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6.エイリアンの脅威というより、おっさんが驚異

 地下水脈に到着し、俺はその光景に見とれていた。写真でしか見たことがない鍾乳洞といった様子で、俺達の持つ光が水面に反射してすごく神秘的だった。


「こんな景色を実際に見るのは初めてだ」

「そうだな、確かにここは美しい! だが用心が必要だぞ!」

「まあ、そうだよな」


 俺はうなずいて神秘的な光景を敵を探す目で見まわしてみる。だが、やっぱり俺には何もわからない。


「おっさん、フィグメントはここにいるのか?」

「わからん! とりあえず気配は感じないが、今はまだいないというだけかもしれないからな!」

「じゃあ、まだここには来てないってことなのか?」

「そうかもしれんな!」

「それじゃあ待たなくちゃ駄目ってことか」

「その通り!」


 そういうわけで、俺とおっさんは神秘的な光景の中でフィグメントが現れるのを待つことになった。筋肉の塊みたいなおっさんと二人きりというのはロマンチックなものではないが、まあ景色はいい。


 そうして俺達がてきとうな場所に座ってからしばらくして、水面にわずかな動きが出てきた。


「おっさん、あれは?」

「あれはただの動物であろうな! 地下水脈にはそれなりに色々な生物がいるのだ! 食ってうまいのもいるぞ!」

「へえ、貴重な蛋白質か」

「む、駿ノ助殿! 妙な気配が現れたぞ!」


 おっさんは緊張した声を出して立ち上がり、俺はその視線の先を目で追う。それは一際大きな鍾乳石で、俺には特に変わったものには見えなかった。


「俺には何もわからないけど」

「いやフィグメントとは少し違う気がするが、何かがいる!」


 声の様子からして、おっさんはけっこう危機感を持っているようなので、俺も気を引き締めておく。そして数秒後、鍾乳石が突然落下して水に派手に落ちると同時に弾け、一気に霧のようなものが広がった。


「ふん!」


 そこでおっさんが両手を胸の前で打ち合わせた。そこから発した強烈な衝撃で霧のようなものは吹き飛び、鍾乳石が落ちた水面にはなんというか、触手の塊としか言えないような気味の悪いものが蠢いていた。


「おっさん、あいつは?」

「わからん! あんなものは見たことがない!」

「でも、見るからにやばそうな奴だぞ」


 次の瞬間、無数の触手が伸びてきたが、おっさんは一瞬でそれを弾き返していた。なんつう速度の拳だよ。


「中々の力強さではないか!」


 おっさんは軽く手を振ると力強く足を踏み出した。その姿はなんというか、あっちの化物よりもよほど迫力がある。触手がおっさんに襲いかかっているが、それは一本も到達する様子はない。


 そうこうしている間に、おっさんは触手の塊の目の前まで到達し、一瞬でそれを両手でつかみあげていた。触手の塊は激しく蠢くが、おっさんのパワーで左右両側から押さえこまれてそれだけが精一杯のようだった。


「ふむ、こうしてみると可愛げがあるな!」


 いや、それはない。それはそうとして、おっさんは触手の塊をつかんだままこちらに戻ってきて、それを地面に押さえつけた。


「駿ノ助殿、この生物を持ち帰ることにしよう!」

「あ、ああ。じゃあ」


 俺がリュックサックの中身を出していると間に、おっさんの両手から光が溢れ、それが触手の塊を包み込んでいた。


「これでよし!」


 そう言っておっさんは俺が差し出したリュックサックにそれを突っ込んだ。


「おっさん、その技は?」

「これは勇者奥義その二十一だ! 防御や拘束に役立つ!」

「ああ、そういう」


 勇者奥義とか言われたら納得するしかない。


「本当はもっと探索したいところだが、今日はこれを持って帰ることにしよ

う!」


 まあ、あんな危険物をもってうろうろするのもあれだし、正直帰りたい気分もあるので、おとなしくおっさんのリュックサックを背負って歩き出した。


 そうして拠点にまで戻ってくると、おっさんはリュックサックの中の光の塊を取り出すと、それを地面にめり込ませた。


「駿ノ助殿! 悪いが街に戻ってこのことを父上に知らせてはくれまいか!」

「わかった、そんなものを街に持ち込むわけにはいかないよな」


 俺はおっさんを残して街に戻ることにする。途中で能力が切れたのでやっとの思いでウェイタン爺さんの家にたどり着いた。そこにはファンがいて、俺のことを見て首をかしげていた。


「駿ノ助、おじさんと一緒だったんじゃないの?」


 おれはとりあえずリュックサックを置いて腰を伸ばす。


「まあ、色々あってな。下で変なものと出くわしたんで、爺さんに知らせにきたんだ。おっさんはそれを見張ってる」

「なるほど、そういうことならば見に行かねばなるまいな」


 いつの間にかウェイタン爺さんが現れていて、ファンの背中を軽く叩いた。


「ファンよ、行くぞ。詳しく調べる必要がありそうだ」

「わかった」

「駿ノ助君、悪いが準備が出来るまで少し待っていてほしい」

「ああ、少し休みたいし、ゆっくり準備してくれ」


 それからしばらくして、爺さんとファンは準備を完了していた。そういうわけで、俺もリュックサックを背負って二人の先を歩くことにする。重いな。能力の有効範囲とかはちゃんと検証しないとだ。


 そうして拠点に到着すると、そこではおっさんが戦っていた。とは言っても、あの触手の塊を一方的に蹂躙しているだけだったけども。


「ふむ、たろうがここにいたのは幸運であったな」

「おじさんがきたからあれが暴れてるのかもね」

「それも考えられるかもしれんが、それは自殺行為だな。たろうに勝てる生物なぞ、そうそういるものではない」


 それは言えてる。あのおっさん、人間というより怪獣と言った方がいいし。


「とりあえず、たろうがあれを片づけるまでここで見ているのがよかろう」


 爺さんの意見に全く異存はなかったので、ほんの少し待つと、おっさんはすぐに触手の塊を全て制圧していた。それからおっさんは俺達に手を振る。


「父上! 見たことのない何かを捕らえましたぞ!」

「ここに檻が必要であろうな」


 爺さんは地面でのびている触手の塊を見回してつぶやく。


「たろうよ、悪いが駿ノ助殿と一緒に檻の資材を取ってきて欲しい。ここはわしが抑えておこう。ファンよ、お前は危険のない範囲でこれを調べるのだ」


 そう言って爺さんが手を振ると、転がっている触手の塊達が光の鎖と言えるようなもので拘束された。ファンは早速それに近づいて行くが、それを見届けるよりも早くおっさんの声が響く。


「わかった! 駿ノ助殿! 急ぎ街に戻るとしよう」


 というわけで、俺はまた街とダンジョンを往復することになった。

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