8.パワードスーツに興味がある
全く違う連中が同居している巨大な空間は、思ったよりも穏やかな雰囲気だった。まあ確かにむきむきのおっさんやごついパワードスーツが何体かいるので物騒というか、なんとも言えない雰囲気はある。
「駿ノ助、なに考えてるの」
考え事をしてるとファンに声をかけられた。
「いや、意外と穏やかだなと思ってな」
「それはね。別にどっちも獰猛ってわけじゃないし」
「それに、今回はどっちにも脅威があるわけだ。案外うまくやってるんだな」
「どっちも結論を出さないでぐずぐずしてるだけだよ」
それはまあ、互いに力を合わせたらいいんだろうけど、そういうのは色々あって難しかったりするからな。なにかよほどのことでも起きれば話は別なんだけども。
「何かあったら、そういう関係も変わるかもしれないな」
「本当?」
「変わらないことなんてないんだよ」
実際、そういうことは案外ありふれてる。
「ふーん」
ファンの表情はいかにも納得していないものだった。まあ一人で突っ走るような奴だし、こいつが納得できないのはわかる。
「まあ、そうなった時のことも少しは考えとけよ。別にお前だってあっちの連中が全部憎いわけじゃないだろ?」
「別に、憎んでなんてないけど」
「そりゃよかった」
それから俺はパワードスーツを装着したナイスミドルの兵隊達を見る。ちょうど交代の時間のようで、二体のパワードスーツの背中が開いて装着者が出てきていた。これはいいタイミングだな。
「おーい、ちょっとちょっと」
俺はできるだけのんきな感じで声を出してそっちに近づいていく。時間はあったからちょっと雑談くらいはするようにしていたので、無視されることはない。
二人の装着者はどっちも若くて、渡辺という女と鈴木という男だった。悪い連中じゃない。
「駿ノ助さん、何か用ですか?」
「渡辺さんよ、そろそろそのパワードスーツについて教えてもらいたいんだけどな」
「岸見様のお許しがありません」
「いやいや、ちょっとだけだからさ」
俺が頼み込むと、渡辺は助けを求めるように鈴木に視線を向けた。
「それは駄目ですよ」
鈴木のほうはあっさりと首を横に振る。
「そこをなんとか頼むよ。別にそいつを装着させてくれってわけじゃないんだしさ」
「そう言われても駄目なものは駄目ですよ」
鈴木はそう言ったが、どうも何か含みがある感じがするな。ここはもうひと押しだ。
「それならあんたらの大将に話を通してくれよ、許可を取るなら直談判しかなさそうだし」
鈴木はごくわずかに笑う。
「わかりました。そういうことなら行きましょう」
あ、これは待ち構えてたな。いつの間にか渡辺が俺の背後に回っていて、俺の逃げ場はなくなってる。まあ、ここはこれに乗るのがお互い都合がいいか。
「よろしく頼む」
鈴木は頷き、俺はナイスミドルの前に連れていかれた。
「駿ノ助と言ったか、何用だ?」
なんとも隙のなさそうなおっさんだよな。
「まあ、単刀直入に言うけど、パワードスーツのことを教えてくれよ」
「最初に見た時から思っていたが、お前は他の蛮人とは違うようだな」
「蛮人っていうのはアレだけど、俺は旅人なんでね」
「そうか、お前が旅人というなら、見せてやろう。渡辺、教えてやれ」
「了解しました」
そうして俺はパワードスーツの説明を受けることになった。説明するのは渡辺だ。
「これは発見者の名前から、川崎四式と呼ばれています。元々の遺物からはかなりの改造が施されていて、数をそろえることが可能になりました」
それから渡辺はパワードスーツの背中のパネルを開き、七インチくらいのコンソールを出した。
「へえ、これが」
そのコンソールを覗き込むと、そこにはゲームでみたようなパワードスーツのステータスが表示されていた。なるほど、ちゃんと部位ごとに耐久度とかあるんだな。
「これは装着してればいつでも見ることができます。川崎四式は数がある程度ありますが、貴重であることは間違いなので、行動不能になって放置することは許されません。緊急時には自爆のためのシステムも用意されています」
でたよ、ロマン装備。鹵獲されないための自爆装置とかロマンだけど、ありきたりと言えばそうだよな。
「自爆って、搭乗者も一緒に弾けるのか?」
「いえ、もちろん脱出します。搭乗者のほうが貴重とも言えますから」
まあ、パイロットに金がかかるのは当然だしな。見た感じハイテク兵器から、それは当然か。そういえば、俺はコンソールの表示理解できたし、装着者になれんじゃないのか?
「ちょっと装着させてみてくれないか?」
俺の一言に渡辺はため息をついた。
「そんなこと出来るわけないでしょう。仮に許可が出たとしても、装着者ごとに細かく設定をしないといけないので、すぐにというのは無理です」
まあ、こういった兵器は繊細なもんか。
「わかった、まあ今回はそういうことでいいや。それで、こいつはどんな武器を装備してるんだ?」
そう聞いてみると、渡辺はナイスミドルに視線を向け、うなずいたのを見てから口を開く。
「武装はなんでも持てますが、内蔵もされています。主に近接戦闘用の非殺傷武装ですが」
「へえ、案外平和的なんだな」
「当然です、我々は文明を受け継ぐものですから」
「じゃあ、その銃もそういうものなのか?」
「あれはいくつかのモードがあります。殺傷能力を抑えて制圧目的にも使えます」
なるほどね、じゃあ最初の時も話せばわかったんだろうか。いや、あの状況じゃあれで仕方がないだろ。
「そいつも遺物か」
「ノリト三式と呼ばれています。信頼度の高い我々の標準装備です」
「ふうん」
こいつらの兵器だけじゃなく、生活も気になってきたな。あの廃墟でどんな生活をしてるんだろうか。文明を受け継ぐとか言ってるし、けっこういい生活してそうだよな。
「解説ありがとさん。そのうちあんたらの所に行ってもっと詳しく教えてもらうよ」
「その時は歓迎しよう」
ナイスミドルの声が響いた。こうして目をつけられるのは何か複雑な気分だ。まあ、あっちもそのうち見てみたいから、つながりを持っておくのは悪いことじゃない。
とりあえず、この話はここまでにしてファンのところに戻ることにした。