15 お泊まり、いかがですか?
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
1日の午後10時にバイトを終えた後、僕はその足で寿也さんの部屋にやってきた。
一泊するだけの着替えは、店まで持ってきている。
付き合い始めたばかりでもうお泊まりかと呆れる自分もいるけど、逆に、付き合い始めたばかりだからこそ我慢が利かないところもあるんだと開き直っている自分もいる。
僕が正月のシフトを話したら、寿也さんが
「なら、元旦に会えるね」
と言い出した。
さすがに1日はハードなので、ゆっくり眠らないともたないと言ったら、
「俺んとこに泊まったって、ゆっくり眠ることはできるさ」
と取り合ってくれなかった。
そのまま押し問答すると、バイト上がりの時間に寿也さんが店に迎えに来かねない気がしたので、渋々1日の夜は泊まって、2日にそのまま初詣に行くことにした。
2日の夜は自宅に帰るのも、条件に入れた。
我ながら初々しさに欠けるとは思うけど、寝不足で店に立ったりしたら、周りに迷惑を掛けることになるから、そこは譲れなかった。
一応、僕自身、残念ではあるんだけどね。
社会人に半分足を突っ込んでいる以上、果たすべき責任というものがある。
あと、今回は時間の都合上、僕がご飯を作るのは、なしだ。
10時までのシフトの後、寿也さんの部屋に着く頃には10時半を過ぎる。
当然、寿也さんには、その前に夕飯を食べてもらっておきたいし、2日は、夕方には僕は家に帰っておきたい、というか、寿也さんの家でご飯を食べたら、家に帰れなくなりそうだ。
2日の昼は外で食べるだろうし、とりあえず朝用に、雑煮くらい作り置きしてあるのを持って行こうか。
ただなあ、雑煮って地方によって中身も味付けも違うからなあ。
僕の実家の方では、雑煮にお餅は入らない。
お餅は、雑煮とは別に、煮たのをあんこやきな粉を付けて食べるんだ。
こっちに来てから、誰に言っても驚かれるけど、僕は逆に雑煮にお餅が入っている方がびっくりだった。
話には聞いているけど、実際には見たことも食べたこともない。
正直、食べてみるのが恐いというのもある。
これは極端かもしれないけど、雑煮は、地方によって、出汁、具、入れるお餅の形とか、焼いてから入れるとか様々で、大抵は自分が食べ慣れた地元のものが一番美味しいと感じるものらしい。
地方出身者同士の結婚で、ケンカやカルチャーショックの種になるとも聞く。
寿也さんの出身地は千葉だって話だけど、千葉の雑煮ってどんなのだっけ?
うちの雑煮は、人参、大根、こんにゃく、鮭、イクラ、かまぼこの入った醤油ベースの汁物だから、少なくとも食べられないってことはないだろう。
お餅は、さすがにあんこもきな粉も用意してないから、焼いて砂糖醤油で食べようか。
寿也さんのところにお餅があるかどうかわからないから、一応買っては来たけど。
普通にご飯食べるって言ったら、おかずがないんだけど。
料理の腕については、付き合い始めたばかりということで、フィルター越しの甘い基準になってることを期待してるんだけど。
寿也さんの部屋に上がった後、とりあえず、持ってきた食材なんかを冷蔵庫に入れて振り返ると、寿也さんが抱きしめてキスしてきた。
その上、お腹のところから手が入ってくる。
「ちょっと待って、待って!
僕、バイト上がってそのまま来たから、いっぱい汗かいてるから!」
「構わないよ」
「僕が構うの!
せめて先にシャワーだけでもって、あ!」
ちょっと、ダメだって言ってるのに、胸触んな! パンツに手ぇ突っ込むな!
ようやく振りほどいた僕は、乱れた服を押さえながら文句を付けた。
「いくら恋人同士でも、嫌がるのを無理矢理ってないだろ!
僕は、体だけの付き合いなんかする気ないからね!」
それから、少し2人で話をした。
寿也さんは、僕の到着時間を計算して、お風呂を溜めてくれてたらしい。
予想より少し早く着いて、もう少しで溜まるってところだったから、いちゃいちゃして時間を稼ぎつつ僕を脱がせて、一緒にお風呂に入るつもりだったそうだ。
この前楽しかったバスバブルも買ってあるって。
気の遣い方が間違ってると思う。
むかついた反面、いつも余裕ぶってる寿也さんの子供っぽい一面を見て、少しホッとしたりもした。
僕は寿也さんを許してあげて、一緒にお風呂に入った。
服は自分で脱いだけど。
お風呂はやっぱり2人で入るには狭かったけど、泡のドレスで遊んで、寿也さんのベッドで1回だけシた。
今回は、風邪をひかないよう、持ってきたスウェットを着てから眠った。
寿也さんのベッドは、寿也さんの匂いがした。
なんとなくホッとする匂い。
好きな人の匂いは臭いと思わないって、どっかのテレビ番組で言ってたっけ。
子を産むに相応しいと思う相手は、本能的に好む匂いを感じるとか何とか。
本能云々は置いといても、やっぱり好きな人の匂いは嗅いでいたいものなんだろう。
そう考えると、僕の汗の匂いを寿也さんが嗅いでもいいのかもしれない。
…やっぱり恥ずかしい。




