14 バイトで年越し、いかがですか?
「あけましておめでとうございます!」
青海大学前店では、日付が変わると同時に、来店したお客様に新年の挨拶をすることにしていた。
言い出しっぺが誰かは知らないけど、開店当初からの慣習らしい。
まあ、年中無休がウリのコンビニだから当たり前ではあるけど、大晦日から新年に掛けてきっちり営業しているのも凄いし、それなりにお客が途切れないのも凄い。
なにしろ大学前店なので、たしかこの店の近辺には神社なんかなかったはずだ。
それなのに、お客が途切れることがないというのは、ちょっと不思議だ。
これから2年参りに行く人が寄っているという風でもないんだけど…ああ、お寺の方か。
そういえば、少し離れたところにお寺があった。
除夜の鐘を撞かせてくれるとかのサービスでもしてるのかな。
僕は、去年は年末年始は実家に帰っていたから、こっちで年を越すのは初めてということになる。
明日の昼に寿也さんと初詣に行く約束をしてるけど、そういえばどこの神社に行くのか聞いてなかった。
今回、僕のシフトは、12月31日の午後10時から元旦の朝8時までと、午後4時から午後10時まで、1月3日の朝8時から午後4時までとなっている。
年越し10時間勤務は、正気を疑いたくなるような過酷さだけど、なにしろ正月に帰省しないという少ない人員の中でローテを組まなきゃならないので、ある程度やむを得ないところだ。
バイト料も割り増しになるし、一応、勤務時間中でも、様子を見ながら交代で休めるので、なんとか持つ。
もっとも、ここに紅さんがいたら、多分僕は倒れていただろう。
あの人がいると、僕は全然休む暇がないから。
紅さんは家に帰省するとのことで、正月のシフトからは外れている。
胡桃沢さんは僕のシフトに組み込まれているけど、見違えるように動きが良くなったから、さほど苦にならない。
そう、僕がクリスマスに休んだ時、胡桃沢さんは別の人と組んで店に出たんだけど、問題なく過ごせたんだ。
さすがに紅さんは一緒にしなかったので、胡桃沢さんの面倒が見られるくらいの体制にはしてあったんだけど、多少のフォローで済んだそうだ。
これで周囲の評価が大分好転して、どうやら彼女はクビにならなくて済むようだ。
で、別のシフトに組み込まれた紅さんの方は、やっぱり使い物にならず、クビが確定しているらしい。
片方しか救えなかったことを悔やむべきか、片方だけでも救えたことを喜ぶべきかなんだけど、結局、僕は素直に喜ぶことにした。
僕は、ベテランの経営者でも調教師でもない。
一度にタイプの違う2人の面倒を見て、両方とも、それも片方は年上なのに矯正するなんて、無理な相談だ。
そう考えれば、胡桃沢さんだけでも人並みに育て上げたことは誇っていいと思う。
というより、誇らなきゃやってられない。
もし、僕が実家の店を継いで、雇った人の中に胡桃沢さんや紅さんのような人がいたら。
その時は、今の僕とは立場が違うから、雇った相手に責任を持たなければいけない。
最初から雇わないなら、それでもいい。
事前に使えない人だと見抜いて避ける、それが賢いやり方だろう。
でも、雇ってしまったなら。
やっぱり全力で育ててあげなきゃいけないんじゃないかと思う。
いつだったか、父さんは僕に、世間を知らなきゃどうにもならないって言ってたっけ。
高校を出たらうちの店で働こうと思っていた僕は、父さんにそう言われて、大学に進むことにしたんだ。
色々な人に触れて、色々なことに出会えって。
きっと父さんは、僕がサークル活動とかコンビニ以外のバイトを経験することで、自分の世界を広げることを期待したんだと思う。
結局、僕は、住み慣れた世界であるオルマに籠もってしまったわけだけど。
寿也さんと出会って、本当の恋を知って、きっと僕は変わったと思う。
実際、寿也さんの一言がなかったら、僕は胡桃沢さんを見捨てていたんだし。
どんな経験も無駄にはならないっていうけど、あと2年、僕はここで成長していこう。




