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1 変な名前、いかがですか?

 同性愛とかはありませんので、安心してください。

 「いらっしゃいませ~」


 僕は、このオールマート青梅大学前(おうめだいがくまえ)店でバイトしている。

 オールマート、通称「オルマ」は、新興ながら今では日本で第3位に躍進したコンビニだ。

 オールマートの「オール」はオールデイ・オールタイム・オールラウンドなど様々なものをかけている。

 特に、本社直営店では、タバコでもお酒でも灯油でも、何でも売っている。

 「オルマに行けば、何でも売ってる」は、今では常識だ。


 僕の名前は、黒沢明星。「明るい星」と書いて「あきら」と読む。

 20歳の大学2年生だ。

 誰だよ、こんなキラキラネーム付けたのは。父さんだよ。

 しかも、「くろさわ・あきら」だよ? お陰で、子供の頃は「侍」だの「巨匠」だのと散々からかわれた。

 「ビーナスちゃん」なんて呼ばれたこともあった。

 1つ上の兄貴は「星也(せいや)」だ。当時の新生児の名前、男の子部門トップ10だ。

 兄貴は、何度か同じクラスに「せいや」君がいたらしい。

 3つ上の姉さんは「星海(ほしみ)」。

 名前に「星」の字を入れるのは、父さんの拘りだそうだ。

 拘るのは構わないけど、3つ目が思いつかなかったのなら、素直に諦めてほしかった。


 それはともかく、僕の実家は結構な土地持ちだったため、アパート経営とかをやっていたんだけど、それに加えて、5年前に父さんがオルマのフランチャイズを始めた。

 僕は高校に入ると、すぐに小遣い稼ぎにうちの店でバイトを始めた。

 もちろんバイト代は普通に貰っていた。

 大学受験前の半年間くらいはさすがに休んだけど、受験の二日後には再開したくらい性に合ってる。

 なので、大学に入って実家を離れると、すぐにバイト先にオルマを選んだ。

 ちょうど学生課で斡旋しているバイトの中に、オルマもあったんだ。

 大学前店というだけあって、大学の正門の道路向かいにある。



 「これ、(あった)めてくれる?」


 「カレー&ハヤシライス」か…。

 また随分と勇者な人だな。

 カレー&ハヤシライスは、オルマの新作弁当で、カレーライスとハヤシライスが半分ずつ並んでいるという、開発者の神経を疑いたくなるシロモノだ。

 よりによって似たようなものを組み合わせるその発想は理解しがたい。

 更に理解しがたいことに、意外に売れている。


 「星也?」


 「はい?」


 「あ、失礼。友人によくにていたもので。

  もしかして、黒沢星也、知りません?」


 「星也は兄です。

  少々お待ちください。

  先にお会計失礼します。504円になります。

  スプーン、お付けしますか?」


 これが、僕と寿也さんの出会いだった。




 数日後、僕がバイト上がりで店の裏口から出ると、寿也さんが立っていた。


 「もしかしてストーカーですか?

  110番した方がいいですか?」


 「いやいや、勘弁してくれ。

  星也から聞いたよ。1つ下の弟がいるって。

  アキラ君。あだ名は『巨匠』だって?」


 バカ兄貴…。

 今度会ったら殴る。


 「弟の明星です。

  まぁ、巨匠でも監督でもビーナスちゃんでもいいですけど」


 「ビーナスちゃん?」


 「『明るい星』と書いてアキラですから。

  いい加減恥ずかしいキラキラネームなのに、『くろさわあきら』ですよ? よくグレなかったもんです」


 「親御さん、星って字が好きだったのかな?」


 「らしいですよ。姉は星の海で『ほしみ』、兄貴が星也。

  僕ももっとまともな名前が良かったですよ」


 「いやいや、変な名前なら、俺も負けてないよ。

  俺は、(つくも)寿也(としや)

  ホワイトにコトブキ、ナリね。

  普通、『つくも』って『九十九』なんだけど、『百』から『一』取ると『白』だから『つくも』さ。

  あだ名は『白寿』だったよ。

  俺も星也とかの方が良かったなあ」


 「まぁ、兄貴も名前に怒ってましたけどね。

  『せいや』なんて、男でも女でも構わないような名前だし、あの顔ですから」


 「あー、君もだけど、あいつもすごい女顔だからなぁ」


 「今は背が伸びたから、よっぽどいいんですよ。

  小さい頃なんか、僕と身長同じくらいで、双子と間違われてましたから。

  3つ上のね、姉がいるんですよ。

  弟なんて、絶対姉には勝てないんです。

  しかもね、姉さんは妹が欲しくって、兄貴は今でもそうですけど、赤ちゃんの時から中性的っていうか、はっきり言って女顔でしてね。

  姉さんは妹として扱ったんですよ。星也ちゃんって。

  自分が小さい頃に着てた服なんかを兄貴に着せるわけですよ。

  それがまた似合うわけです。

  セイヤちゃんって呼んだら、周りは女の子だと思いますよね?

  その後、僕が生まれて、兄貴と双子じゃないかってくらい似てて。

  僕の方が兄貴より発育が良かったみたいで、あっという間に兄貴に身長並んじゃいましてね、ホントに双子みたいだったらしいですよ。

  そうしたら、親も面白がっちゃいまして、僕と兄貴がお揃いになるように服を買ってくるんですよ。女の子用の。

  さすがにスカートは穿かせませんでしたけどね。

  で、小学校に入る頃には、僕の方が背が高くなっちゃって。

  兄貴が僕の妹に間違えられるようになっちゃいました。

  中学入って学ラン着るようになって随分喜んでましたよ。

  さすがに学ラン着てれば女の子には間違えられませんから」


 もっとも、男装してるようにしか見えなかったけど。


 「兄貴はシスコンですから、姉さんのことは恨んでなかったんですけどね。

  その分、僕は嫌われてました。

  特に、僕の妹扱いされたことは、相当根に持ってます。

  僕の顔見れば文句言ってきますよ」


 「それで、弟がいるの内緒にしてたのかな?」


 「そんなとこでしょう。

  まぁ、兄貴は姉さん以外は家族みんな嫌いですから、家のこと全般、話さないんじゃありませんか」


 「あ~、そうだな。

  この前、星也にそっくりな人()に会ったって言って、やっと弟がいるって話になったんだ。

  あのさ、星也(あいつ)、こっちで就職しようとしてんだけど、知ってた?」


 「いえ。けど、やっぱり家継ぐ気ないんですね。

  僕への話ってそれですか?」


 「うん、そう。

  一応、家族の耳には入れといた方がいいかなって。

  で、君んちって何やってんの?」


 「うちの実家、田舎な分、結構な土地持ちなんで、アパートとかオルマのフランチャイズとかやってるんです。

  本来なら、長男の兄貴が継ぐべきなんですけどね。

  田舎ですから、そういうとこ、うるさいんで」


 「それで工学科?」


 「です。兄貴(あの人)、理系ですからね。

  大学受ける時点で、家を出るつもり満々だったんでしょう。

  多分、メーカー系に就職するつもりなんでしょ?」


 「正解。

  KAKUYOの企業訪問してる」


 「就職協定とかあって、3年生は駄目なんじゃないですか?」


 「正式には勿論そうなんだけど、KAKUYOにゼミの先輩がいてね。

  先輩を訪問する形でこっそりとね。

  星也は商品開発志望、俺は営業志望だ」


 KAKUYOは、日本有数のオフィス用品メーカーだ。

 兄貴、文具系男子だったからなぁ。


 「そうですか、そうなると、家は僕が継ぐ話かなぁ…。

  ツクモさん、情報どうもありがとうございました。

  それでは」


 「白じゃなくて、寿也って呼んでくれると嬉しい。

  俺も結構コンプレックス持ちでね」


 「今後、店員と客以外の接点、ないと思うんですけど。

  分かりました。今度、店以外で会うことがあったらってことで。

  じゃあ、情報ありがとうございました」


 その夜、寿也さんからもらった情報を父さんに話したところ、やっぱり予想はしていたらしい。

 元々兄貴は商売向きではないだろうということで、両親としては、好きなようにさせてやるつもりだったようだ。

 兄貴からの報告はなかったらしいけど。

 僕が跡を継ぐかどうかも、当面は決めないつもりらしい。



 で、3日後。


 「やっぱり110番した方がいいですか?」


 僕は再び、仕事上がりに寿也さんの待ち伏せを受けていた。

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