9.事件は後から知ることになる
結局何も起きずに三日くらい経った。だが、ある時ナイスミドルの一団が騒がしくなり始めた。
「なにあれ?」
ファンは首をかしげるが、俺にはピンときた。たぶん遺物に通信機があって、何か良くない報せがあったんだろう。それはおっさんと爺さんもわかっているようで、何やらナイスミドルと話を始めていた。
「岸見のほうで何か厄介なことが起こったんだろうな。あの二人はどうすると思う?」
「多分、力を貸すと思う」
「それじゃ、俺も付き合った方がいいかな。そろそろ地下から出たいと思ってたし」
「じゃあ、あたしも行く」
「わかった。とりあえず話を聞きに行ってみよう」
そういうわけで俺とファンはおっさん連中が話しているところに行ってみる。おっさんは俺のことを見ると話を切り上げて近づいてきた。
「駿ノ助殿! どうやらここを離れる必要がありそうだ!」
「岸見のおっさんのほうでなんかあったんだな」
「うむ! どうやら新種の襲撃を受けたようだ!」
おっさんは力強くうなずき、俺の背中を押してナイスミドルの前に押し出した。
「岸見よ、駿ノ助殿ならば問題あるまい!?」
「そうだな、本人にその気があるのならよかろう。どうする?」
話が勝手に進んでいるようだけど、まあこれは都合がいいと言えるか。で、俺が返事をしようとしたらそこにファンが割り込んできた。
「ちょっと待っておじさん! あたしも一緒に行く!」
それにナイスミドルは軽く眉を動かす。
「自ら厄介事を招き入れる必要があるか?」
「いいや、ファンの力は必要になろう。おとなしくしていれば問題はあるまい? できるな、ファン」
爺さんの言葉にファンは力強くうなずいた。それを見たナイスミドルはしばらくファンを見てから軽くうなずいた。
「よかろう」
ナイスミドルは納得したようで、俺を一度見てから自分の兵隊の指揮に戻った。
「ファン、俺達も出発の準備をしよう」
「わかった」
そういうわけで、俺とファンはすぐに上に上がっていくことにした。別に私物がここにあるわけじゃないし。
「じゃあ駿ノ助の家に行くから」
ファンとは別れ、久しぶりに我が家に戻ってきた。まあ、別に変わったところとかは別にないわけだが。とりあえずお茶を飲んで、トイレを済ませてから、着替えを用意しているうちにファンがやってきた。
「まだ準備できてないの?」
「大体終わった。食料とかはまだだけどな」
「それなら準備してきたから大丈夫。行こう」
俺達はそれから街の入口まで移動した。ナイスミドル達はすでに到着していたけど、準備は終わってないようで慌ただしい雰囲気だった。ナイスミドル達の車は明らかに綺麗で立派だな。
「しかしまあ、ずいぶん立派な車が揃ってるな」
「独り占めのおかげだよ」
「そうむくれるなよ、これから一緒に行動するんだし」
「わかってる。こっちも早くしよう」
俺とファンはバイクに荷物を積み込むと、ここに来た時と同じように俺はサイドカーに乗り込み、ナイスミドル達よりも先に外に出た。
それからしばらくして、俺達は荒野を走っていた。この街に来た時は体感的に一日かかったが、今回のペースだと到着は早そうだ。そう思っていると、カラスが目の前に舞い降りてきた。
「久しぶりじゃないか」
「お前のことはずっと見ていた。どうやら興味深いことになっているようだな」
「何が起こったのか見て来たような言い方だな」
「そうだな。だが、お前の楽しみのためにも教えないでおこう」
「そりゃどうも」
カラスは飛んでいき、それからは特に何事もなく、以前よりもだいぶ早くナイスミドルの街に到着した。
今回はファンも近くにバイクを隠すことなく、そのまま廃墟のビル街を通っていく。最初はただの廃墟だと思ったけど、進んでいくにつれて人が住んでいる気配が感じられるようになってきた。このあたりは多分貧乏人が住んでるんだろう。
「ファン、お前はどこまできたことあるんだ?」
「せいぜいこのあたりまで」
「じゃあ、しっかり見とかないとな」
しかし、進むにつれて何だか緊張感というか、物々しい感じがしてきた。パワードスーツじゃないが、銃を持った兵隊の姿は見える。そのまましばらく進むと、廃墟とは違う建物が現れた。
「ショッピングモールだな」
「何?」
当然ファンは俺の言ったことの意味はわからない。だが、そこにあるのは間違いなく巨大な三階建てのショッピングモールで、入口にはパワードスーツの兵隊が立っていた。
俺達はそれに誘導され、駐車場だったであろう場所に到着し、ショッピングモールの中に入っていった。自動ドアは動いていなかったが、内部の照明はところどころ点いていてけっこう明るい。
ナイスミドルは迷いのない足取りで進んでいき、かつては何かのテナントが入っていたであろうスペース、今はまあオープンなオフィスの一室と言った場所の前で立ち止まった。
「状況を報告しろ」
低いが良く通る声でナイスミドルが告げると、オフィスから一人の小奇麗な格好をした女が出てきてナイスミドルに耳打ちをして報告を始めた。それを聞き終わると、ナイスミドルはすぐに周囲の人間に指示を出し、それから俺とファンに近づいてくる。
「お前達にも仕事がある、ついてきてもらおう」
ファンが何か言う前に俺は口を開くことにする。
「わかった。でも寝床の手配もちゃんとしてくれよ」
「心配するな、すでに手配してある」
「そりゃどうも」
そういうわけで俺とファンはナイスミドルの後に続いて歩く。行先は上階のようで、動いていないエスカレーターを上がっていくと、二階はほぼ居住スペースになってる様子だった。
「けっこう人が住んでそうだな」
「ここには文明があるのだ」
だからいい暮らしを求めて人が集まるってか? まあ、確かにファンの街と違ってこちらは整然とした印象がある。
そこから三階に続くエスカレーターの前にはパワードスーツが二人立っていて、ナイスミドルが軽くうなずくと俺達を無言で通した。そして到着した三階にはエスカレーターの前にバリケードが構築されていて、パワードスーツ五人がいた。