼いてべそかいてる明星を見る日が来るなんて、思ってもみなかった。
最初、話を聞いてほしいと言ってきた明星は、思い詰めた様子で、あたしは心配した。
基本的に、明星は他人に愚痴を言うタイプじゃない。
何かに悩んでるのかな? と思うことはあっても、あたしからは突かないことにしている。
一度、しつこく聞き出そうとしてケンカになったことがあるから。
明星があたしを信用していないわけじゃなくて、人に頼ることを好まないから話してくれないんだってわかってる。
明星の方で必要と思えば、ちゃんと自分から話してくれることを、あたしは経験上知っている。
明星は、事態の解決のために人の力を借りることはするけど、愚痴を言ったところで話が進むわけじゃないと考えているから、愚痴をこぼすことをよしとしない。
もっとも、世の中には、「愚痴のように見せて惚気」とかいうことも多々あるので、明星は自分が愚痴を聞くことは嫌がらない。
あと、矛盾するようだけど、他人のお悩み相談は、割とよくしている。
それも、親身になって本気で考えてあげている。
あたしは、そんな明星を見て、自分に厳しくて他人に優しいタイプなんだろうと思ってた。
どうやらそうではないらしいということに気付いたのは、つい最近のこと。
明星が、彼氏にバイトの問題児のことを愚痴ってたことを聞いて、あたしは耳を疑った。
バイトの子なんて、使えなければ店長がクビにするだろうし、一介のバイト学生である明星が気にすることじゃない。
なのに、明星は、駄目なバイトを何とかしようと奮闘している。
明星に言わせると、それは、いずれ自分が実家のお店を継いだ時のための練習だそうだけど、普通のバイトはそんなこと考えない。
ともかく、そんな、彼氏に全く関係なくて、彼氏が力になれるとも思えないことについて明星が話したということが、あたしには意外すぎたのだ。
後で明星に詳しい話を聞いたけど、彼氏の何気ない一言からヒントを得て、使えなかった子を使えるようにできたのだとか。
そういう形で助言を得た明星は、どうやら彼氏に愚痴を言うというより、相談するという感覚で、仕事のことを話すようになったそうだ。
なるほど、有用な助言をくれる相手になら、助言を求める感覚で愚痴ることができる。
あたしは、意外と頼りがいのある彼氏さんに感心した。
で。
なんか、その辺から、明星の感覚に変化があったみたい。
明星も、彼氏が頼りがいのある人だと認識したらしく、素直に頼るようになったのだ。
「甘えてくれて嬉しい」って言われたとか。
あの明星が。
明星が彼氏とどんな風に過ごしているのか、見てみたいもんだ。
ともかく、その話を聞いて、あたしはようやく、明星が必死に突っ張って生きてきたんだって気付いた。
女子校時代、王子様でいることを求められていた明星は、王子様を演じる中で、自分に厳しくなっちゃったんだ。
彼氏の前で、女の子でいられるようになったことで、素直に甘えることを覚えたみたい。
その分、子供っぽい独占欲みたいなものも出てきたんだろう、知らない女と並んで歩いている彼氏を見て、ヤキモチを妬いて苦しんでる。
明星らしいというか、冷静に「これは浮気じゃない」ってわかった上で、それでもこみ上げてくる独占欲に対処できないでいる。
その辺は、いずれ慣れてくるんだろうけど、5年の付き合いのあたしでも、新鮮な姿に感動を禁じ得ない。
王子様だった明星が、立派な女の子になっちゃって…なぁんて。
「まぁね、明星にとってはちょっと辛いことだとは思うけどね、女の子と並んで歩いてるくらいなら、普通にあることだから。
腕でも組んでたってんならともかく、いちいち気にしてると、お互いもたないよ。
あんたも、浮気じゃないってことは十分わかってんでしょ?
そんで、どうすんの?
他の女の子と一緒に歩かないで~~って言ってみる?
多分、今なら彼氏さんも文句は言わないと思うけど。
むしろ、あんたがヤキモチ焼いてくれたことを喜ぶんじゃないかな?」
「そんな、言えないよ。
僕の我が儘だってわかってるし」
「いっそのこと、一緒に住んじゃいなよ。
きっと、あんたもその方が落ち着くんじゃないの?」
「考えてはみたけど、やっぱりそれはできないよ。
僕達には、今の距離感が必要だよ。
多分、僕、一緒に住んじゃったら、寿也さんがずっと一緒にいないと嫌って感じになっちゃう気がするし。
こんなことくらいでショック受けてる僕がおかしいんだ。
ごめんね、灯里。寿也さんには内緒ね」
デレてはきたけど、やっぱり冷静に対処できちゃうのね。
まあいいわ。
泣き喚いて破局、とかいう未来はなさそうだし。
明星の部屋を辞して帰る途中、あたしは考えた。
明星の彼氏さん、前に、明星を泣かせたらただじゃおかないって思ってたけど。
こういう泣かせ方なら、大歓迎よ。もっと泣かせなさい。




