21 記念写真、いかがですか?
「どう? 似合ってる?」
僕は、寿也さんの前でクルッと回ってみせた。
成人式は午後1時からで、今は11時。
場所は、フォトスタジオだ。
昨日、あの後、母さんに言われて、寿也さんを家に呼ぶことになった。
寿也さんには予定より早い新幹線来てもらって、僕が着付けに行く前にうちで母さんと顔合わせをした。
父さんは、予定が合わなくて今回は見送りだ。
意外と言うべきか、らしいと言うべきか、寿也さんは電話で呼んだ時こそ狼狽していたものの、駅に迎えに行った時はすっかり落ち着いていた。
服装は、ベージュのチノパンにジャケットと、固すぎず柔らかすぎずといった無難なもので、寿也さんのバランス感覚が表れていた。
「普通、初めて彼女の家に行く時は、もっと緊張しそうなものだけど」って言ったら、
「まぁ、悪いことしてるわけじゃないし、媚売ってもはじまらないし、自然体で挨拶するよ」なんて笑ってた。
で、挨拶は
「はじめまして、白寿也と申します。
明星さんとお付き合いしています」
なんてオーソドックスな感じだったけど、母さんの印象はそれなりに良かったみたい。
それから3人で少し話した後、僕の着付けのためフォトスタジオへ。
振袖を買った時のサービスで、着付けと記念写真までセットになっている。
普通だと、髪のセットもあるから美容院に行くんだけど、僕の場合は自前の髪じゃないから、フォトスタジオで着付けしてもらって写真を撮った後、母さんに成人式の会場まで乗せていってもらうことになっている。
成り行きで、寿也さんも一緒だ。
僕が着付けてもらってる間、母さんと寿也さんが色々話しているんだけど、なんの話をしているのか、とても気になる。
まあ、寿也さんは余計なことは言わないだろうけど、母さんがなあ。
寿也さんを困らせてなきゃいいけど。
30分くらい掛けて着付けの終わった僕は、写真を撮ってもらうためにスタジオに出てきた。
母さんと寿也さんも、僕に合わせてスタジオに移動してきた。
「いやいや、見違えるほどに女の子してるねぇ。
元々可愛いけど、今は美人って表現の方がしっくり来る感じだよ。
いやいや、来て良かった」
寿也さんが大げさに褒めてくれた。
嬉しいけど、僕のことを「美人」ってのは、なんだか嘘くさい。
持ち上げすぎだ。
「いやいや、何言ってんの。
今の明星は、どこから見ても美人のお姉さんだって。
振袖、すっごく似合ってるよ。
イブの時もそうだけど、明星は女らしいカッコしても似合うんだから。
普段のボーイッシュとのギャップがまたそそるね。
あ、写真撮っていいかな?」
写真は、これからスタジオで撮るんだけど。
自分用? まあ、いいけど。
え? 待ち受けにするの? また恥ずかしいことを。
色々言いたいことはあるけど、母さんの前でいつもの調子で会話するのもアレなので、少し控えめにしてる。
「何言ってんの。
自慢の彼女の晴れ姿なんだから、これくらい当然だって。
むしろ、そのためにここまで来たって言っても過言じゃない。
帰ったら、星也に見せびらかそう」
「ちょっと、なんで兄貴に!? 絶対笑うから! 『馬子にも衣装』とか言って」
「いやいや、星也の悔しがる顔が目に浮かぶねぇ」
「だから、悔しがらないって!」
「あら、悔しがると思うわよぉ」
「母さんまで!」
「星也は、素直じゃないから、明星に悪態ついてるけど、立派なシスコンよ?」
「それは姉さんにでしょ! 僕のことなんてうるさい弟扱いで…」
「いやいや、あいつは明星のこと可愛くてしょうがないんだって。
ホントは、今回も来たかったんだよ、きっと。
ただ、素直に褒めるにゃ照れくさいし、悪態ついたら折角の振袖にケチがつくしで、諦めたんだよ」
「白さん、本当に星也の性格、よくご存じねえ」
「まぁ、3年付き合ってますから」
そんなこんなで、僕は世紀のスタジオ写真のついでに、寿也さんにもスタジオで写真を撮られて成人式へと向かった。
会場近くで車を降り、寿也さんに見送られて歩き出したところで灯里に会った。
灯里も振袖姿だ。
多分、髪も自前。
少しうらやましい。
「明星!
こちらが、噂の寿也さん?」
「あ、うん。
寿也さん、この子が灯里。
いつも話してる僕の親友」
「はじめまして、白寿也です。
明星からお噂はかねがね。
これからも色々とお世話になると思いますが、よろしくお願いします」
「明星をよろしくお願いしますね」
なんか、灯里の様子が固いけど、緊張するような状況じゃないよね?
この後、寿也さんは、母さんに駅まで送ってもらって帰ることになる。
こっちにいた時間は2時間ちょっと、往復に掛かる時間は6時間くらい。
僕の振袖姿を見るためと、親に挨拶するためだけに来たんだと思うと、少し悪い気がするけど、一緒に動けるだけの時間がないからなあ。
できれば成人式が終わるまでいてほしいと思いながら、僕は寿也さんに見送られながら、灯里と一緒に会場に入った。




