14.準備色々
「なんだこりゃ」
目の前の物に思わず声が出ていた。場所はショッピングモールの地下深く、目の前にあるものは今まで見たパワードスーツとは別物の存在感を放っていた。
まず、大きさがほぼ倍。そして太い両腕に、肩に装着された二つの砲塔。そして背中の巨大なバックパックと、これまたぶっとい足。こいつは乗るタイプのロボットだな。
「これは一度も起動に成功したことがない遺物だ。川崎四式よりもはるかにパワーが上だと推測されている」
「なぜこれを見せた」
それ、俺も聞こうと思ってた。ナイスミドルは高木の問いにため息をつく。
「これを起動するには適合する人間が必要らしい」
「つまり、俺達が適合するかどうか試してみたいってわけか」
「そういうことだ。この程度の協力はしてもらわなくてはな」
「わかった」
高木は返事をしてから、俺に視線を向ける。まあ、俺としてもそれくらいなら別に問題はないか。このナイスミドルはそこまでひどい暴君でもなさそうだから、起動したところで、無差別に暴れまわらせることもないだろう。
「それで、どうすればいいんだ?」
「ついてこい」
ナイスミドルに先導されて俺達はロボットの元に移動した。それからその前方の床に描かれた円を指さす。
「そこに立てばわかる」
高木がすぐにその円の中に入ると、ロボットの頭部のカメラらしきところから緑色の光が照射された。あれは色々スキャンしてるわけだな。数秒後に光は止まり、それ以上のことは何も起こらなかった。
「駄目だったようだな」
次は俺か。だが、俺が円の中に入っても何の反応もなかった。
「どういうことだ?」
ナイスミドルは困惑しているようだった。どうやらこういうことは初めてらしい。
「壊れたのかな?」
「そんなはずはない。今までこんなことは一度もなかった」
それからナイスミドルは人を呼んでロボットの調査を始めたが、異常は発見できなかったようだった。その間に高木はいつの間にか姿を消している。
調査を終えたナイスミドルは俺のところにやってくると、高木が消えたのは別に気にせずに口を開く。
「何も異常は見当たらない。お前を調べた方がいいのかもしれんな」
「いや、とりあえず今はそういうのはやめてくれ」
「ふむ、まあいい。新しいことがわかった、それだけでも大きな収穫だ」
「それじゃあ、俺は戻っていいよな」
「かまわん」
俺が地下から出ると、そこにはリュックサックを持った高木が待っていた。
「あれは危険そうだな」
「でもな、動かせたらかなり強そうだ」
「動けばだ」
そりゃそうだ。
「それより、そろそろ準備をする」
「そういうことなら手伝う」
俺達が外に出ると、そこではパワードスーツ部隊が忙しそうに動き回っていた。
「で、準備ってのは何をやるんだ?」
「武器と弾を置いておく」
「ああ、手で持てる量は限界があるもんな」
「そういうことだ」
「でもな、戦ってる時に置いといた場所とか、自分の位置とか気にしてられるのか?」
「経験だ」
俺にはそれがないんだよな。そういえば、武器を決めるのを忘れてた。
「なあ、あんたのリュックには何が入ってるんだよ」
「ナイフと弾だけだ」
「俺が使えるようなもんじゃないな」
「自分で探せ」
まあ、そうだな。
「駿ノ助!」
声をかけられて振り返ると、ファンがでかいハンマーを担いできていた。
「これ武器にいいんじゃない?」
俺はそれを受け取って軽く素振りしてみる。この風を切る音、中々いい感じだ。
「これはいいな」
「沢山あったから、いくらでも使えるしね」
沢山、ならこれでいいか。
「よし、じゃあこいつを持ってこよう。ファン、これ沢山あるよな」
「まあね」
そういうわけで、俺はファンに案内されてハンマーを取りに行った。倉庫にはサイズ違いも含めて山積みだったのでとりあえず持てるだけ持っていく。そうやって何回か往復して二十本確保してから、てきとうな場所に転がしておいた。
「順調か?」
一通り終わって休んでいると、そこにカラスが舞い降りてきた。
「まあ、それなりじゃないか」
「強力なものがいるようだな」
「ああ、高木っていうんだ。かなり強い奴だぞ」
「ふむ、興味深い」
それはまあ、高木は明らかに異質だしな。
「で、もうすぐフィグメントが攻めてくるわけだけど、何かアドバイスはないか?」
「お前ならば問題はあるまい」
「いや、それがだいぶ苦戦したんだよ。高木がいなかったらどうなってたことか」
「大変だったようだな。だが、お前が力を使いこなせればそこまで苦労もしなかったはずだ」
それは確かにその通り。
「力があっても技術とか武器がないんだよ」
「確かにそうであるな。だが、それはお前が取り組むべき問題だろう」
それも確かにその通り。まあ、そこまで与えられたら面白くないしな。
「言えてる。だからああしてハンマーをばら撒いて沢山使えるようにしといたんだ。高木の真似だけどな」
「他人に学ぶのは良いことだ。それでは、頑張れよ」
そう言うとカラスは飛び去って行った。あいつ絶対楽しんでるな。でも頑張るしかないのも事実だ。とりあえず高木に戦い方でも聞いておこう。
「おーい」
腕を組んで仁王立ちしていた高木に声をかけたが、反応がなかったので前にまわった。
「俺はフィグメントとどう戦えばいいかな?」
「お前の力ならあのハンマーで破壊できるだろう。とにかく動かなくなるまで殴ればいい」
「疲れそうだけど、それが一番か」
「ここの連中を助けてやるといい。俺にその余裕はない」
「できるだけ早く片づけてくれよ。俺はこれからもここには厄介になるつもりなんだから」
「努力しよう」
うまくいくといいけどな。でもどうにもすんなりといく気がしない。