34 ヤキモチ、いかがですか?
「うっく、ごめん、なんで、僕、こんなんなってんだろ。別に、浮気とかされたわけじゃないのに」
「ちょっと明星ぁ。確かにあんた、変よ。
そんなになる必要ないでしょうに」
僕は、今、僕の部屋で、灯里を前に半べそをかいている。
なんでかっていうと、僕にもなんでかなのかわからない。
ことの発端は、今日の昼、寿也さんが女の人と歩いているのを見たこと。
別に、腕を組んでいたわけでもないし、怪しい雰囲気とかもなく、多分、同じ学部の人とか、そんな感じだと思う。
浮気とか、そんな感じじゃない。
それは、間違いない。
なのに、胸の奥から何かがせり上がってくるのを抑えられない。
怒りとも、悲しみともつかない、めったやたらに叫びたくなるような、塊のような何か。
どうしていいのかわからなくて、と言うより、何もできない状態での、やり場のない気持ち。
こんな気持ち、僕は今まで感じたことがない。
ないから、ますます混乱して不安になる。
それで、灯里を呼んで話しているうちに、涙がこぼれてきて今に至る。
自分でも呆れるような突拍子のなさだ。
別れ話された女の子じゃあるまいし、どうして僕が泣く必要がある?
寿也さんが工学部だからって、そりゃあ学部に女の人の1人や2人いるだろうし、キャンパス内を一緒に歩くことだってあるだろう。
僕なんか、コンビニじゃほとんど男の人に囲まれて仕事してるくらいなのに、寿也さんが女の人と歩いてるのを見ただけで、何が嫌だっていうんだろう。
嫌…?
そうだね、僕は、寿也さんが他の女の人と一緒にいるのを見て、嫌だと思ってるんだ。
これって、要するにヤキモチじゃないか?
って、ちょっと待ってよ。
なんで、僕、その程度のことでヤキモチなんて焼いてるのさ?
寿也さんだって、そりゃあ、女の人と話すことだって、一緒に歩くことだってあるに決まってる。
当たり前のことなのに、泣きたくなるほど嫌だ。
「僕、こんなにヤキモチ焼きだったかなあ…」
ポツリと呟いた僕に、灯里から反応があった。
「いやぁ、明星は、相当淡白だと思うけどね。
ほら、ちょっと前に、同棲断ったりしてたし。
たしかに、あんた、彼氏にベタ惚れだと思うけど、距離感っていうか、すっごい遠い感じだったよ。
一気に距離詰めたくなるようなこと、何かあった?」
ようやく落ち着いてきた僕は、ここしばらくのことを考えてみた。
「思いつくことはない、けど…
最近、寿也さんに甘えてるなあって思ってはいるかな。
バイト絡みの愚痴は結構聞いてもらったし。
ああ、でも、言われてみれば、この前、僕からキスねだった」
「明星から惚気られる日が来るんだから、世の中何があるかわかんないわよねぇ。
要するにさ、明星ってば、最近、彼氏さんに対して、フィジカルな面でも愛情が強くなってんじゃないの?
ずっと抱き締められていたいとか、いっぱいキスしてほしいとか」
「あ~、うん、そんな感じ、ある」
「あんたも女の子らしくなってきたって、喜ぶところじゃないのかな。
んで、自覚とか薄いのと、男っぽく過ごしてきた時間が長いのとで、自分の中の衝動をうまく逃がせないんじゃないかな」
「じゃあ、灯里も僕みたいにヤキモチ焼いたりすることある?」
「結構ね。
ただ、今の明星はちょっと情緒不安定な感じがする。
何が原因か知らないけど、過敏になってるんだと思うよ。
まぁ、焦ることはないから、落ち着いたら彼氏さんと話してみなよ。
もしかしたら、今なら同棲もしたくなるかもよ?」
同棲、する?
でも、来年のこと考えたら、今から一緒に住んでも仕方ないと思うんだけど。
「同棲しても、ずっと一緒にいられるわけじゃないからね。
それ考えると、今のままでもいいと思う。
ただ、今日みたいのは、どうすればいいのか考えないとね。
別に、寿也さんを疑ってるわけじゃないんだ。
ただ、寿也さんの近くにいる女の子が僕だけじゃないことが嫌なんだよね。
僕、自分がこんなに独占欲が強いとは思わなかったよ。
でもさ、僕の周りには、いっぱい男の人がいるのに、僕だけそんな我が儘言うのは変だよね」
「もし、彼氏さんが、明星の周りに他の男がいることに平気だったら、嫌な気持ちになる?」
ヤキモチ焼いてもらえないのは嫌だけど、あまり嫉妬深いのも困るし…って、嫉妬深いの、僕じゃないか!
どうしよう、あんまりヤキモチ焼いてると、愛想尽かされるんじゃ…。
「はい、ストップ!
あんた、今、ヤキモチ焼きすぎて愛想尽かされたらどうしようとか思ったでしょ。
男って、一般的には、少しくらいヤキモチ焼きの方が好きだから、大丈夫よ。
嫌われるのはね、ヤキモチで行動を束縛しようとしたりする娘だから。
今の明星なら、問題ないわよ。
ヤキモチ焼いても、可愛く甘えてくる程度なら、却って好感度上がるかもよ」
「とりあえず、こういう不安は黙ってることにするよ。
ごめんね、灯里。
僕、どうも恋愛経験少ないせいか、こういうのよくわからなくて」
「いいってことよ」
灯里は、笑って帰って行った。
その夜、僕の部屋に来た寿也さんに、僕は甘えまくった。
箍が外れたみたいになった僕に、寿也さんはかなり面食らっていたけど、悪い気はしなかったみたい。




