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5.俺の日常とダンジョン探索の始まり

 大体三日後の夜、とは言っても外の空はずっと灰色だし、ここは地下だから時間の感覚はつかみにくい。俺はそんな時間に、今の自宅であるトレーラーハウス的なところでお湯を沸かしていた。


「しかしまあ、地下で生活するっていうのも慣れないけど新鮮なもんだな」


 俺はすっかりここに居ついているカラスに話しかける。


「それにしてはすでに馴染んでいるように見えるぞ」

「まあ、のんびりできてるし、けっこう楽しいからな。このチャチもそんなにまずくないし」


 俺はテーブルの上の青いバナナ的なものを指で弾いてから立ち上がった。


「そろそろ寝るかな。お前もたまには帰った方がいいんじゃないか」

「お前が生きている間くらいならば何も問題はない」

「はあ、そういうもんか。じゃあおやすみ」


 俺はベッドに横になって布団をかぶった。


「駿ノ助殿! 駿ノ助殿!」


 ぐっすり眠ったと思ったら、勇者のおっさんの声に起こされて俺は目を覚ます。


「ちょっと待ってくれよ!」


 俺はすぐに起き上がってドアを開けた。そこにいるおっさんは相変わらず筋骨隆々で暑苦しい。今日はいつもより分厚い感じのつなぎ姿だ。


「まだ早いと思うんだけど、何かあったのか?」

「幸いにして何もないぞ! だがそれを維持するためにも見回りをしなければな!」

「まあ、それはそうか。でも準備があるからちょっと待っててくれよ」

「そうだな! では外で待っていよう!」


 おっさんは背を向ける。俺はドアを閉じてから急いで着替えてチャチを食べると外に出た。


「で、見回りっていうのはどこからやるんだ?」

「ここよりさらに地下だ!」

「ひょっとしてダンジョンなのか?」

「うむ、そうだな! 見つかったのはつい最近なのでまだ大して探索できてないのだ! もしかするとそこにフィグメントが巣食っているかもしれん!」

「なるほどね、そうなるとそれなりの準備が必要だと思うんだけどな」

「それなら心配いらんぞ!」


 おっさんは背後にある荷車を指さした。そこには巨大なリュックサックが二つある。あれに必要なものが詰めてあるわけか。重そうだけど、おっさんと一緒なら問題ないな。


「では出発だ!」


 おっさんは荷車を引いて歩き出した。その後をついていくと、俺達はどんどん地下に降りていき、下が見えない階段の前に立っていた。


「よし! それでは降りるぞ!」


 おっさんはリュックサックを軽々と両手に持ち上げると、一つを差し出してくる。とりあえず俺はそれを受け取るがこれが重くて地面に落としてしまった。確かに巨大だが、ここまで重いとは思わなかった。


「駿ノ助殿! どうなされた!?」

「いや、思ったより重くて驚いただけだよ」


 そう言って俺はおっさんを対象に能力を使ってからリュックサックを持ち上げる。


「うむ! では出発だ!」


 おっさんはリュックサックの側面に収納されていた棒を手に取ると、それを強く握りしめた。すると、棒全体がぼんやりと光りだす。なるほど、松明みたいなもんか。俺も自分の分を手に取ってその棒を強く握ってみた。


「おお、けっこう明るいな」


 その光る棒で足元を照らしながらおっさんに続いて階段を降りていく。


「この階段ってどこまで続いてるんだ?」

「なに、もうすぐだ!」


 それから数分後、おっさんの言葉通りに階段は終わり、妙に人工的な雰囲気を受ける巨大な空洞に到着していた。俺は松明的な棒で周囲を照らしてみてため息をつく。


「これはすごいな。まるごと遺物ってやつなのか?」

「うむ、まだわからないがな! かつて人の手が入ったのは間違いがないぞ!」

「これがばれたら岸見って貴族が黙ってないだろうな」

「はっはっは! そうであろうな!」


 おっさんは豪快に笑うと、リュックサックを足元に置き、その中からカンテラみたいなものを取りだした。


「それは?」

「うむ、これはこうするのだ!」


 おっさんはカンテラみたいなものを地面に思い切りたたきつけてめり込ませる。すると、それはまぶしいくらいの光を発してこの空間を明るく照らし始めた。


「数日はこれで輝き続けるのだぞ! とりあえずここに拠点をつくっておこうではないか!」


 そう言っておっさんはリュックサックからテントやらなんやらを出しててきぱきとキャンプを設営していく。


「キャンプって言うことは、何日かここで頑張るのか?」

「いいや、今回は日帰りだぞ! 探索したいという者が多くてな、そのために準備を進めているところなのだ!」

「つまり、この見回りはそのついでってことか」

「はっはっは! 効率的だろう!」


 そう笑いながらもおっさんは手を止めずにてきぱきとキャンプを構築していき、作業はあっという間に終わっていた。


「よし! それでは先に進むとしよう! 駿ノ助殿、そのリュックサックを」

「ああ」


 俺がリュックサックを置くと、おっさんはその中から並のサイズのリュックサックを二つ取り出した。その一つを俺は受け取って背負い、歩き出したおっさんの後に続く。おっさんはいくつかある道のうちの一つに迷わず入っていき、どんどん進んでいく。


「なあ、どこに向かってるんだ?」

「とりあえず現在確認されている最深部だ! 地下水脈があってな、中々のものだぞ!」

「へえ、そりゃ見てみたいな」

「何事もなければ多少距離があるだけだ! 心配はいらない!」

「はあ、遠いのか」


 俺はため息をついて歩き続けるが、それから数分後、おっさんが突然足を止めた。


「駿ノ助殿、何かよからぬ気配がする」


 さすがに抑えた声でそう言うと、おっさんは周囲を照らし注意深く観察する。俺達が今いる場所はちょうど身長の倍くらいの高さと横幅がある場所で、先は分岐している。


「俺にはわからないけど、その気配ってのはこの先からなのか?」

「おそらくそうであろう」


 それからおっさんはゆっくりと慎重に進み、時間をかけて道が分岐している場所まで到達すると、おっさんは再び立ち止まり、光る棒を俺に差し出してきた。


「駿ノ助殿、周囲の警戒を」

「了解」


 俺は両手の光る棒で周囲をくまなく照らし、おっさんは周囲を鋭い目で観

察する。


「そこか!」


 おっさんはいきなり垂直跳びをすると、天井をつかんだ。そしてその強力な握力で天井の一部をつかんで落ちてくる。おっさんはつかんだ天井の一部を地面に押さえつけた。その天井の一部はまるで生き物のように激しく暴れている。


 だが、おっさんの驚異的なパワーの前では悪あがきでしかない。


「おっさん、そいつ、フィグメントだろ、どうするんだ?」


 俺が聞くと、天井の一部を完全に制圧していたおっさんは顔だけこっちに向けた。


「案内をしてほしいところだが、今は片づけるしかないな!」


 次の瞬間、おっさんの握力でその手の中のフィグメントは砕け散り、ただの砂となって下に落ちていた。おっさんは手を払って立ち上がると、俺に向けて豪快な笑顔を向けた。


「どうやら、ここにフィグメントがいるのは当たっていたようだ! 駿ノ助殿、注意して進むとしよう!」

「ああ」


 まさかダンジョンでエイリアン探索をするとは思わなかった。

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