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3.新しい生活

 ファンに案内されてついた家は、まあ海外のドラマなんかで見るトレーラーハウスっていう感じのものだった。


「ちょっと古いけど、ちゃんと手入れはしてるから」


 ファンがドアに手を触れると、鍵が開く音がした。ひょっとして魔法か?そうして家の中に入ってみると、簡素なテーブルと椅子、それにキッチンがあった。奥のドアはトイレかな。


「一応水はきてるから、トイレは使えるよ」

「あっちのコンロも使えるのか?」

「すぐに使えるようにはできるよ。色々持ってくるから待ってて」


 それだけ言ってファンはさっさと出て行ってしまった。


 さて、取り残されたわけだが、周囲の散策ってわけにもいかないし、とりあえずこの室内を探索するとしようか。


 室内はまあ細長い十二畳ってところで、窓は左右の顔くらいの位置にあって明かりをつけなくても字を読んだりしなければ問題はない。と考えていると、窓が外から叩かれた。そっちを見てみると、いつの間にか姿を消していたカラスがいたので、窓を開けて中に入れる。


「どこに行ってたんだ?」

「なに、ここは中々興味深い世界だったのでな。少し見て回ってきたのだ」

「それで、何か面白いことはあったのか?」

「どの世界もそれぞれに興味深いものだ」

「そんなもんか。ああ、詳しいことは教えてくれなくていい。知る楽しみがあったほうがいいから」


 俺の言葉にカラスは首をかしげて見せると、テーブルの上に移動した。


「そういうことであれば何も言うまい」

「まあ、聞きたいことがあればこっちから聞くさ」


 というわけで、俺は室内の探索を再開することにした。キッチンにはけっこう広いシンクと三つのコンロ、それでトイレらしいドアを開けてみると、馴染みのある洋式便器があった。天井にタンクがあるし、水洗らしい。


「なんというか、この世界は本当にちぐはぐだな。一体どんな歴史があるんだか」

「調べてみたらどうだ」

「それは中々骨の折れる作業になりそうだな。でもまあ、余裕ができたら調べてみるのも悪くないか」


 そういえばこっちの世界に来てからろくなものを食べてなかったな。バイクにあった味気ないシリアルバーみたいのだけだった。ここに何か保存食みたいなものでもないかな?


 とりあえずキッチンの戸棚や引き出しを全部開けてみよう。で、色々漁ってみるとラベルも何もない缶詰が一個見つかった。


「中身もわからないし、缶切りもないんじゃな」


 とりあえず缶詰をテーブルの上に置いて、椅子に座る。


「それにしても、上下水道があるのは驚きだな。これでインターネットでもあればいいんだけど」

「それはあっても遺物としてであろうな」

「だよな。まあ、期待しないでおこう」


 それから缶詰を転がしたりして待っていると、しばらくしてからファンが戻ってきた。両手に布の袋を持ち、服もつなぎのようなものに着替えていた。


「あれ、缶詰なんてあったんだ」


 そう言いながらファンは袋をテーブルの上に置いて椅子に座ると、見た目バナナみたいなものを取り出した。青いけど。


「チャチっていうこの街の特産。そんなにおいしくはないけどね」

「皮をむいて食べればいいんだよな」

「皮はまた別の使い道があるから」

「へえ」


 バナナと同じように皮をむいてみると、中からはバナナとそっくりの白い果肉が出てきた。一口食べてみると、思ったよりも歯ごたえがあって、ほのかに甘い。でもまあ、これは果物っていう甘さじゃない。


「思ったよりいけるな」

「でもそれだけじゃ飽きるから、大体何かをつけて食べるの」


 そう言ってガラスの瓶を取り出した。その中には赤いものが入っている。ケチャップみたいなものかな?


「これ、ちょっと辛いけど」


 ファンはその中身をスプーンですくって差し出した。俺はチャチをそれにつけてまた一口食べてみた。ほどほどの酸味と辛みがあってけっこういい。


「うまいな」

「栄養はけっこうあるし、沢山取れるから量は食べられるよ。まあこれだけなんだけど」

「なるほどねえ」


 俺は瓶とスプーンを受け取ると、残りも同じようにして食べきった。まずいというものではないし、腹も膨れるから悪くはないな。そういうわけで皮はファンが用意していた袋に入れた。


「で、他には何を持ってきてくれたんだ?」

「ちょっと待ってよ、他には、と」


 次にファンが袋から取り出したのは、ただの金属の棒に見えるものだった。


「これはコンロの燃料。魔力が込めてあるの」

「へえ、魔力ねえ」


 棒を持ち上げてみると、思ったよりもずっと軽い。


「中々良さそうな燃料だ」

「そうでしょ」


 そう言ってファンはコンロ下部にある蓋を開けて棒をその中に設置した。ちなみにコンロはでかくてテーブルくらいのサイズがある。ファンはそれから片手鍋を取り出し、蛇口から水を注いコンロに置くと、つまみをひねって火をつけた。


「へえ、使い方は簡単なんだな」

「まあね、それからこれ」


 さらにファンは金属の急須みたいなものを取り出すと、その中に小袋から茶葉みたいなものを入れた。そしてお湯が沸いてからファンはそれを急須に注ぐ。


「これはさっきお爺ちゃんが出したお茶。病気の予防になるんだよ」

「そういうのだったのか。まあ、この味は悪くないからいいけど」

「さっきのチャチとこのお茶があれば生きてはいけるから」

「そりゃいい。でも、これを持っていかなかったっていうことは、あんまり長持ちはしないのか?」

「それは衝撃に弱いから。ちゃんと保存すれば長持ちするよ」

「それなら安心だな」

「そういうこと、この袋には沢山入ってるから」


 ファンは布の袋を出してテーブルの隅に置いた。


「あとは小物類が色々あるから、てきとうに置いておくよ」


 ファンは袋を持つと、部屋中に色々なものを置いていった。俺はとりあえずそれを見ながら、後でそれを確認しようと思う。


「さて、じゃあ街を案内するから着替えて」


 そう言ってファンは袋から畳まれたつなぎの上下と下着をテーブルの上に置いた。


「今の駿ノ助の恰好じゃ目立つし、そんないい服はとっておいたほうがいいでしょ」

「それもそうだな」

「外で待ってるから」


 ファンは外に出て行き、残された俺は服を着替えてみる。予想通りごわごわしてるが、まあそれほどひどい着心地というわけでもない。これで悪目立ちすることはないし、存分にここを見て回ることが出来そうだ。

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