17 兄に報告、いかがですか?
「成人式? うん、3月に地元で出るよ」
成人の日を前に、寿也さんから、成人式はこっちで出るのか地元で出るのかと聞かれた。
こっちで出るなら、その後お祝いしてくれるつもりだったらしい。
残念ながら、僕は実家に顔見せがてら、地元の成人式に出ることになっているので、成人の日はこっちでバイトだ。
僕の地元では、高校を出た後、地元を出て行く人も多いので、春分の日辺りに成人式をやる。
県外の大学とか行ってても、春休みだから帰ってきやすいというのが理由だ。
せっかく集まるから、ついでにその時期に同級会を開くクラスも多いらしい。
僕も、高校のクラス会のお誘いが来ていて、灯里と一緒に出る予定だ。
ついでに言うと、成人式では振袖を着ることになっていて、夏休みに帰省した時に注文してある。
僕としては、一度しか着ない振袖なんかにお金を掛けるのは勿体ないし、着るのも恥ずかしいしで遠慮したんだけど、両親に押し切られた。
まあ、僕の実家は、地元ではそこそこ有名な土地持ちだし、付き合いやらなんやらでそうする必要があるというのもわかるから、抵抗は諦めた。
スーツで済んだ兄貴がうらやましい。
僕が振袖を着ることを話すと、寿也さんは振袖姿を見られないことを残念がっていた。
さすがに自分で着付けなんかできないから、こっちで着てみせるわけにはいかないし、向こうに寿也さんを連れて行くのも無理だろう。
「写真撮って送ってあげるよ」
照れくさいけど、寿也さんには見てほしいし。
「いやいや、嬉しいけど、やっぱり直接見たいなぁ」
「え!? 来れんの!?」
「ん~、まだわからんけどね。
できれば行きたいなぁ。
明星のご両親にもご挨拶したいし」
「ちょっと、親になんて挨拶する気さ?
僕、まだ付き合ってることも言ってないよ?」
「ちょうどいいから言っちゃえば?」
「簡単に言うけど、結婚の挨拶じゃあるまいし、わざわざ親に会うの?」
「うん、まぁ、実家に挨拶の前に、星也に言わないといけないかなぁ。
さすがに、ここまで来れば、今更邪魔してくることはないだろうし、そろそろ教えとこうか」
「邪魔なんてするわけないと思うんだけど。
どうせこそこそするつもりはないし、親だろうが兄貴だろうが紹介するのは構わないけど。
なんなら、本当に3月にうちに来る?
泊まれるように話しとこうか?」
「そうだなぁ。
挨拶しとくのはアリだけど、さすがにいきなり泊まるのは、ハードル高いなぁ。
星也の友人としてなら泊まりに行けるだろうけど、娘の彼氏が遊びに来て初対面のくせに泊まってくってのは、親御さんとしては面白くないだろうし。
ちなみに、明星は地元にはどれくらいいる予定?」
「成人式の前日に帰って、成人式の後はクラス会に出て、翌日にはこっちに戻ってくるって感じかなあ」
「2泊3日か。
そのパターンじゃ、どのみち、俺が泊めてもらうわけにはいかないだろう。
俺は、明星の生振袖だけ見て帰ってこようかなぁ。
んで、もしタイミングが合うようなら、親御さんに挨拶しておこうか」
「んじゃ、日帰りってこと?」
「日程調整ギリギリにできるし、金も掛からんし、日帰りでいいかなぁ」
「ん、わかった。
で、兄貴にはいつ言うの?
2人揃って挨拶にでも行こうか?
弟さんと付き合ってますって」
「根に持つねぇ」
「これくらいの嫌味は当然だと思うんだけど」
「まぁ、明星の主観ではそうなるのも仕方ないと思うけど、星也はホントに明星のこと大事にしてるんだよ」
「会えば憎まれ口ばっかだよ」
「だから、照れ隠しだって。
素直じゃないんだよ、あいつ。
小さい時から自分のこと気にしてくれてた可愛い妹に感謝してるくせに、素直に言えないだけなの。
だからさ、明星のこと俺に弟って言ったのは、安易に妹に近付かないようにっていう牽制だし、俺が女の子だって見抜いて口説き落とせるかって試されてたんだと思うよ。
女の子だって気付くかが1つ、俺が明星を好きになるかが1つ、俺が明星を口説き落とせるかが1つ、3段階の試練だな。
全部クリアしたわけだし、祝福してくれると思うよ。
言い方は素直じゃないだろうけど」
「灯里も、あ、高校以来の友達でね、今はうちの教育学部にいるんだけど、同じようなこと言うんだよね。
でもさ、兄貴が僕に感謝してるとかって、どうも信じられなくてさ」
「明星にしてみればそうかもしれないけどね。
ちょっと自分の身に置き換えてごらん。
1個下の妹が自分より背が高くて、自分を名前で呼んでた。
それで、知らない人には、自分が一番下の妹扱いされる。
ある時、妹が人前で『お兄ちゃん』って呼ぶようになって、それに伴って自分は男の子として見てもらえるようになる。
どうして男の子として見られるようになったかわかるよな?
しかも、その反動で、妹が男の子として見られるようになってしまった。
妹に庇われたわけだろ、そりゃ申し訳ない思いとかあるだろさ。
まして、妹は弟扱いされても反論もしない。
そのうち、男っぽい言動が染みついてしまった。
ほら、兄としては、情けないやら申し訳ないやら、複雑なわけよ。
早いうちにお礼言ってやめさせときゃ良かったんだろうけど、照れくさかったり恥ずかしかったりで言えないまま今に至る、と。
ちなみに、元カレのことは、星也は知ってる?」
「多分。
兄貴と2人で歩いてる時に、元カレとすれ違ったことがあったから」
「じゃ、当然別れたことも知ってるよな。
その後、女子高に入って、彼氏を作ろうともしない妹に、紹介しても良さそうな友人、つまり俺を会わせてみたってとこじゃないかな。
あ、最初に会ったのは、ホントに偶然だぞ。
多分、星也は元々、俺を紹介する候補にしてて、ちょうど出会ったから焚き付けてみたんだろう。
そろそろ、どうなったか知りたくて焦れてるはずだから、なるべく早く教えてやろう」
翌日、寿也さんから、兄貴と会うから一緒にって言われた。
寿也さんは、学食に兄貴を呼び出した。
僕は寿也さんの左隣、兄貴は寿也さんの正面に座った。
特に驚いた様子はなくて、ふ~ん、という顔をしている。
「ま、見りゃわかると思うけど、明星と付き合ってる。
お前には報告するのが筋だと思うんで、忙しいとこ悪いけど呼び出させてもらった」
「確かに見りゃわかるな。
寿也が物好きなのは知ってるから、驚きはしないが。
人の趣味に口出す気もないし、せいぜいよろしくやってくれ。
それはそうと、なんで今頃なんだ?
知り合ったのは、去年の10月じゃなかったか?」
「付き合い始めたの、年末からなんだ。
口説き落とすのに時間が掛かってね」
「もう確認したんだろうが、こんなんでも一応女だ。
返品は受け付けないから、そのつもりでな」
「返せって言われても、返さないから」
「明星も。
せっかく奇特な引き取り手が見付かったんだ。
しがみついて離れんなよ」
こうして、嫌味の応酬のような報告は終わった。
僕は、一言も話してない。
事前に寿也さんから、言い返さないよう釘を刺されてなかったら、絶対ケンカになってた。
「なんだよ、一応女って。奇特な引き取り手なんて、寿也さんに失礼じゃないか」
兄貴が帰った後、僕が文句を言ってると、
「だから、あれが星也なりの照れ隠しなんだって。
『確認したんだろうが女だ。返品は受け付けない』ってのは、処女奪ったんだから、一生面倒見ろよってことさ。
あと、明星に言ってたのも、つまるところ、別れるなよってことなんだよ。
言い方が素直じゃないだけで、ちゃんと付き合い続けろって祝福してるのさ」
「どう聞いたらそうなるのさ…って、確認ってそういうこと!?」
付き合ってるって言った以上、そういうことしてるってのと同義だろうけど、面と向かってそんなこと言ってくるなんて、なんかヤな気分。
やっぱり祝福してるとは思えないよ。
成人式は、地方では1月にやらないところも多いようです。
お盆にやる地方もあるようです。




