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24 通い同棲、いかがですか?

 「正式な就職活動は、いつからになるの?」


 4月を迎え、僕は3年、寿也さんは4年になっていた。

 わかりきっている話だけど、寿也さんはあと1年で卒業して、社会人になる。

 どこかの会社に就職しようと思っていない僕は、あまりその辺りのことに詳しくない。

 ニュースとかで触れられるレベルの建前ならともかく、抜け道やら特例やらといったものが絡めば、もうお手上げだ。

 基本、寿也さんはKAKUYOに入るものだと思っているので、脇から嘴を突っ込むつもりもない。

 なので、単に大凡のスケジュールを確認するだけのつもりで聞いたんだけど。


 「事実上は、もう終わってるんだよね」


 さすがに、それは予想してなかった。


 「どういうこと? 一応、企業訪問とかするんじゃないの?」


 「いやいや、コネがあるって言ったことなかった?

  実は、ゼミの先輩がKAKUYOにいてね、勿論まだ新人なんだけど、これが結構評価高い人でね。

  その辺突き詰めていくと、うちの教授が業界では割と顔が利くって話になるんだけど。

 うちのゼミの卒業生は、教授の顔で就職困らないし、ありがたいことにいい評価もらってる先輩も多いから、ますます採用されやすくなるんだ。

 材質系とか、成形関係とか、まぁ、その分、ゼミでは実験だなんだって大変なんだけどね。

  そんなわけで、うちのゼミの卒業生は、就職決まるの早いんだな」


 「後は、形式的な部分だけってこと?」


 「そうそう。

  特に星也なんか、結構あちこちの企業に入った先輩から声かけられてたのにKAKUYO一本で行ったんだけど、会社から相当期待されてるよ。

  あいつ、何か作りたい商品アイデア持ってるらしくてね、それ作るためにKAKUYO行くらしい」


 「作りたい商品? それってKAKUYOじゃないと作れないようなものなの?」


 「実は、俺も何かは知らないんだよね。

  ただ、KAKUYOってオフィス用品の中でも、アイデア小物系に力を入れてるところがあるから、多分そういう方向性で何かあるんだろうなぁ」


 「…まあ、やりたいことがあって、それを追うのはいいことなんだろうね。

  店を継ぎたがってる僕に遠慮するようなタマじゃないとは思ってたけど、やっぱり少しホッとしたよ」


 「いんでない? お互いやりたいことやれるし。

  ま、俺自身は、KAKUYOじゃなきゃダメってわけじゃないんだけどな。

  なんせ営業志望だし」


 「それだよ、工学部行ってて、なんで営業なのさ?

  営業(そういうの)って、割と文系のイメージあるんだけど」


 「いやいや、今時、工学部卒ったって、開発系に就職口があるとは限らないからね。

  俺は、商品開発のヒントを拾ってこられる営業になりたいんだよ。

  星也と話してるとね、お互い面白い刺激を与え合うんだな。

  俺は、就職しても星也とそういう間柄でいたいんだ」


 「兄貴とってところに引っかかるものがあるけど、それが夢なら、頑張ってって言うしかないね。

  それにしても、なに? 兄貴って、そんなに評価高いの?」


 「あいつは、理論派の割に発想が奇抜なんだ。

  突拍子もない発想を形にする筋道を考える力もある。

  ちょっと化けたら、天才って呼ばれるようになるくらいの器だと思うよ」


 「兄貴がねえ…。

  突拍子もないことを考えるってところは同意するけど。

  それにしても、兄貴も寿也さんも、色々考えて進路を決めてるんだなあ。

  なんか、実家の店を継ぎたいと思ってる僕がちっぽけな存在に見えてくるなあ」


 「いやいや、身近なところにある夢だから小さいってことはないと思うけどな。

  自分がやりたいと思うなら、それはみんな立派な夢だよ」


 「まあ、堅実な夢っていうのはアリだよね。

  もっとも、僕は別にお店を大きくしたいとかって夢があるわけでもないんだけど。

  お店を自分の思うように切り盛りしてみたいっていう感じかなあ…。

  今のお店でもさ、この前の胡桃沢さんの件で評価されたらしくてさ、ちょっとバイト料上がったんだ。

  その分、新人が入ると真っ先に僕のシフトに入れられちゃうんだけど。

  胡桃沢さん、覚えてる? 去年話した指示待ちの子。

  寿也さんにアドバイスもらって、僕なりに、胡桃沢さんが自分で考えて動くように誘導してみたら、大部分のことは自分で判断して動くようになってくれてさ、今は誰と組んでも一人前に扱われるようになったんだ。

  もう1人の紅さんの方は、ダメだったんだけどね。

  紅さんは、どうしたらいいのか僕には思いつけなかったし、胡桃沢さんにかかりっきりになっちゃったから、育てるって方向には行けなかったんだ。

  でもね、使えないと思ってた胡桃沢さんが、視点と対応を変えるだけでちゃんと成長できたっていうのは、僕自身にとって大きな経験になったよ。

  寿也さんのアドバイスのお陰なのに、まだお礼を言ってなかったね。

  ありがとう」


 「俺、なんかアドバイスしたっけ?」


 「ほら、指示待ちするのは、自分の判断に自信が持てないからって場合があるのを教えてくれたでしょ」


 「ああ、それ? 俺が言ったのは、あくまでそういうこともあるってレベルで、アドバイスなんて言えるもんじゃないよ。

  むしろ、そんな一言で、使い物にならなかった子を一人前にできた明星が凄いんだよ」


 「確かに僕なりに考えたし、努力もしたよ。

  2人一緒には無理だから、胡桃沢さんに集中するってのも僕が考えた。

  でもね、僕は最初、2人とも見捨てるつもりだったんだ。

  僕の手には負えないって。

  でも、寿也さんに言われてね、僕が実家(うち)の店を継いだ時、使えない人はクビにするしかないのかなって考えてさ、できるだけやってみようって思ったんだ。

  だから、寿也さんのお陰だよ」


 「そこまで言ってくれるなら、そういうことにしとこう。

  でもな、一言からそこまで持って行ったのは、明星だからな?

  ちゃんと自分のことも褒めてあげた方がいいぞ。

  明星、よく頑張ったな」


 「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、手が変なとこ当たってる。

  ほら、どさくさまぎれに触んない!」


 寿也さんは、よく頑張ったなって言いながら、僕を抱きしめた。

 僕の背中に回された手は、じっとしていないでもぞもぞ動き出した。

 さっきまでいい話だったのに、話がY軸に傾き始めたので、釘を刺しておく。

 悪いけど、今はえっちする気分じゃないから。

 そういうのは、ちゃんとそういう風に気分を盛り上げてからにしてよね!


 寿也さんの右手の甲を左手で抓りながら引きはがした僕は、寿也さんの胸の中から抜け出して、お昼ご飯の準備を始めた。

 成人式の後、僕達は、できるだけ僕の部屋で一緒にご飯を食べるようにしている。

 つまり、食事時に、僕のバイトの空き時間と寿也さんの実験とかの空き時間が重なる時は、僕の部屋でご飯を食べるわけだ。

 もちろん、ゆっくり食べる時間が取れる時だけだ。

 時間が少ししか空いていないなら、学食で一緒に食べるとかになるけど。

 これは、2人の時間を作るためでもあるけど、一番の理由は、寿也さんの健康管理だ。

 寿也さんは3年も一人暮らししてるから、自炊できないわけじゃないんだけど、ご飯作ってる時間があったら別のことに使いたいってタイプなので、放っておくと食生活がかなりいい加減になる。

 特に、今は実験とか忙しくて、料理してる暇なんかないらしい。

 だから、僕の部屋で、僕が作ったご飯を一緒に食べるよう誘ってみたんだ。

 これなら、僕と一緒の時間を確保しつつ、それなりにバランスの取れた食事もできる。

 ついでに、寿也さんの胃袋も掴める。あくまでついでだけど。

 どうせ一人前作るのも二人前作るのも手間はあまり変わらないから、僕の負担は大したことはない。

 常にある程度の作り置きをしておくようにすれば、急に予定が変わっても対応できるし。

 ちなみに、食材とかはさすがに消費量が倍になるけど、代金は僕が出している。

 いちいち請求するほどの額じゃないし、外でデートすると、どうせ寿也さんが払ってくれることが多いから。

 以前、灯里が言ってたみたいに、ワリカンに拘らないで持ちつ持たれつでやっていく方が気が楽だって気付いたんだ。


 今のこの状態を灯里に話したら、

 「それって、通い同棲じゃない?

  いっそ同棲しちゃったら?」

って言われた。

 実は、寿也さんからも、一緒に住まないかって誘われたんだけど、断った。

 僕と寿也さんは、生活時間帯が違いすぎる。

 現状、今の距離感がベストだと思うんだ。

 一緒にいる時間をひねり出すためにお互い努力して。

 自分の生活を中心にしつつ、相手を大切にする。

 これが、一緒に住んでると、お互いが傍にいるのが当たり前って意識になっちゃって、すれ違う時間を許せなくなる気がする。

 それって、きっとお互いのためにならないと思うから。

 寿也さんは、

 「明星がそう言うなら、そうしようか」

という感じで納得してくれた。

 灯里にも同じように説明したら、

 「あんた、ベタ惚れな割に冷静じゃない。

  大したもんだわ、それ」

と言って感心された。


 でもさ、遠距離恋愛ならいざ知らず、結構近くに住んでるんだし、会おうと思えばある程度の頻度で会えるんだから、冷静とかいうのとは違うんじゃないかなあ。

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