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27 低筆圧、いかがですか?

 「なんかさ、僕、低筆圧らしいんだよね」


 「明星って朝弱かったっけ?」


 「それは低血圧。

  いや、確かに低血圧だし朝は弱いけどね」


 「そうだっけ? いつもちゃんと自力で起きてる気がするけどなぁ」


 「起きるは起きられるんだけどさ、起きて暫くは体がロクに動かないんだよ」


 「悪い、よくわからない。

  明星は、朝起きてすぐに朝飯作ったり色々動いてる印象しかないんだけど。

  朝飯だって普通に食ってるよな? 朝弱い奴って、朝飯食えないもんなんじゃないの?」


 「ご飯作ったり食べたりは問題ないんだけどさ、力が入らないから、普通には動けないんだよ。

  小学校の時さ、夏休みにラジオ体操あるじゃない? あれって6時半からだから、それまでに行くわけ。

  で、僕んとこは会場が公園だったから、早く行った子はブランコ乗ったりとかしてたんだけどさ、僕、乗れなかったんだ」


 「ブランコに?」


 「普段は乗れるんだよ。

  朝だと、ブランコに捕まろうとしても 手に力が入らなくて鎖を掴めないっていうか、体重を支えられないんだ。

  で、ラジオ体操が終わった後は、普通に掴めるんだよ」


 「なんで?」


 「多分、体がまだ起きてないんだと思う。

  起きてから暫くは、本当に体に力が入らないんだ。

  一度ね、寝坊して、起きてすぐに走ったことがあるんだけど、その日は1日体がだるいっていうか、具合が悪かったから、きっとアイドリングみたいなのが必要なんだと思う」


 「昔の車みたいだな」


 「20年前の製造だからね」


 「それで、低血圧がどうかした?」


 「じゃなくて。

  僕は確かに低血圧だけど、今話してるのは低筆圧」


 「筆圧? って、字を書く時の筆圧?」


 「そう」


 「悪い。本当に何を言ってるのかわからない。

  筆圧がどうしたって?」


 寿也さんが心底不思議そうに聞いてきた。

 まあ、そうだよね。

 そもそも筆圧って、高い低いじゃなくて強弱で表現するしね。


 「僕、どうやら筆圧がすごく弱いみたいなんだ」


 「ああ、筆圧が弱くて困るとか? コンビニって複写式の用紙とか使うっけ?

  そりゃ困るだろうな」


 「まあね。

  でも、複写式なら、意識的に力を入れて書くこともできるんだけど、普段何気なく書いてる時に困るんだよね。

  寿也さんも知ってるだろうけど、今って文具男子とかいうのが流行っててさ、オルマ(うち)でも筆記具のコーナーは結構充実させてるんだよ。

  でね、品揃え決める関係でサンプルをいくつか入れてもらって、店のスタッフで試したわけ。

  今ってさ、芯が折れないシャーペンとか、芯が回転して字が太くならないシャーペンとかってあるんだね」


 「ああ、そうだな。

  インパクトドライバーみたいな感じで芯を押しつけた後離すと少し回転するって仕組みらしいけど」


 「そうそう、それ。

  あれって押しつける必要があるじゃない。

  僕の場合、筆圧が弱すぎて芯が回らないんだよ」


 「そんなに? あれ、明星ってそんなに字が薄かった?」


 寿也さんが不思議そうな顔をしてる。

 そうだよね、僕がシャーペンで字を書くのはノートとかだけだから、寿也さん、見たことないもんね。


 「普段はボールペンだから、わからないだろうけど、シャーペンとか鉛筆とかだとかなり薄いんだ。

  ほら、このノート、使ってる芯はHBなんだけど」


 ノートを見せたら、寿也さんはちょっと目を細めた。


 「確かに薄いな。

  殴り書きというか、流し書きというか…」


 「んー、普段は書き味のいいボールペンを使ってるのと、流して書く癖があるのとで、シャーペンとかだと薄くなるんだ。

  意識して書けば筆圧強くはできるんだけど、それだと書くのは遅くなるし、手は疲れるし、あんまりやりたくないんだよね。

  芯が回転するから買ったシャーペンなのに、回転しないとつまらない」


 「サンプルいじったんじゃなかったの?」


 「試しにいじってる時ってさ、意識してるから強く書くんだよね。

  で、買ってみて、いざ使ってみたら普段の筆圧じゃ回転しないことがわかってさ。

  まあ、そんなに高いものじゃないからいいけど、面白い機能があるから買ったのに、肝腎の機能が働かないのは悲しいよね」


 「もしかして、明星ってボールペンでも結構得手不得手ない?」


 「ある。

  ゲルインキ系のボールペンは書きやすいけど、ちょっと細字の水性とかはかなり辛い。

  だからさ、色々試して気に入った銘柄を買い続けてる。

  文房具屋とか行くと、試し書きしまくっていいのを探してるよ」


 「明星の場合、万年筆とかいいんじゃない?」


 「万年筆? なんで?

  高い割に使いどころ難しくない?」


 「ん~、まぁ、どこでも使えるってわけじゃないけど、そんな高くないぞ。

  3千円も出せば、そこそこのが買えるし、1万円くらいで十分一生もののレベルになるよ。

  もちろん、上見れば果てしないけど」


 「ふうん。

  ねえ、万年筆も試し書きってできるもんなの?

  僕、さすがにショーケースの中まで見たことないんだけど」


 「試筆できるよ。

  というより、万年筆は試筆なしで買うなって言われるくらい。

  同じ銘柄でも、細字、中細字、中字、太字って具合に何種類もペン先があって、それぞれ書いた時の感触なんかも違うんだ」


 「ボールペンでも太さの違うペン先とかあるよ?」


 「あってもせいぜい0.3mm、0.5mm、0.7mmくらいだろ。

  万年筆は、細字って括りでもメーカーや銘柄によって違うし、同じインクでも細字と中字で違う色に見えるくらい印象が変わるから、試してから買わないと後悔することになるんだ」


 「随分熱くなってるけど、もしかして万年筆好きなの?」


 「好きっていうか、憧れ? 子供の頃ね、文豪の万年筆がどうたらって本で見て憧れたことがあるんだよ。

  万年筆とか腕時計っていうのは、男の子が憧れるものなんだよ」


 「子供の頃に憧れて、今は?」


 「なんていうか、大人の象徴でね? いつか買おうって色々調べたりいじったりってとこ。

  実際使うとなると、場所を選ぶとこもあるからさ」


 「ふうん。

  じゃあさ、今度、万年筆見に連れてってよ。

  寿也さんの憧れ、僕も見てみたいし」


 「じゃ、次のデートで行ってみる?」


 「うん」


 大人の象徴として憧れてたってんなら、就職祝いにあげる品にいいかもしれないしね。

 低血圧のブランコの件とかは、鷹羽自身の経験です。

 ああいう経験ある方って多いもんでしょうか?

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