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 「で、なんでストーカーしてんの?」


 なんかよくわからないうちに寿也さんと付き合うことになってから3日後、僕はまたバイト上がりを待ち伏せされていた。


 「ケータイの番号もメアドも教えたよね?

  着拒とかしてないよね?

  なんでストーカーしてんの?」


 「いやあ、明星を驚かせようと思って」


 「そいつぁ大成功おめでとう。

  呆れるほどに驚いたよ。

  呆れすぎて、いますぐクーリングオフしたいくらいだ」


 「いやいや、成功、成功。

  じゃ、飯食いに行こうか。

  この後、空いてるだろ?」


 「スルーしてんじゃない。

  別にご飯食べに行くくらい付き合うけど、待ち伏せする理由はないだろう。

  これじゃあ、まるで僕が散々呼び掛けを無視しまくったみたいじゃないか」


 「いやいや、記念すべき初デートだし、ちょっとサプライズをと…」


 「じゃあ、この後失敗したらクーリングオフね。

  で、どこへ行くって?」


 今は、火曜の午後4時。

 平日のこの時間じゃ、ちゃんとしたご飯食べるようなところはほとんど開いていないと思うんだけどなぁ。


 「ちょっとドライブでも。

  明星と話したいこともあるしさ」


 「まあ、いいけど。

  僕が乗り物酔いする人だったらどうするつもりだったのさ」


 「星也は乗り物平気だし、君らの実家の方って、車がないとどこにも行けない感じの場所だって聞いてたから、多分大丈夫だろうなぁって」


 「田舎の人に刺されても知らないぞ」


 「まぁまぁ、乗ってよ。

  あんま広くないけど」


 「なんで店の駐車場に止めてるかなあ。

  寿也さん、買い物してないよね? お客様以外の駐車は固くお断りさせていただいておりますが」


 「ああ、それなら大丈夫。

  ちゃんとコーヒー買ったから。

  ちょうど明星が上がった直後でね、コーヒー飲みながら明星を待ってたんだよ」


 「なんで僕のバイトシフト把握してるわけ?

  そういや、この前も出待ちしてたけど、ホントにストーカー? うわ~気持ち悪~い。

  きゃあ~お巡りさ~ん」


 「はいはい、棒読みで怖がらない。

  この店には何度も来てるから、明星のシフトは大体分かってるの。

  さ、乗って乗って。

  話は中で聞くから」


 寿也さんの車は、小型のハイブリッドだった。

 大学3年、だよね? 小型とはいえ、200万はするんじゃないの、これ?


 「新車でもない。

  いつ買ったの、これ?」


 発進してすぐに、寿也さんに聞いてみた。


 「ん~、1年くらい前かな? なんて嘘、嘘。

  レンタカーだよ。

  ナンバー見なかった?

  珍しく注意力が足りなかったね」


 「ああ、なるほど。

  で、わざわざ車まで借りて、どこ行くんです?」


 「ん~、海が見たいなぁ、と。

  ホントは、日本海に沈む夕日を見たいんだけど、それだと泊まりになるからね。

  今日のところは、太平洋を見るだけで我慢かな。

  いや、まぁ、周りの耳を気にしない状況で明星と話したかったってだけなんだよね」


 「僕、明日は1限から講義あるから、今日のうちに帰してよね」



 しばらくとりとめのない話をした後で、寿也さんはようやく本題に入った。


 「君んとこのお姉さんさ、星也の3つ上ってことは、今24だろ?

   君んちがそれなりの土地持ちで、長男の星也が後継がないってことになれば、代わりに継ぐ人が必要だってのは、そりゃそうなんだけど、なんで明星なわけ?

  お姉さんでも良さそうな感じすんだけど」


 「姉さん、もう嫁に行っちゃってるんで」


 「ああ、それで。

  もしかしてさ、お姉さんの旦那って、星也の苦手とか嫌いなタイプだったりする?」


 「なんで?」


 「星也からお姉さんの存在って聞いたことないから」


 「僕のことも聞いたことなかったんでしょ?」


 「明星のことは、例のコンプレックスで理解できるけど、シスコンのくせにお姉さんの話題を避ける理由がね、星也がお姉さんの結婚に納得してないせいかなぁ、と」


 「相変わらず勘がいいね。

  姉さんの旦那さん、兄貴とは正反対のがっしりした男っぽい人でね。

  姉さんが兄貴を散々可愛く飾り立ててたくせに、真逆のタイプと結婚したから、兄貴、すねてんだよね」


 「なるほど。すねてるわけか。

  それなら、わかる。

  じゃあ、俺達が付き合ってること知ったら、あいつうるさいだろうな」


 「なんで? 兄貴は僕のことには頓着しないと思うよ」


 兄貴にとって、僕は目の上のたんこぶだ。

 僕が誰と付き合おうが、気にするとは思えない。


 「そんなことないって。

  実際、今頃は、俺が明星にコナかけてるんじゃないかと戦々恐々としてると思うよ。

  もう手遅れだけど」


 「なんで?」


 「コナかけるどころか、もう付き合ってるから」


 「そっちじゃなくて。

  なんで兄貴が僕を心配するのさ?」


 「星也(あいつ)は、俺に明星のことを弟って紹介したんだよ。

  あれは、俺が可愛い妹に手を出さないようにって牽制だったのさ。

  明星が結婚すると決まったら、きっと泣くぞ」


 「ありえない…」


 「いやいや、男心がわかってないねぇ。

  妹を持った兄なんて、そんなもんだよ」


 そうかなあ? 全然そんな気しないけど。

 って!


 「誰と誰が結婚するってのさ!?」


 「うんうん、珍しく反応が鈍いねぇ。

  いつもなら、すぐに『誰が結婚するって!?』って切り返しが来るところだ。

  そんなに意外だったかい?」


 超意外だ。

 兄貴が僕のこと可愛がってる? 悪い冗談だ。

 この前だって、僕を弟だって寿也さんに嘘教えて…って、それが妹を取られたくない兄のヤキモチってこと?

 そんなはずはない。

 兄貴は、僕が男扱いされて困るのを期待してただけだ。



 その後も、ドライブしながら兄貴の話なんかをした。

 なんというか、気取らずに話ができるのは、寿也さんのいいところだと思う。

 でも、寿也さんは、どうして僕と付き合おうなんて思ったんだろう。

 少なくとも第一印象で好かれるような対応はしていなかったはずだ。

 というより、先入観なしで僕を見たら、どっちかっていうと男に見えるはず。

 一人称は「僕」だし、自分で言うのも何だけど、僕ってガサツだし身長も170あるから、友達と一緒に買い物とか行くと、カップルと間違えられる。

 なんで僕が女だってわかったんだろう?

 いや、わかっただけじゃなくて、なんで口説こうと思ったんだろう。

 兄貴の方が女っぽいくらいなのに。

 まさか兄貴の代わりってことは…ないよなあ。

 寿也さん、ノーマルだよね?


 こんなことを考えること自体、僕は寿也さんに惹かれているんだと思う。

 我ながら、困ったチョロインぶりだ。

 寿也さん(あっち)がどういうつもりかは知らないけど、女子校上がりで免疫のない僕には、寿也さんの言動はかなりクる。

 クーリングオフ、お試し期間。

 それは、傷つく前にフェードアウトするための言い訳。

 臆病で弱気な僕を許してあげるための逃げ道。



 とても聞けない。


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