16 初詣、いかがですか?
「僕んちの雑煮なんだけど、どうかな?」
翌朝、僕は6時半に起きた。
6時間弱寝られたから、体力的には問題ない。
持ってきていた雑煮を鍋に移して温め、オーブントースターでお餅を焼いた。
昨夜、お風呂入った時に聞いたところでは、寿也さんの地元では雑煮にお餅が入るけど、僕が作ったのをそのまま食べてみたいってことだったから、お餅は焼くことにしたんだ。
寿也さんの好みは、海苔を巻いて醤油に浸したのを焼いたやつだそうなので、3個はそうして、僕の分の2個は普通に焼いて、砂糖醤油で食べることにする。
おせち料理がないから、お餅と雑煮だけの簡単な朝食だけど、寿也さんにはそこそこ好評だった。
ただ、煮て半分固くなったイクラにはビミョーな顔をしていた。
僕は、あのタンパク質のふにふにした食感が大好きなんだけど、寿也さんには違和感が強かったようだ。
鯛の目玉とかも、あんな感じだけどなあ。
個人的な好みとしては、同じタンパク質系でも、鱈の白子の食感より鯛の目玉の食感の方が好きだ。
でも、寿也さんには、イクラを煮るというのは、かなりカルチャーショックだったらしい。
それ以外は褒めてくれたので、今回の成果は十分だろう。
朝食を食べた後、2人で初詣に出掛けた。
電車で数駅の神社だった。
お参りして、おみくじを引いて。
寿也さんは小吉、僕は末吉だった。
大吉とは言わないけど、中吉くらいは出てほしかった。
寿也さんは、今年就職試験なんだから。
破魔矢は買わない。置き場所に困るから。
そういえば、小学生の頃、古い破魔矢を焼きに行って、手製の弓で打ち込んで父さんに怒られたことがあったっけ。
その時の話を寿也さんにしたら、大笑いされた。
大笑いされたけど、呆れられたわけじゃなく、むしろうらやましがられた。
寿也さんも考えたことはあるけど、思いとどまったそうだ。
そうだよね、男の子なら、一度は考えるよね。
…僕は女の子だけど。
初詣の後は、そういや年越し蕎麦食べてないねってことで、そば屋に行った。
蕎麦と言えば盛りだよね、ということで、僕はいつも盛りそばなんだけど、寿也さんは冬だからということで鴨南蛮を頼んだ。
その後、新年の初売りで賑わうデパートを冷やかして、荷物を回収がてら寿也さんの部屋でお茶を飲んで、僕は部屋に帰った。
寿也さんは送ると言ってくれたけど、例によって部屋に上げようとか、せっかくだから夕飯を、とかってなりそうだったから遠慮した。
帰ったら、洗濯しなきゃいけないし。
その日は、ゆっくり休もうと、10時半にはベッドに入った。
冷たい彼女でごめんね、寿也さん。
でも、初めてをあげたいと思うくらい好きなんだよ。




